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第27話 戦場へ
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入学試験の次席でありながら、学校での成績がほどほどに良かった僕は、今回の実戦参加で前線部隊へ配属されることとなった。本来なら優秀なものは後方で指揮を見たり、実際に学生部隊を動かしたりするのだが――。
「日頃の行いだね」
「悪いことなんて、してるつもりないんだけどな」
「バルト、模擬戦以外はてんでダメだもん。それに、模擬戦だって一度も勝ったことないでしょう?」
「まあ……」
座学試験では【普通】スキルのおかげでいつも全体の5割くらいの順位にいるのだが、模擬戦ではどんなに強い相手でも、逆に弱い相手でも勝つことも負けることもなく終わってしまう。困っているのは僕だけでなく、学校側も僕の評価に相当苦しんでいるようだ。
「ま、君が強いことをボクは知っている。だから今回もバルトの前線部隊に志願したよ」
「えっ?! ダリオンの成績なら後方支援に行けたんじゃないか?」
ダリオンはBクラスでもイシュクルテに次いでトップの成績だ。模擬戦こそ勝率は低いが、座学での成績だけ見れば学年トップだろう。そんな彼がわざわざ危険な場所に志願しなくても良かったはず。
「だからこそだよ。騎士学校にいる間に経験を積んでおかないと、後が困るだろ? それに危険があってもバルトが助けてくれるからね」
助けるかどうかはさておき、彼なりに未来を見据えているのだなと感心した。
実戦参加の前日、夕食後の腹ごなしに地下に配置された男女共用の自主訓練場へ向かうと、イシュクルテとエリシアが剣の訓練をしていた。いや、どちらかと言えば剣の指導か。イシュクルテが手取り足取り、身振り手振りを使ってエリシアに教えている。
「もう! なんでこんなに不器用なのかしら!」
ツンデレお嬢様キャラからは聞いたことのない怒りの声で投げやりになるエリシア。
「前よりは断然良くなっているわ。もう少しで自分に合う形を作れると思うから、次は左肘を二度傾けてみて」
母のように優しく、なおかつ冷静に分析して教えているイシュクルテ。これも彼女の才なのだろうか。
ふと自分が覗き魔のような格好をしていることに気がついた。それに、この場に混ざるのは少々気まずいので寮に帰って寝ることにした。
「どこ行くのよ、バルト・クラスト」
「あ……」
エリシアはどうやら僕の気配に気づいていたようで、こちらを見ることもなく僕を引き留めた。
「ええっ、バルト?!」
「や、やあ2人とも」
乱れた髪を急いで直すイシュクルテと「肘を二度、肘を二度……」と呪文のように呟きながら試行錯誤するエリシア。
「2人が楽しそうにしてたから僕は帰るよ」
「そ、そう……」
「良いじゃない、一緒にやれば。貴方も自主訓練に来たのでしょう?」
「まあそうだけど」
「嫌な理由でもあって?」
「無いです」
ということで僕も訓練場の片隅で木剣を振るうことにした。
どれだけスキルの恩恵があっても、基礎が成っていなくてはいつか身体が砕けてしまうのではと心配になる。今のところどこかに痛みが出るとか、精神的に不安定になるとかそういうことは無かったけど、これから怒らないとは限らない。ある程度の余裕を持って体力作りをしておくことで、いつか来るかもしれない“何か”に備えるのだ。
「ちょっと、貴方のせいでイシュが集中してくれないんだけど!」
「ええ……」
「わわわわ、私はそ、そんなことッ……!」
「あるだろうが!」
結局、寮へ帰ることにした。
◇◇◇◇◇
「バルトのどこが好きなんですの?」
「えっ?!? 私はその……」
「隠さなくても分かりますわ。人種の壁なんて、あって無いようなものです。男なんて簡単に落ちますのよ」
「気にしているのはそこじゃなくて、私のスキルが――」
◇◇◇◇◇
「魔物に囲まれた! 応援はまだか?!」
「早朝に学生部隊が――」
学生部隊が応援に向かったのは騎士団ではなく、とある傭兵ギルドのパーティだった。
「日頃の行いだね」
「悪いことなんて、してるつもりないんだけどな」
「バルト、模擬戦以外はてんでダメだもん。それに、模擬戦だって一度も勝ったことないでしょう?」
「まあ……」
座学試験では【普通】スキルのおかげでいつも全体の5割くらいの順位にいるのだが、模擬戦ではどんなに強い相手でも、逆に弱い相手でも勝つことも負けることもなく終わってしまう。困っているのは僕だけでなく、学校側も僕の評価に相当苦しんでいるようだ。
「ま、君が強いことをボクは知っている。だから今回もバルトの前線部隊に志願したよ」
「えっ?! ダリオンの成績なら後方支援に行けたんじゃないか?」
ダリオンはBクラスでもイシュクルテに次いでトップの成績だ。模擬戦こそ勝率は低いが、座学での成績だけ見れば学年トップだろう。そんな彼がわざわざ危険な場所に志願しなくても良かったはず。
「だからこそだよ。騎士学校にいる間に経験を積んでおかないと、後が困るだろ? それに危険があってもバルトが助けてくれるからね」
助けるかどうかはさておき、彼なりに未来を見据えているのだなと感心した。
実戦参加の前日、夕食後の腹ごなしに地下に配置された男女共用の自主訓練場へ向かうと、イシュクルテとエリシアが剣の訓練をしていた。いや、どちらかと言えば剣の指導か。イシュクルテが手取り足取り、身振り手振りを使ってエリシアに教えている。
「もう! なんでこんなに不器用なのかしら!」
ツンデレお嬢様キャラからは聞いたことのない怒りの声で投げやりになるエリシア。
「前よりは断然良くなっているわ。もう少しで自分に合う形を作れると思うから、次は左肘を二度傾けてみて」
母のように優しく、なおかつ冷静に分析して教えているイシュクルテ。これも彼女の才なのだろうか。
ふと自分が覗き魔のような格好をしていることに気がついた。それに、この場に混ざるのは少々気まずいので寮に帰って寝ることにした。
「どこ行くのよ、バルト・クラスト」
「あ……」
エリシアはどうやら僕の気配に気づいていたようで、こちらを見ることもなく僕を引き留めた。
「ええっ、バルト?!」
「や、やあ2人とも」
乱れた髪を急いで直すイシュクルテと「肘を二度、肘を二度……」と呪文のように呟きながら試行錯誤するエリシア。
「2人が楽しそうにしてたから僕は帰るよ」
「そ、そう……」
「良いじゃない、一緒にやれば。貴方も自主訓練に来たのでしょう?」
「まあそうだけど」
「嫌な理由でもあって?」
「無いです」
ということで僕も訓練場の片隅で木剣を振るうことにした。
どれだけスキルの恩恵があっても、基礎が成っていなくてはいつか身体が砕けてしまうのではと心配になる。今のところどこかに痛みが出るとか、精神的に不安定になるとかそういうことは無かったけど、これから怒らないとは限らない。ある程度の余裕を持って体力作りをしておくことで、いつか来るかもしれない“何か”に備えるのだ。
「ちょっと、貴方のせいでイシュが集中してくれないんだけど!」
「ええ……」
「わわわわ、私はそ、そんなことッ……!」
「あるだろうが!」
結局、寮へ帰ることにした。
◇◇◇◇◇
「バルトのどこが好きなんですの?」
「えっ?!? 私はその……」
「隠さなくても分かりますわ。人種の壁なんて、あって無いようなものです。男なんて簡単に落ちますのよ」
「気にしているのはそこじゃなくて、私のスキルが――」
◇◇◇◇◇
「魔物に囲まれた! 応援はまだか?!」
「早朝に学生部隊が――」
学生部隊が応援に向かったのは騎士団ではなく、とある傭兵ギルドのパーティだった。
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