25 / 61
第25話 出会い
しおりを挟む
僕は息を整え、身を小さく屈めた。奴は足を擦るようにじっくりと近づいてくる。緊張感かもしくは殺意に威圧されてか、僕の鼓動は音を早めた。
(来るか……)
太陽に照らされて伸びる影が少しの揺らぎを見せた時、直感で攻撃がくると感じ拳を握りしめた。
奴はまだ不敵な笑みを浮かべている。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。私の名はグレゴール・ライアン。ライアン先生と呼んでくれたまえ」
ああ、もちろん無視だとも。少なくとも今は彼のことを“先生”などとは思っていないのだから。
「おや、無視は傷つくなあ。これは教育が必要なようだねッ……!」
恐ろしく早い正拳突きを間一髪で避け、反射的にカウンターを仕掛ける――が、それも避けられる。この一連の動きだけで辺りは砂ぼこりがまるで小火のように舞い上がり、風で押し流されていく。
グレゴールの目は冷静に僕を見据えていた。彼の動きは鋭く、そして無駄がない。再び間合いを詰めてきた。僕は焦らずに構えを整える。
突然、彼の姿が消えた。瞬間的に背後に気配を感じ、振り向きざまに肘打ちを放つ。だが、それもまた空を切る。次の瞬間、腹部に強烈な一撃が入り、息が止まる。
「ふっ、まだまだだな。いくらスキルがあろうと君たちには基礎が欠けている」
痛みに耐えながら僕は立ち上がる。視界がぼやけ、身体が言うことを聞かない。それでも負けるわけにはいかない。
グレゴールが再び襲いかかってくる。今度は右フックを狙っている。僕はその動きを読み、体を低くして避ける。相手の腕が空を切った瞬間、僕は全力で拳を突き出した。
拳は確かに当たった。グレゴールの表情が一瞬歪む。しかし、それも一瞬のことで、彼はすぐに体勢を立て直す。次の攻撃を仕掛けるつもりだ。
(次が勝負だ……)
僕は全身の力を集中させ、最後の一撃に賭ける。グレゴールが動いた瞬間、全力で前進し、拳を繰り出す。彼も同時に攻撃を仕掛けてきた。
激突の音が響き、二人の拳が交差する。僕は痛みに顔を歪めながらも、全力で拳を押し込んだ。
沈黙が訪れる。砂ぼこりが風に乗って流れ、視界がクリアになる。目の前には倒れたグレゴールが息を切らしている。
「……勝ったのか?」
「今のは良い攻撃だった」
ニヤリと口角を上げるグレゴールに人生で初めての敗北感が包む。ここから「戦え」と言われても既に体力は限界に近い。そして僕は悟った。
ああ、負けたんだ――と。
予鈴が高々と鳴り響き、授業の終わりを告げた。
「ここまでにしようか。それぞれ土を払って教室に戻るように」
「流石ね、バルト……」
「君凄いじゃないか。あの教師にあそこまで戦えるなんて」
「ふん、アイツが疲れていただけでしょ。それを見越して最後に戦ったに違いないわ」
「そうかなあ? そうだとしても、他の皆は瞬殺だったんだから十分凄いよ」
褒められてもあまり嬉しくはない。あの勝負は完全に僕の負けだった。しかも相当な手加減をされていたに違いない。
僕は「強くなろう」と再度心に言い聞かせた。
―――――――――――――――――――――――
「はあ、はあ、はあ……」
「まさかお前があそこまで追い詰められるとはな」
「……殺されるかと思った」
「はっはっは、まさか……本気か?」
「ああ。アイツはやばい。バルト・クラスト、彼は一体何者なんだ」
―――――――――――――――――――――――――
騎士学校の授業は座学と訓練が交互に行われる。一見、休めると思うかもしれないがこれが案外キツい。一度温まった体を冷やしてからまた動かすというのがとてつもない負荷になっていた。
そんな厳しい授業も一旦終わり、お待ちかねの昼食タイムがやってきた。
「バルト、一緒にお昼どう――」
「ねえ、君。食堂があるらしいんだけど一緒に行かない?」
「あら、私も一緒に行ってあげてよろしくてよ?」
ライアン先生との一件で、やたらと僕に絡んでくるようになったこの2人は、ダリオンとエリシアという。ダリオンは僕と同じく庶民の出で彼もまたスキル持ちだ。そして、このツンデレお嬢様キャラの彼女は子爵家の御令嬢であり、同じくスキル持ちである。身分は違えど2人は幼馴染で仲も良いようだ。
「いいね行こうか。イシュクルテも一緒にどう?」
「う、うん! 行く!」
可愛い……
(来るか……)
太陽に照らされて伸びる影が少しの揺らぎを見せた時、直感で攻撃がくると感じ拳を握りしめた。
奴はまだ不敵な笑みを浮かべている。
「そうだ、自己紹介がまだだったな。私の名はグレゴール・ライアン。ライアン先生と呼んでくれたまえ」
ああ、もちろん無視だとも。少なくとも今は彼のことを“先生”などとは思っていないのだから。
「おや、無視は傷つくなあ。これは教育が必要なようだねッ……!」
恐ろしく早い正拳突きを間一髪で避け、反射的にカウンターを仕掛ける――が、それも避けられる。この一連の動きだけで辺りは砂ぼこりがまるで小火のように舞い上がり、風で押し流されていく。
グレゴールの目は冷静に僕を見据えていた。彼の動きは鋭く、そして無駄がない。再び間合いを詰めてきた。僕は焦らずに構えを整える。
突然、彼の姿が消えた。瞬間的に背後に気配を感じ、振り向きざまに肘打ちを放つ。だが、それもまた空を切る。次の瞬間、腹部に強烈な一撃が入り、息が止まる。
「ふっ、まだまだだな。いくらスキルがあろうと君たちには基礎が欠けている」
痛みに耐えながら僕は立ち上がる。視界がぼやけ、身体が言うことを聞かない。それでも負けるわけにはいかない。
グレゴールが再び襲いかかってくる。今度は右フックを狙っている。僕はその動きを読み、体を低くして避ける。相手の腕が空を切った瞬間、僕は全力で拳を突き出した。
拳は確かに当たった。グレゴールの表情が一瞬歪む。しかし、それも一瞬のことで、彼はすぐに体勢を立て直す。次の攻撃を仕掛けるつもりだ。
(次が勝負だ……)
僕は全身の力を集中させ、最後の一撃に賭ける。グレゴールが動いた瞬間、全力で前進し、拳を繰り出す。彼も同時に攻撃を仕掛けてきた。
激突の音が響き、二人の拳が交差する。僕は痛みに顔を歪めながらも、全力で拳を押し込んだ。
沈黙が訪れる。砂ぼこりが風に乗って流れ、視界がクリアになる。目の前には倒れたグレゴールが息を切らしている。
「……勝ったのか?」
「今のは良い攻撃だった」
ニヤリと口角を上げるグレゴールに人生で初めての敗北感が包む。ここから「戦え」と言われても既に体力は限界に近い。そして僕は悟った。
ああ、負けたんだ――と。
予鈴が高々と鳴り響き、授業の終わりを告げた。
「ここまでにしようか。それぞれ土を払って教室に戻るように」
「流石ね、バルト……」
「君凄いじゃないか。あの教師にあそこまで戦えるなんて」
「ふん、アイツが疲れていただけでしょ。それを見越して最後に戦ったに違いないわ」
「そうかなあ? そうだとしても、他の皆は瞬殺だったんだから十分凄いよ」
褒められてもあまり嬉しくはない。あの勝負は完全に僕の負けだった。しかも相当な手加減をされていたに違いない。
僕は「強くなろう」と再度心に言い聞かせた。
―――――――――――――――――――――――
「はあ、はあ、はあ……」
「まさかお前があそこまで追い詰められるとはな」
「……殺されるかと思った」
「はっはっは、まさか……本気か?」
「ああ。アイツはやばい。バルト・クラスト、彼は一体何者なんだ」
―――――――――――――――――――――――――
騎士学校の授業は座学と訓練が交互に行われる。一見、休めると思うかもしれないがこれが案外キツい。一度温まった体を冷やしてからまた動かすというのがとてつもない負荷になっていた。
そんな厳しい授業も一旦終わり、お待ちかねの昼食タイムがやってきた。
「バルト、一緒にお昼どう――」
「ねえ、君。食堂があるらしいんだけど一緒に行かない?」
「あら、私も一緒に行ってあげてよろしくてよ?」
ライアン先生との一件で、やたらと僕に絡んでくるようになったこの2人は、ダリオンとエリシアという。ダリオンは僕と同じく庶民の出で彼もまたスキル持ちだ。そして、このツンデレお嬢様キャラの彼女は子爵家の御令嬢であり、同じくスキル持ちである。身分は違えど2人は幼馴染で仲も良いようだ。
「いいね行こうか。イシュクルテも一緒にどう?」
「う、うん! 行く!」
可愛い……
42
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
浮気相手の女の名前を公開することにいたしました
宇水涼麻
恋愛
ルベグント王子の浮気癖は、婚約者であるシャルリーラを辟易とさせていた。
二人が貴族学園の3年生になってしばらくすると、学園の掲示板に貼り出されたものに、生徒たちは注目した。
『総会で、浮気相手の女の名前を公開する。
しかし、謝罪した者は、発表しない』
それを見た女生徒たちは、家族を巻き込んで謝罪合戦を繰り広げた。
シャルリーラの予想を上回る数の謝罪文が届く。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!
宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。
そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。
慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。
貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。
しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。
〰️ 〰️ 〰️
中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。
完結しました。いつもありがとうございます!
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる