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第24話 挑発
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「はい、次!」
入学早々、ボコボコにされていく同級生たち。前世の世界で教師がこんなことをしたら大問題どころか新聞の一面に載ってしまうだろう。
「うっ……ありがとうございました」
嗚咽を抑さえながらもなお、礼儀を忘れぬ彼の姿はまさしく騎士の鑑だ。
「行きたくねえよお」
「こんなの拷問じゃねえか」
他の生徒たちはそれどころではないようで、すっかり萎縮してしまっている。これでは実力を発揮しきれないだろう。
「次、早く来い!」
「まったく。これだからBクラスになんて入りたくなかったのさ」
大口を吐きながら前へ出てきたのは、ナルシスト感溢れる男だった。彼は教師の男を指差すと、まるで証拠を突きつけるかのように叫んだ。
「この教師は無能者だ! そんな男に易々と負けているようでは話にならない。即刻自主退学することをお奨めする」
「ほお……?」
教師の口角が不気味に持ち上がる。
確かにこの人はスキルを使ったような仕草は見せなかった。でも、必ずしもスキルを持っていないとは言い切れないし、本当に持っていな買ったとしてもこれだけ多くのスキル持ちの生徒たちを軽く遇らったのだ。そんなに油断をしていて大丈夫なのだろうか。
「君はゼフィロス・マイストラだね。アーティファクトを商いにしている家柄の君がどうしてここにいるのかな」
「先生には関係な――」
「まさか、鑑定眼が使えないのか」
黙り込むゼフィロス、ニヤニヤと嘲るように笑う教師。この2人の戦いも、すぐに決着がついた。
風魔法を全身に纏ったとこまではよかった。しかし、教師の挑発に負けて飛び込んだのが最後、強烈なカウンターを顎に喰らい2メートルほど吹っ飛ばされて終了。
そこから男女関わらずスキル持ちの生徒たちがのされていくわけだが、僕はというと端っこで教師の弱点が無いかと観察していた。
「あ、あの……君」
どこかで聞いたような、無いような。そんな震える声が背後から聞こえた。
「バルトくん、だよね?」
「あ、イシュクルテさん!」
彼女こそ“神託の儀”の際に僕が一目惚れ……じゃなかった、初めて見た竜人族の少女であり、王国近衛騎士団アラン団長の娘でもある。
「まさか同じクラスだったなんて。もっと早く声をかけてくれれば良かったのに」
「いえ、私はその……友達とか要らない派だし」
何だか恥ずかしそうだ。アランさんとは違って結構人見知りなのだろう。
「あの教師、只者じゃないわ」
「やっぱりそう思う?」
「思う、じゃなくそうなのよ」
イシュクルテは近衛騎士団長の娘。だからこそ内部事情には詳しく、この教師のこともよく知っているらしい。
「まともにやっても勝てっこないわ。でもそうね、バルトなら負けないかもしれないわ」
「本当にそう思う?」
「だから、思うじゃなくそうなのよ」
「まだやっていない者はいないか?」
ここまでBクラスの3分の2を相手に完勝。残るは無能力で入学してきた生徒、そして僕とイシュクルテのみ。
「はい、やります」
先に手を挙げたのはイシュクルテだった。男として情けないが、負けないためのヒントがあるかもしれない。
「近衛騎士団長の娘だからって手加減はしないぞ」
「もちろんです」
彼女は正面突破ではなく、俊敏性を生かした動きで錯乱させる作戦に出た。一瞬で背後を取ったが打撃を当てることはできない。教師は彼女との距離を置き、様子を窺っている。
イシュクルテは再度回り込むふりをして、今度は正面から殴りかかった。
「危ない!」
叫んだが遅かった。
彼女の拳を寸前で避け、そのままの体勢で膝を腹部に入れ込んだ。当然、今回も教師の勝ち。
「さあ、君で最後だよ。確かバルトくんだったか、オームでは大変だったようだね」
妙にムカつく喋り方をする奴だと思いながらも、挑発に乗ってはいけないと深呼吸をする。
「実は警備隊の隊長さんとは昔からの中でね、まあ彼女らしい最期だったとは思うけどね」
「……先生、始めましょう」
「ふふっ、そうだね」
側頭部にある血管が1、2本切れる音が聞こえた。
入学早々、ボコボコにされていく同級生たち。前世の世界で教師がこんなことをしたら大問題どころか新聞の一面に載ってしまうだろう。
「うっ……ありがとうございました」
嗚咽を抑さえながらもなお、礼儀を忘れぬ彼の姿はまさしく騎士の鑑だ。
「行きたくねえよお」
「こんなの拷問じゃねえか」
他の生徒たちはそれどころではないようで、すっかり萎縮してしまっている。これでは実力を発揮しきれないだろう。
「次、早く来い!」
「まったく。これだからBクラスになんて入りたくなかったのさ」
大口を吐きながら前へ出てきたのは、ナルシスト感溢れる男だった。彼は教師の男を指差すと、まるで証拠を突きつけるかのように叫んだ。
「この教師は無能者だ! そんな男に易々と負けているようでは話にならない。即刻自主退学することをお奨めする」
「ほお……?」
教師の口角が不気味に持ち上がる。
確かにこの人はスキルを使ったような仕草は見せなかった。でも、必ずしもスキルを持っていないとは言い切れないし、本当に持っていな買ったとしてもこれだけ多くのスキル持ちの生徒たちを軽く遇らったのだ。そんなに油断をしていて大丈夫なのだろうか。
「君はゼフィロス・マイストラだね。アーティファクトを商いにしている家柄の君がどうしてここにいるのかな」
「先生には関係な――」
「まさか、鑑定眼が使えないのか」
黙り込むゼフィロス、ニヤニヤと嘲るように笑う教師。この2人の戦いも、すぐに決着がついた。
風魔法を全身に纏ったとこまではよかった。しかし、教師の挑発に負けて飛び込んだのが最後、強烈なカウンターを顎に喰らい2メートルほど吹っ飛ばされて終了。
そこから男女関わらずスキル持ちの生徒たちがのされていくわけだが、僕はというと端っこで教師の弱点が無いかと観察していた。
「あ、あの……君」
どこかで聞いたような、無いような。そんな震える声が背後から聞こえた。
「バルトくん、だよね?」
「あ、イシュクルテさん!」
彼女こそ“神託の儀”の際に僕が一目惚れ……じゃなかった、初めて見た竜人族の少女であり、王国近衛騎士団アラン団長の娘でもある。
「まさか同じクラスだったなんて。もっと早く声をかけてくれれば良かったのに」
「いえ、私はその……友達とか要らない派だし」
何だか恥ずかしそうだ。アランさんとは違って結構人見知りなのだろう。
「あの教師、只者じゃないわ」
「やっぱりそう思う?」
「思う、じゃなくそうなのよ」
イシュクルテは近衛騎士団長の娘。だからこそ内部事情には詳しく、この教師のこともよく知っているらしい。
「まともにやっても勝てっこないわ。でもそうね、バルトなら負けないかもしれないわ」
「本当にそう思う?」
「だから、思うじゃなくそうなのよ」
「まだやっていない者はいないか?」
ここまでBクラスの3分の2を相手に完勝。残るは無能力で入学してきた生徒、そして僕とイシュクルテのみ。
「はい、やります」
先に手を挙げたのはイシュクルテだった。男として情けないが、負けないためのヒントがあるかもしれない。
「近衛騎士団長の娘だからって手加減はしないぞ」
「もちろんです」
彼女は正面突破ではなく、俊敏性を生かした動きで錯乱させる作戦に出た。一瞬で背後を取ったが打撃を当てることはできない。教師は彼女との距離を置き、様子を窺っている。
イシュクルテは再度回り込むふりをして、今度は正面から殴りかかった。
「危ない!」
叫んだが遅かった。
彼女の拳を寸前で避け、そのままの体勢で膝を腹部に入れ込んだ。当然、今回も教師の勝ち。
「さあ、君で最後だよ。確かバルトくんだったか、オームでは大変だったようだね」
妙にムカつく喋り方をする奴だと思いながらも、挑発に乗ってはいけないと深呼吸をする。
「実は警備隊の隊長さんとは昔からの中でね、まあ彼女らしい最期だったとは思うけどね」
「……先生、始めましょう」
「ふふっ、そうだね」
側頭部にある血管が1、2本切れる音が聞こえた。
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