凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲

文字の大きさ
上 下
20 / 72

第20話 希望の光

しおりを挟む
「ダメだ魔法壁が破られる!」

 場所はオーム領、テラドラック海岸。砂浜のないゴツゴツとした岩が転がる海岸に水性の魔物らが1列になって岸に這い上がってくる。

 海面を埋め尽くすほどの魔物は殺意丸出しで、間違って海面に出てきたわけではないようだ。そんな悍ましい光景を見た者は皆震え上がり、逃げる準備を始める。

「山だ、山へ逃げろ!」

 慌てふためく民衆はもう取り返しがつかない。だが、海と山に挟まれているオームの町で逃げ延びる方法は山に登る他ない。

 警備隊の魔法部隊が遠距離攻撃で凌ごうとするものの、魔物の数は減るどころか増える一方である。

「……町より人命が大優先だ」
 
 領主のピグレット伯爵が苦虫を噛んだような顔で呟くと、警備隊及び冒険者ギルドとそれぞれの区画の長《おさ》は領民の避難誘導を開始。

 山を15分ほど登った“命の高台”と呼ばれる聖域を避難場所とした。
 ここはかつて海神《テラドラック》が怒りを爆発させ辺り一帯を更地にした時、ここに辿り着いた者たちだけが助かったことから聖域と呼ばれるようになったのだそう。

 1万人もの死者を出したこの大災害は、恐らく巨大津波であったのだろうが、それを知らぬ過去の人々は【テラドラックの怒り】と伝え、それを知る者たちは現在起きている魔物の大量発生がその再来ではないかと恐怖していた。

「とにかく聖域まで辿り着けば安心だ」

 山を登り聖域に着いた者たちは皆安堵していたが、これは希望的観測に過ぎない。かつて起きたのは単に自然災害であるが、今回の相手は魔物とはいえ生物なのだ。
 僕は聖域に着いてもなお恐怖心が薄れることはなかった。

「私の旦那はどうなるのですか?!」

「息子も朝から漁に出ていて……」

 この町の男衆のほとんどが漁師。もちろんそれは僕の父も同じだった。
 母は慌てふためくことも泣き喚くこともなく、ただ祈るように震える両手を合わせている。

「母さん、父さんならきっと大丈夫だよ」
「そうね。こんな時こそしっかりしなくちゃね!」

 母は強い人だ。
 やがて最後の最期まで戦い抜いた警備隊員たちが運び込まれた。重症の者や既に息が無くなった者。彼らを見つめる領主の目は悔しさで溢れていた。

「あぁ、家が……」
「俺たちの町が消えて――」

 聖域から望むのは絶景などではない。悍ましい数の魔物に蹂躙され破壊されていく町並み。そんな中、僕は2人の恩人の影を探していた。

「すみません、隊長さんと副隊長さんはどこにいますか?」

 警備隊員のひとりに尋ねると、彼は静かに周りを見回してから「まだ海岸にいる」とだけ呟いた。

「そ、そんな……どうして逃げないのです!?」

 それからは何を聞いても俯き首を振るだけ。

「魔物がすぐそこまで来ているぞ!!」

 誰かが叫んだ。

「だ、大丈夫だ。聖域《ここ》にいれば絶対に穢されることはない!」
「でも、ここには結界が張られているわけでも魔物避けの防柵があるわけでもないぞ……」

 最早、祈ることしか出来なくなった人々は、着々と迫る魔物の足音と鳴き声に恐怖で押し潰されそうになっていた。

「待たせたな、みんな!!」
「……ボルト兄さん?!」

 希望の光はを連れて現れ、意気揚々と僕の前を過ぎて迫り来る脅威に立ち塞がったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~

鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合 戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる 事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊 中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。 終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人 小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である 劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。 しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。 上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。 ゆえに彼らは最前線に配備された しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。 しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。 瀬能が死を迎えるとき とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった

辺境領主の成り上がり記録

twindriveburst
ファンタジー
父親の死去に伴い連れ戻されるやさぐれた青年。 嫌々させられる領主の仕事··· だが、その手腕は驚くほど凄く···!?

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

処理中です...