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第20話 希望の光
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「ダメだ魔法壁が破られる!」
場所はオーム領、テラドラック海岸。砂浜のないゴツゴツとした岩が転がる海岸に水性の魔物らが1列になって岸に這い上がってくる。
海面を埋め尽くすほどの魔物は殺意丸出しで、間違って海面に出てきたわけではないようだ。そんな悍ましい光景を見た者は皆震え上がり、逃げる準備を始める。
「山だ、山へ逃げろ!」
慌てふためく民衆はもう取り返しがつかない。だが、海と山に挟まれているオームの町で逃げ延びる方法は山に登る他ない。
警備隊の魔法部隊が遠距離攻撃で凌ごうとするものの、魔物の数は減るどころか増える一方である。
「……町より人命が大優先だ」
領主のピグレット伯爵が苦虫を噛んだような顔で呟くと、警備隊及び冒険者ギルドとそれぞれの区画の長《おさ》は領民の避難誘導を開始。
山を15分ほど登った“命の高台”と呼ばれる聖域を避難場所とした。
ここはかつて海神《テラドラック》が怒りを爆発させ辺り一帯を更地にした時、ここに辿り着いた者たちだけが助かったことから聖域と呼ばれるようになったのだそう。
1万人もの死者を出したこの大災害は、恐らく巨大津波であったのだろうが、それを知らぬ過去の人々は【テラドラックの怒り】と伝え、それを知る者たちは現在起きている魔物の大量発生がその再来ではないかと恐怖していた。
「とにかく聖域まで辿り着けば安心だ」
山を登り聖域に着いた者たちは皆安堵していたが、これは希望的観測に過ぎない。かつて起きたのは単に自然災害であるが、今回の相手は魔物とはいえ生物なのだ。
僕は聖域に着いてもなお恐怖心が薄れることはなかった。
「私の旦那はどうなるのですか?!」
「息子も朝から漁に出ていて……」
この町の男衆のほとんどが漁師。もちろんそれは僕の父も同じだった。
母は慌てふためくことも泣き喚くこともなく、ただ祈るように震える両手を合わせている。
「母さん、父さんならきっと大丈夫だよ」
「そうね。こんな時こそしっかりしなくちゃね!」
母は強い人だ。
やがて最後の最期まで戦い抜いた警備隊員たちが運び込まれた。重症の者や既に息が無くなった者。彼らを見つめる領主の目は悔しさで溢れていた。
「あぁ、家が……」
「俺たちの町が消えて――」
聖域から望むのは絶景などではない。悍ましい数の魔物に蹂躙され破壊されていく町並み。そんな中、僕は2人の恩人の影を探していた。
「すみません、隊長さんと副隊長さんはどこにいますか?」
警備隊員のひとりに尋ねると、彼は静かに周りを見回してから「まだ海岸にいる」とだけ呟いた。
「そ、そんな……どうして逃げないのです!?」
それからは何を聞いても俯き首を振るだけ。
「魔物がすぐそこまで来ているぞ!!」
誰かが叫んだ。
「だ、大丈夫だ。聖域《ここ》にいれば絶対に穢されることはない!」
「でも、ここには結界が張られているわけでも魔物避けの防柵があるわけでもないぞ……」
最早、祈ることしか出来なくなった人々は、着々と迫る魔物の足音と鳴き声に恐怖で押し潰されそうになっていた。
「待たせたな、みんな!!」
「……ボルト兄さん?!」
希望の光は群勢を連れて現れ、意気揚々と僕の前を過ぎて迫り来る脅威に立ち塞がったのだった。
場所はオーム領、テラドラック海岸。砂浜のないゴツゴツとした岩が転がる海岸に水性の魔物らが1列になって岸に這い上がってくる。
海面を埋め尽くすほどの魔物は殺意丸出しで、間違って海面に出てきたわけではないようだ。そんな悍ましい光景を見た者は皆震え上がり、逃げる準備を始める。
「山だ、山へ逃げろ!」
慌てふためく民衆はもう取り返しがつかない。だが、海と山に挟まれているオームの町で逃げ延びる方法は山に登る他ない。
警備隊の魔法部隊が遠距離攻撃で凌ごうとするものの、魔物の数は減るどころか増える一方である。
「……町より人命が大優先だ」
領主のピグレット伯爵が苦虫を噛んだような顔で呟くと、警備隊及び冒険者ギルドとそれぞれの区画の長《おさ》は領民の避難誘導を開始。
山を15分ほど登った“命の高台”と呼ばれる聖域を避難場所とした。
ここはかつて海神《テラドラック》が怒りを爆発させ辺り一帯を更地にした時、ここに辿り着いた者たちだけが助かったことから聖域と呼ばれるようになったのだそう。
1万人もの死者を出したこの大災害は、恐らく巨大津波であったのだろうが、それを知らぬ過去の人々は【テラドラックの怒り】と伝え、それを知る者たちは現在起きている魔物の大量発生がその再来ではないかと恐怖していた。
「とにかく聖域まで辿り着けば安心だ」
山を登り聖域に着いた者たちは皆安堵していたが、これは希望的観測に過ぎない。かつて起きたのは単に自然災害であるが、今回の相手は魔物とはいえ生物なのだ。
僕は聖域に着いてもなお恐怖心が薄れることはなかった。
「私の旦那はどうなるのですか?!」
「息子も朝から漁に出ていて……」
この町の男衆のほとんどが漁師。もちろんそれは僕の父も同じだった。
母は慌てふためくことも泣き喚くこともなく、ただ祈るように震える両手を合わせている。
「母さん、父さんならきっと大丈夫だよ」
「そうね。こんな時こそしっかりしなくちゃね!」
母は強い人だ。
やがて最後の最期まで戦い抜いた警備隊員たちが運び込まれた。重症の者や既に息が無くなった者。彼らを見つめる領主の目は悔しさで溢れていた。
「あぁ、家が……」
「俺たちの町が消えて――」
聖域から望むのは絶景などではない。悍ましい数の魔物に蹂躙され破壊されていく町並み。そんな中、僕は2人の恩人の影を探していた。
「すみません、隊長さんと副隊長さんはどこにいますか?」
警備隊員のひとりに尋ねると、彼は静かに周りを見回してから「まだ海岸にいる」とだけ呟いた。
「そ、そんな……どうして逃げないのです!?」
それからは何を聞いても俯き首を振るだけ。
「魔物がすぐそこまで来ているぞ!!」
誰かが叫んだ。
「だ、大丈夫だ。聖域《ここ》にいれば絶対に穢されることはない!」
「でも、ここには結界が張られているわけでも魔物避けの防柵があるわけでもないぞ……」
最早、祈ることしか出来なくなった人々は、着々と迫る魔物の足音と鳴き声に恐怖で押し潰されそうになっていた。
「待たせたな、みんな!!」
「……ボルト兄さん?!」
希望の光は群勢を連れて現れ、意気揚々と僕の前を過ぎて迫り来る脅威に立ち塞がったのだった。
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