20 / 64
第20話 希望の光
しおりを挟む
「ダメだ魔法壁が破られる!」
場所はオーム領、テラドラック海岸。砂浜のないゴツゴツとした岩が転がる海岸に水性の魔物らが1列になって岸に這い上がってくる。
海面を埋め尽くすほどの魔物は殺意丸出しで、間違って海面に出てきたわけではないようだ。そんな悍ましい光景を見た者は皆震え上がり、逃げる準備を始める。
「山だ、山へ逃げろ!」
慌てふためく民衆はもう取り返しがつかない。だが、海と山に挟まれているオームの町で逃げ延びる方法は山に登る他ない。
警備隊の魔法部隊が遠距離攻撃で凌ごうとするものの、魔物の数は減るどころか増える一方である。
「……町より人命が大優先だ」
領主のピグレット伯爵が苦虫を噛んだような顔で呟くと、警備隊及び冒険者ギルドとそれぞれの区画の長《おさ》は領民の避難誘導を開始。
山を15分ほど登った“命の高台”と呼ばれる聖域を避難場所とした。
ここはかつて海神《テラドラック》が怒りを爆発させ辺り一帯を更地にした時、ここに辿り着いた者たちだけが助かったことから聖域と呼ばれるようになったのだそう。
1万人もの死者を出したこの大災害は、恐らく巨大津波であったのだろうが、それを知らぬ過去の人々は【テラドラックの怒り】と伝え、それを知る者たちは現在起きている魔物の大量発生がその再来ではないかと恐怖していた。
「とにかく聖域まで辿り着けば安心だ」
山を登り聖域に着いた者たちは皆安堵していたが、これは希望的観測に過ぎない。かつて起きたのは単に自然災害であるが、今回の相手は魔物とはいえ生物なのだ。
僕は聖域に着いてもなお恐怖心が薄れることはなかった。
「私の旦那はどうなるのですか?!」
「息子も朝から漁に出ていて……」
この町の男衆のほとんどが漁師。もちろんそれは僕の父も同じだった。
母は慌てふためくことも泣き喚くこともなく、ただ祈るように震える両手を合わせている。
「母さん、父さんならきっと大丈夫だよ」
「そうね。こんな時こそしっかりしなくちゃね!」
母は強い人だ。
やがて最後の最期まで戦い抜いた警備隊員たちが運び込まれた。重症の者や既に息が無くなった者。彼らを見つめる領主の目は悔しさで溢れていた。
「あぁ、家が……」
「俺たちの町が消えて――」
聖域から望むのは絶景などではない。悍ましい数の魔物に蹂躙され破壊されていく町並み。そんな中、僕は2人の恩人の影を探していた。
「すみません、隊長さんと副隊長さんはどこにいますか?」
警備隊員のひとりに尋ねると、彼は静かに周りを見回してから「まだ海岸にいる」とだけ呟いた。
「そ、そんな……どうして逃げないのです!?」
それからは何を聞いても俯き首を振るだけ。
「魔物がすぐそこまで来ているぞ!!」
誰かが叫んだ。
「だ、大丈夫だ。聖域《ここ》にいれば絶対に穢されることはない!」
「でも、ここには結界が張られているわけでも魔物避けの防柵があるわけでもないぞ……」
最早、祈ることしか出来なくなった人々は、着々と迫る魔物の足音と鳴き声に恐怖で押し潰されそうになっていた。
「待たせたな、みんな!!」
「……ボルト兄さん?!」
希望の光は群勢を連れて現れ、意気揚々と僕の前を過ぎて迫り来る脅威に立ち塞がったのだった。
場所はオーム領、テラドラック海岸。砂浜のないゴツゴツとした岩が転がる海岸に水性の魔物らが1列になって岸に這い上がってくる。
海面を埋め尽くすほどの魔物は殺意丸出しで、間違って海面に出てきたわけではないようだ。そんな悍ましい光景を見た者は皆震え上がり、逃げる準備を始める。
「山だ、山へ逃げろ!」
慌てふためく民衆はもう取り返しがつかない。だが、海と山に挟まれているオームの町で逃げ延びる方法は山に登る他ない。
警備隊の魔法部隊が遠距離攻撃で凌ごうとするものの、魔物の数は減るどころか増える一方である。
「……町より人命が大優先だ」
領主のピグレット伯爵が苦虫を噛んだような顔で呟くと、警備隊及び冒険者ギルドとそれぞれの区画の長《おさ》は領民の避難誘導を開始。
山を15分ほど登った“命の高台”と呼ばれる聖域を避難場所とした。
ここはかつて海神《テラドラック》が怒りを爆発させ辺り一帯を更地にした時、ここに辿り着いた者たちだけが助かったことから聖域と呼ばれるようになったのだそう。
1万人もの死者を出したこの大災害は、恐らく巨大津波であったのだろうが、それを知らぬ過去の人々は【テラドラックの怒り】と伝え、それを知る者たちは現在起きている魔物の大量発生がその再来ではないかと恐怖していた。
「とにかく聖域まで辿り着けば安心だ」
山を登り聖域に着いた者たちは皆安堵していたが、これは希望的観測に過ぎない。かつて起きたのは単に自然災害であるが、今回の相手は魔物とはいえ生物なのだ。
僕は聖域に着いてもなお恐怖心が薄れることはなかった。
「私の旦那はどうなるのですか?!」
「息子も朝から漁に出ていて……」
この町の男衆のほとんどが漁師。もちろんそれは僕の父も同じだった。
母は慌てふためくことも泣き喚くこともなく、ただ祈るように震える両手を合わせている。
「母さん、父さんならきっと大丈夫だよ」
「そうね。こんな時こそしっかりしなくちゃね!」
母は強い人だ。
やがて最後の最期まで戦い抜いた警備隊員たちが運び込まれた。重症の者や既に息が無くなった者。彼らを見つめる領主の目は悔しさで溢れていた。
「あぁ、家が……」
「俺たちの町が消えて――」
聖域から望むのは絶景などではない。悍ましい数の魔物に蹂躙され破壊されていく町並み。そんな中、僕は2人の恩人の影を探していた。
「すみません、隊長さんと副隊長さんはどこにいますか?」
警備隊員のひとりに尋ねると、彼は静かに周りを見回してから「まだ海岸にいる」とだけ呟いた。
「そ、そんな……どうして逃げないのです!?」
それからは何を聞いても俯き首を振るだけ。
「魔物がすぐそこまで来ているぞ!!」
誰かが叫んだ。
「だ、大丈夫だ。聖域《ここ》にいれば絶対に穢されることはない!」
「でも、ここには結界が張られているわけでも魔物避けの防柵があるわけでもないぞ……」
最早、祈ることしか出来なくなった人々は、着々と迫る魔物の足音と鳴き声に恐怖で押し潰されそうになっていた。
「待たせたな、みんな!!」
「……ボルト兄さん?!」
希望の光は群勢を連れて現れ、意気揚々と僕の前を過ぎて迫り来る脅威に立ち塞がったのだった。
56
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー
ジミー凌我
ファンタジー
日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。
仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。
そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。
そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。
忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。
生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。
ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。
この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。
冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。
なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。
転生幼女の引き籠りたい日常~何故か魔王と呼ばれておりますがただの引き籠りです~
暁月りあ
ファンタジー
転生したら文字化けだらけのスキルを手に入れていたコーラル。それは実は【狭間の主】という世界を作り出すスキルだった。領地なしの名ばかり侯爵家に生まれた彼女は前世からの経験で家族以外を苦手としており、【狭間の世界】と名付けた空間に引き籠る準備をする。「対人スキルとかないので、無理です。独り言ばかり呟いていても気にしないでください。デフォです。お兄様、何故そんな悲しい顔をしながら私を見るのですか!?」何故か追いやられた人々や魔物が住み着いて魔王と呼ばれるようになっていくドタバタ物語。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる