19 / 72
第19話 悲劇の始まり
しおりを挟む
「ぼ、僕が本当に……?」
騎士学校入学試験から半月後、僕の元に騎士団長のアランさんがやってきた。
「インヒター王国騎士団学校入学試験のバルト・クラストを合格とし、騎士学校への入学並びに騎士団への入団を認める」
彼は懐から書状を取り出し仰々しく読み上げると、にっこりと微笑んで一言「おめでとう」と声をかける。その言葉を聞いてもなお僕はまだ信じられず、団長を見つめることしかできない。
「バルトおめでとう」
「おめでとう」
母さんと兄さんから抱きしめられ、ようやく“受かったんだ”と認識することができた。
正気に戻った僕はお礼を言い、アランさんに気になっていたことを尋ねる。
「どうして団長さんが直々に?」
「それはな、お前さんが逃げないようにだよ。近頃では試験に合格しても入学当日に来ない奴がいる。こちらとしてはなんとしてもバルトに入団してもらいたいからな」
アラン団長の顔が怖い。
聞いたと頃によると入学試験における僕の評価はかなり高かったらしく、騎士団の上層部は「団長が直々に赴けば断ることも、逃げ出すこともしないだろう」と考えたようだ。
理由はどうあれ、団長が来たことで僕のモチベーションは爆上がりだ。これからの厳しい騎士学校での生活もなんとか乗り越えられそうな気がしている。
「入団式は1週間後だ。それまでに荷物をまとめるように」
「はい!」
その晩は町を上げてのお祭り騒ぎであった。屋台や出店、出し物などが催され、そこまでしなくてもと引いてしまうくらいだ。実際、主催者であるピグレット伯爵も「張り切り過ぎて大変なことになってしまった」と苦笑していた。
「やあバルト、入団おめでとう」
「副隊長! ありがとうございます」
「もし君が落ちていたら警備隊に幹部候補で入れようと思っていたのだがね。まあ、今からでも遅くはないけど」
「何を戯言を言っているんだダグラス」
僕が苦笑しているとウィリアム隊長が現れた。
副団長もそうだが彼女もまた僕にとって大恩人の1人である。団長は試験のことや騎士学校での過ごし方など、自分のことのように心配してくれていたし、誰よりも僕の騎士学校入学を喜んでくれた。
「寂しくなるな」
「そんなに遠くないですからまた会えますよ」
平静を装っていた隊長の涙腺が緩み始めた。わずか1ヶ月という短い期間ではあったが、弟のように接してくれていた隊長との思い出を振り返ると涙が溢れそうになる。
「騎士学校にはどれくらい行くんだ?」
「1年もないくらいですよ」
「そうか……」
団長は伏し見がちになって言葉を詰まらせた。本当に寂しいのだろう。それは僕も同じだ――と思ったら。
「……なあ、バルト。学校を卒業して立派な近衛騎士になったら、私と……」
「団長、団長おおおお!! 門番のザンジリから海岸線沿いに魔物大量発生との報告です!」
「クソ! 良いところだったっていうのにいいい!」
祭りは中止。
警備隊、冒険者が顔色を変えて武器を取った。
「悪いねバルト。またゆっくり話をしよう」
「はい、副団長。お気をつけて」
彼は爽やかな笑顔を向けると、町を守るために走り去って行った。
祭囃子は戦々恐々とした足音に変わり、会場に灯された魔法ランプは暗闇へ帰る。
この魔物大発生が後に悲劇の始まりと呼ばれる“オームの大災害”であった。
騎士学校入学試験から半月後、僕の元に騎士団長のアランさんがやってきた。
「インヒター王国騎士団学校入学試験のバルト・クラストを合格とし、騎士学校への入学並びに騎士団への入団を認める」
彼は懐から書状を取り出し仰々しく読み上げると、にっこりと微笑んで一言「おめでとう」と声をかける。その言葉を聞いてもなお僕はまだ信じられず、団長を見つめることしかできない。
「バルトおめでとう」
「おめでとう」
母さんと兄さんから抱きしめられ、ようやく“受かったんだ”と認識することができた。
正気に戻った僕はお礼を言い、アランさんに気になっていたことを尋ねる。
「どうして団長さんが直々に?」
「それはな、お前さんが逃げないようにだよ。近頃では試験に合格しても入学当日に来ない奴がいる。こちらとしてはなんとしてもバルトに入団してもらいたいからな」
アラン団長の顔が怖い。
聞いたと頃によると入学試験における僕の評価はかなり高かったらしく、騎士団の上層部は「団長が直々に赴けば断ることも、逃げ出すこともしないだろう」と考えたようだ。
理由はどうあれ、団長が来たことで僕のモチベーションは爆上がりだ。これからの厳しい騎士学校での生活もなんとか乗り越えられそうな気がしている。
「入団式は1週間後だ。それまでに荷物をまとめるように」
「はい!」
その晩は町を上げてのお祭り騒ぎであった。屋台や出店、出し物などが催され、そこまでしなくてもと引いてしまうくらいだ。実際、主催者であるピグレット伯爵も「張り切り過ぎて大変なことになってしまった」と苦笑していた。
「やあバルト、入団おめでとう」
「副隊長! ありがとうございます」
「もし君が落ちていたら警備隊に幹部候補で入れようと思っていたのだがね。まあ、今からでも遅くはないけど」
「何を戯言を言っているんだダグラス」
僕が苦笑しているとウィリアム隊長が現れた。
副団長もそうだが彼女もまた僕にとって大恩人の1人である。団長は試験のことや騎士学校での過ごし方など、自分のことのように心配してくれていたし、誰よりも僕の騎士学校入学を喜んでくれた。
「寂しくなるな」
「そんなに遠くないですからまた会えますよ」
平静を装っていた隊長の涙腺が緩み始めた。わずか1ヶ月という短い期間ではあったが、弟のように接してくれていた隊長との思い出を振り返ると涙が溢れそうになる。
「騎士学校にはどれくらい行くんだ?」
「1年もないくらいですよ」
「そうか……」
団長は伏し見がちになって言葉を詰まらせた。本当に寂しいのだろう。それは僕も同じだ――と思ったら。
「……なあ、バルト。学校を卒業して立派な近衛騎士になったら、私と……」
「団長、団長おおおお!! 門番のザンジリから海岸線沿いに魔物大量発生との報告です!」
「クソ! 良いところだったっていうのにいいい!」
祭りは中止。
警備隊、冒険者が顔色を変えて武器を取った。
「悪いねバルト。またゆっくり話をしよう」
「はい、副団長。お気をつけて」
彼は爽やかな笑顔を向けると、町を守るために走り去って行った。
祭囃子は戦々恐々とした足音に変わり、会場に灯された魔法ランプは暗闇へ帰る。
この魔物大発生が後に悲劇の始まりと呼ばれる“オームの大災害”であった。
78
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説


『自重』を忘れた者は色々な異世界で無双するそうです。
もみクロ
ファンタジー
主人公はチートです!イケメンです!
そんなイケメンの主人公が竜神王になって7帝竜と呼ばれる竜達や、
精霊に妖精と楽しくしたり、テンプレ入れたりと色々です!
更新は不定期(笑)です!戦闘シーンは苦手ですが頑張ります!
主人公の種族が変わったもしります。
他の方の作品をパクったり真似したり等はしていないので
そういう事に関する批判は感想に書かないで下さい。
面白さや文章の良さに等について気になる方は
第3幕『世界軍事教育高等学校』から読んでください。

異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる