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第18話 会いたかった人
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「おかえり。どうだった?」
「散々だったよ……」
あの後、アラン団長から身に覚えのないことでガン詰めされた僕は、シュリアへの接近禁止令を言い渡され解放となった。折角だからハーフかどうかとか聞きたかったのだけれど、あの状況ではそんな雰囲気も隙もあったもんじゃなかった。
「お疲れさん。お前ならきっと大丈夫だよ」
オームに戻ると町の入口でボルト兄さんが待っていてくれた。兄さんは荷物を持ってくれ「良くやった、お疲れさん」と背中を叩き、僕たちは笑い合いながら家に帰った。
「竜人族が近衛騎士団長の娘だと!?」
自分に父だから言うが、彼はかなりの差別主義者だ。竜人族が嫌われているのは歴史から見ても明らかではあるが、その中でもとび抜けて嫌っているのが我が父である。
「何かの間違いじゃないのか」
「詳しいことはわからないよ。血が繋がっているとも思えないけど」
「そんな話より!」
母は珍しく大きな声を出すと豪華な魚料理を食卓に並べた。
「今日はバルトが頑張った日でしょ? 結果はまだ分からないけどお祝いしなくちゃ!」
「そ、そうだな。皆で乾杯しよう」
「親父、ソレ俺の葡萄酒なんだけど……」
今日のクラスト家は、前祝いにしては騒がしすぎる一夜となった。
「闇魔法が解放された、ねえ……」
翌日、僕は報告のためトミヨ婆さんの家に訪れていた。
「はい。模擬戦闘試験の時に数種類の魔法を撃ち込まれて無傷でした」
「今ここで闇魔法を出せと言ったら出せるかい?」
「いえ、あの後何度試しても出ません」
トミヨ婆さんはしわくちゃの顔を更にひしゃげた。
「悩んでても埒が開かない。ステータスを確認してみよう」
*****
名前:バルト・クラスト
年齢:10(自覚=81)
レベル:1
腕力:17
器用:15
頑丈:25
俊敏:20
魔力:18 (自覚=闇属性、他不詳)
知力:21
運:18
スキル【普通】(自覚=攻撃系、不詳)
*****
Bチーム、主にイシュクルテとの戦闘によってステータスが若干の上昇を見せた。これは喜ばしいことだけど、魔力の自覚欄に新しく【闇属性】と“他不詳”という文字が表れている。謎が解明されるばかりか日が経つにつれて謎が深まっているようだ。トミヨ婆さんの梅干しみたいに酸っぱい顔がその事実を物語っている。
「今回もまた相手も自分も傷付かずドローってわけかい?」
「はい。相手の実力だけでなく、その時の本気度によって僕の力も変化するようで――」
「なんだってえええ?!」
思った以上のリアクションに僕の方が驚いてしまった。トミヨ婆さんは歯をガタガタと震わせながら「それを早く言え」と小さく睨みつける。
「じゃ、じゃあまた何かあったら報告します!」
逃げないと何かされるのではと思い、飛び出すようにトミヨ婆さんの家を後にした。
そこから数日、何事もなく日は過ぎて騎士学園のことなど忘れかけていた頃、僕宛に警備隊のウィリアム隊長から手紙が届いた。その中身は「報告も何もないのは何故か、顔を見せるべきじゃないのか」という内容のものが長々と綴られていたのである。
正直、警備隊が忙しくないことは知っていたけど、父さんの手伝いやらなんやらしていたら訪れる機会を失い“今更行っても”という感情が出てきていた。
「おや、久しぶりですねバルト」
「副隊長、遅くなってすみません。もう怪我は大丈夫なのですか?」
「ああ。問題ないよ。それよりも隊長が悪いことをしたね」
副隊長さんは本当に利己的で良い人だ。
それに比べて――
「バアアアアルウウウウウトオオオオ!!」
すっ飛んできた隊長のほぼ無い胸の感触が頭に当たる。
副隊長に後から聞いた話だと、彼女は相当僕に会いたがっていたらしく、それでも手紙を出そうか出すまいかと悩み続けた挙句に我慢ができなくなり、今に至ったのだという。
「顔くらい見せんか!」
「しゅ、しゅみましぇん……」
隊長は僕の頬をつねると嬉しそうに笑っていた。
「散々だったよ……」
あの後、アラン団長から身に覚えのないことでガン詰めされた僕は、シュリアへの接近禁止令を言い渡され解放となった。折角だからハーフかどうかとか聞きたかったのだけれど、あの状況ではそんな雰囲気も隙もあったもんじゃなかった。
「お疲れさん。お前ならきっと大丈夫だよ」
オームに戻ると町の入口でボルト兄さんが待っていてくれた。兄さんは荷物を持ってくれ「良くやった、お疲れさん」と背中を叩き、僕たちは笑い合いながら家に帰った。
「竜人族が近衛騎士団長の娘だと!?」
自分に父だから言うが、彼はかなりの差別主義者だ。竜人族が嫌われているのは歴史から見ても明らかではあるが、その中でもとび抜けて嫌っているのが我が父である。
「何かの間違いじゃないのか」
「詳しいことはわからないよ。血が繋がっているとも思えないけど」
「そんな話より!」
母は珍しく大きな声を出すと豪華な魚料理を食卓に並べた。
「今日はバルトが頑張った日でしょ? 結果はまだ分からないけどお祝いしなくちゃ!」
「そ、そうだな。皆で乾杯しよう」
「親父、ソレ俺の葡萄酒なんだけど……」
今日のクラスト家は、前祝いにしては騒がしすぎる一夜となった。
「闇魔法が解放された、ねえ……」
翌日、僕は報告のためトミヨ婆さんの家に訪れていた。
「はい。模擬戦闘試験の時に数種類の魔法を撃ち込まれて無傷でした」
「今ここで闇魔法を出せと言ったら出せるかい?」
「いえ、あの後何度試しても出ません」
トミヨ婆さんはしわくちゃの顔を更にひしゃげた。
「悩んでても埒が開かない。ステータスを確認してみよう」
*****
名前:バルト・クラスト
年齢:10(自覚=81)
レベル:1
腕力:17
器用:15
頑丈:25
俊敏:20
魔力:18 (自覚=闇属性、他不詳)
知力:21
運:18
スキル【普通】(自覚=攻撃系、不詳)
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Bチーム、主にイシュクルテとの戦闘によってステータスが若干の上昇を見せた。これは喜ばしいことだけど、魔力の自覚欄に新しく【闇属性】と“他不詳”という文字が表れている。謎が解明されるばかりか日が経つにつれて謎が深まっているようだ。トミヨ婆さんの梅干しみたいに酸っぱい顔がその事実を物語っている。
「今回もまた相手も自分も傷付かずドローってわけかい?」
「はい。相手の実力だけでなく、その時の本気度によって僕の力も変化するようで――」
「なんだってえええ?!」
思った以上のリアクションに僕の方が驚いてしまった。トミヨ婆さんは歯をガタガタと震わせながら「それを早く言え」と小さく睨みつける。
「じゃ、じゃあまた何かあったら報告します!」
逃げないと何かされるのではと思い、飛び出すようにトミヨ婆さんの家を後にした。
そこから数日、何事もなく日は過ぎて騎士学園のことなど忘れかけていた頃、僕宛に警備隊のウィリアム隊長から手紙が届いた。その中身は「報告も何もないのは何故か、顔を見せるべきじゃないのか」という内容のものが長々と綴られていたのである。
正直、警備隊が忙しくないことは知っていたけど、父さんの手伝いやらなんやらしていたら訪れる機会を失い“今更行っても”という感情が出てきていた。
「おや、久しぶりですねバルト」
「副隊長、遅くなってすみません。もう怪我は大丈夫なのですか?」
「ああ。問題ないよ。それよりも隊長が悪いことをしたね」
副隊長さんは本当に利己的で良い人だ。
それに比べて――
「バアアアアルウウウウウトオオオオ!!」
すっ飛んできた隊長のほぼ無い胸の感触が頭に当たる。
副隊長に後から聞いた話だと、彼女は相当僕に会いたがっていたらしく、それでも手紙を出そうか出すまいかと悩み続けた挙句に我慢ができなくなり、今に至ったのだという。
「顔くらい見せんか!」
「しゅ、しゅみましぇん……」
隊長は僕の頬をつねると嬉しそうに笑っていた。
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