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第17話 身に覚えなく
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「……後悔させてやる」
彼女は目にも止まらぬ速さで僕に殴りかかった。環一発で避けたものの、スキル【普通】が無ければあっという間にやられていたことだろう。
「そうか、君が他のメンバーを倒したんだな」
「だったらナニ?」
激しい近接戦を繰り広げつつ、僕たちは雑談を挟みながらお互いのことを知った。
「アナタ、私のこと見たことあるって言ってたわね。もしかして、お父様の知り合い?」
「君のお父さんのことは知らないと思う。教会で神託の儀を受けた時に印象的でね」
「ふぅん」
彼女の拳は止まらない。この細い腕からどうしてここまで狂力なパワーが生まれるのか。もしや、これも「竜人族だから」なのかな。
「君、名前は?」
「失格になる奴に教える名前なんかないけど……そうね。ここまで私と互角に戦えたのだから特別に教えてあげる。
私はイシュクルテ、イシュクルテ・ヴューズベルトよ」
ヴューズベルト……?
どこかで聞いた名前だけど思い出せない。
「さて、そろそろ終わりにしましょう」
ヴューズベルト、ヴューズベルト、ヴューズベルト……イシュクルテ・ヴューズベルト。
「あっ!」
「っ……?!」
「思い出したあああ!!」
王国近衛騎士団長のアランさん。確か彼の苗字がヴューズベルトだった。そうなればこの強さも納得だ。
でも彼は普通の人族だし、ハーフってことかな?
「やっぱりお父様の知り合いなのね」
「ああ。不安だったけど君が騎士学校に入るなら安心だよ」
「……」
つい軽口を叩いてしまった。明らかに手加減してくれていた今でさえ強いのに、彼女が本気で怒ったら僕なんて一捻りだろう――と焦ったが、予想とは正反対に攻撃は段々と緩くなっていった。
まさか、必殺技のタメかもしくは長い詠唱を始めて破壊魔法みたいなやつを放つつもりか!?
「……き、君の名前は?」
「え? あ、僕はバルト……です」
「覚えておくわ」
へ?
何かがおかしい。
散々殴りつけてきた手を止めたばかりか、こちらに背を向けて歩き出すと大きな切り株に腰を下ろした。この読めない行動に、さすがのBチームメンバーも驚愕していた。
疲れたのか、ぼうっとどこかを見つめるイシュクルテを尻目に、他の面々はAチーム最後の生き残りである僕に総攻撃を仕掛ける。彼らは接近戦では武が悪いと思ったのか、火属性魔法、土属性魔法などなど数えきれないほどの魔法を浴びせ続けた。
「はあ、はあ、はあ……バケモンかアイツ」
しかし、どの攻撃にも“柔軟に”対応してやり過ごすと、じきに試験終了のホイッスルが鳴り響いた。
「ご苦労。皆いい動きだった」
悪気の無い皮肉に目を伏せるAチーム一同。
「これで試験は終了となる。合否は追って連絡がいくのでそのつもりで」
受験生が各々帰路に着く中、僕だけは会場に残っていた。試験官の騎士が威勢よく「解散!」と言い放った後に「クラフトは居残り」と強引に引き止められたのだ。
「やあ、謁見の時以来かな」
「近衛騎士団長!!」
相変わらずのスタイルの良さと清潔感だ。10歳の子持ちだとはいえ、それを知らなければ19歳と言われても疑わないレベルの美男子だ。
「その呼び方は嫌だな。気さくにアランと呼んでくれ」
謁見の時とは打って違って実にフレンドリーで明るい。根からの一軍人間ということだな。
「それじゃあアラン団長と――」
「そんなことよりバルトくん?」
彼は急に声色を変えて僕に詰め寄った。なんだか表情も怖い。
「王女に飽き足らず、シュリアまでたぶらかすとはいかんなあ」
え?
なんのことか本当にわからないのですが?!?!!
彼女は目にも止まらぬ速さで僕に殴りかかった。環一発で避けたものの、スキル【普通】が無ければあっという間にやられていたことだろう。
「そうか、君が他のメンバーを倒したんだな」
「だったらナニ?」
激しい近接戦を繰り広げつつ、僕たちは雑談を挟みながらお互いのことを知った。
「アナタ、私のこと見たことあるって言ってたわね。もしかして、お父様の知り合い?」
「君のお父さんのことは知らないと思う。教会で神託の儀を受けた時に印象的でね」
「ふぅん」
彼女の拳は止まらない。この細い腕からどうしてここまで狂力なパワーが生まれるのか。もしや、これも「竜人族だから」なのかな。
「君、名前は?」
「失格になる奴に教える名前なんかないけど……そうね。ここまで私と互角に戦えたのだから特別に教えてあげる。
私はイシュクルテ、イシュクルテ・ヴューズベルトよ」
ヴューズベルト……?
どこかで聞いた名前だけど思い出せない。
「さて、そろそろ終わりにしましょう」
ヴューズベルト、ヴューズベルト、ヴューズベルト……イシュクルテ・ヴューズベルト。
「あっ!」
「っ……?!」
「思い出したあああ!!」
王国近衛騎士団長のアランさん。確か彼の苗字がヴューズベルトだった。そうなればこの強さも納得だ。
でも彼は普通の人族だし、ハーフってことかな?
「やっぱりお父様の知り合いなのね」
「ああ。不安だったけど君が騎士学校に入るなら安心だよ」
「……」
つい軽口を叩いてしまった。明らかに手加減してくれていた今でさえ強いのに、彼女が本気で怒ったら僕なんて一捻りだろう――と焦ったが、予想とは正反対に攻撃は段々と緩くなっていった。
まさか、必殺技のタメかもしくは長い詠唱を始めて破壊魔法みたいなやつを放つつもりか!?
「……き、君の名前は?」
「え? あ、僕はバルト……です」
「覚えておくわ」
へ?
何かがおかしい。
散々殴りつけてきた手を止めたばかりか、こちらに背を向けて歩き出すと大きな切り株に腰を下ろした。この読めない行動に、さすがのBチームメンバーも驚愕していた。
疲れたのか、ぼうっとどこかを見つめるイシュクルテを尻目に、他の面々はAチーム最後の生き残りである僕に総攻撃を仕掛ける。彼らは接近戦では武が悪いと思ったのか、火属性魔法、土属性魔法などなど数えきれないほどの魔法を浴びせ続けた。
「はあ、はあ、はあ……バケモンかアイツ」
しかし、どの攻撃にも“柔軟に”対応してやり過ごすと、じきに試験終了のホイッスルが鳴り響いた。
「ご苦労。皆いい動きだった」
悪気の無い皮肉に目を伏せるAチーム一同。
「これで試験は終了となる。合否は追って連絡がいくのでそのつもりで」
受験生が各々帰路に着く中、僕だけは会場に残っていた。試験官の騎士が威勢よく「解散!」と言い放った後に「クラフトは居残り」と強引に引き止められたのだ。
「やあ、謁見の時以来かな」
「近衛騎士団長!!」
相変わらずのスタイルの良さと清潔感だ。10歳の子持ちだとはいえ、それを知らなければ19歳と言われても疑わないレベルの美男子だ。
「その呼び方は嫌だな。気さくにアランと呼んでくれ」
謁見の時とは打って違って実にフレンドリーで明るい。根からの一軍人間ということだな。
「それじゃあアラン団長と――」
「そんなことよりバルトくん?」
彼は急に声色を変えて僕に詰め寄った。なんだか表情も怖い。
「王女に飽き足らず、シュリアまでたぶらかすとはいかんなあ」
え?
なんのことか本当にわからないのですが?!?!!
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