17 / 67
第17話 身に覚えなく
しおりを挟む
「……後悔させてやる」
彼女は目にも止まらぬ速さで僕に殴りかかった。環一発で避けたものの、スキル【普通】が無ければあっという間にやられていたことだろう。
「そうか、君が他のメンバーを倒したんだな」
「だったらナニ?」
激しい近接戦を繰り広げつつ、僕たちは雑談を挟みながらお互いのことを知った。
「アナタ、私のこと見たことあるって言ってたわね。もしかして、お父様の知り合い?」
「君のお父さんのことは知らないと思う。教会で神託の儀を受けた時に印象的でね」
「ふぅん」
彼女の拳は止まらない。この細い腕からどうしてここまで狂力なパワーが生まれるのか。もしや、これも「竜人族だから」なのかな。
「君、名前は?」
「失格になる奴に教える名前なんかないけど……そうね。ここまで私と互角に戦えたのだから特別に教えてあげる。
私はイシュクルテ、イシュクルテ・ヴューズベルトよ」
ヴューズベルト……?
どこかで聞いた名前だけど思い出せない。
「さて、そろそろ終わりにしましょう」
ヴューズベルト、ヴューズベルト、ヴューズベルト……イシュクルテ・ヴューズベルト。
「あっ!」
「っ……?!」
「思い出したあああ!!」
王国近衛騎士団長のアランさん。確か彼の苗字がヴューズベルトだった。そうなればこの強さも納得だ。
でも彼は普通の人族だし、ハーフってことかな?
「やっぱりお父様の知り合いなのね」
「ああ。不安だったけど君が騎士学校に入るなら安心だよ」
「……」
つい軽口を叩いてしまった。明らかに手加減してくれていた今でさえ強いのに、彼女が本気で怒ったら僕なんて一捻りだろう――と焦ったが、予想とは正反対に攻撃は段々と緩くなっていった。
まさか、必殺技のタメかもしくは長い詠唱を始めて破壊魔法みたいなやつを放つつもりか!?
「……き、君の名前は?」
「え? あ、僕はバルト……です」
「覚えておくわ」
へ?
何かがおかしい。
散々殴りつけてきた手を止めたばかりか、こちらに背を向けて歩き出すと大きな切り株に腰を下ろした。この読めない行動に、さすがのBチームメンバーも驚愕していた。
疲れたのか、ぼうっとどこかを見つめるイシュクルテを尻目に、他の面々はAチーム最後の生き残りである僕に総攻撃を仕掛ける。彼らは接近戦では武が悪いと思ったのか、火属性魔法、土属性魔法などなど数えきれないほどの魔法を浴びせ続けた。
「はあ、はあ、はあ……バケモンかアイツ」
しかし、どの攻撃にも“柔軟に”対応してやり過ごすと、じきに試験終了のホイッスルが鳴り響いた。
「ご苦労。皆いい動きだった」
悪気の無い皮肉に目を伏せるAチーム一同。
「これで試験は終了となる。合否は追って連絡がいくのでそのつもりで」
受験生が各々帰路に着く中、僕だけは会場に残っていた。試験官の騎士が威勢よく「解散!」と言い放った後に「クラフトは居残り」と強引に引き止められたのだ。
「やあ、謁見の時以来かな」
「近衛騎士団長!!」
相変わらずのスタイルの良さと清潔感だ。10歳の子持ちだとはいえ、それを知らなければ19歳と言われても疑わないレベルの美男子だ。
「その呼び方は嫌だな。気さくにアランと呼んでくれ」
謁見の時とは打って違って実にフレンドリーで明るい。根からの一軍人間ということだな。
「それじゃあアラン団長と――」
「そんなことよりバルトくん?」
彼は急に声色を変えて僕に詰め寄った。なんだか表情も怖い。
「王女に飽き足らず、シュリアまでたぶらかすとはいかんなあ」
え?
なんのことか本当にわからないのですが?!?!!
彼女は目にも止まらぬ速さで僕に殴りかかった。環一発で避けたものの、スキル【普通】が無ければあっという間にやられていたことだろう。
「そうか、君が他のメンバーを倒したんだな」
「だったらナニ?」
激しい近接戦を繰り広げつつ、僕たちは雑談を挟みながらお互いのことを知った。
「アナタ、私のこと見たことあるって言ってたわね。もしかして、お父様の知り合い?」
「君のお父さんのことは知らないと思う。教会で神託の儀を受けた時に印象的でね」
「ふぅん」
彼女の拳は止まらない。この細い腕からどうしてここまで狂力なパワーが生まれるのか。もしや、これも「竜人族だから」なのかな。
「君、名前は?」
「失格になる奴に教える名前なんかないけど……そうね。ここまで私と互角に戦えたのだから特別に教えてあげる。
私はイシュクルテ、イシュクルテ・ヴューズベルトよ」
ヴューズベルト……?
どこかで聞いた名前だけど思い出せない。
「さて、そろそろ終わりにしましょう」
ヴューズベルト、ヴューズベルト、ヴューズベルト……イシュクルテ・ヴューズベルト。
「あっ!」
「っ……?!」
「思い出したあああ!!」
王国近衛騎士団長のアランさん。確か彼の苗字がヴューズベルトだった。そうなればこの強さも納得だ。
でも彼は普通の人族だし、ハーフってことかな?
「やっぱりお父様の知り合いなのね」
「ああ。不安だったけど君が騎士学校に入るなら安心だよ」
「……」
つい軽口を叩いてしまった。明らかに手加減してくれていた今でさえ強いのに、彼女が本気で怒ったら僕なんて一捻りだろう――と焦ったが、予想とは正反対に攻撃は段々と緩くなっていった。
まさか、必殺技のタメかもしくは長い詠唱を始めて破壊魔法みたいなやつを放つつもりか!?
「……き、君の名前は?」
「え? あ、僕はバルト……です」
「覚えておくわ」
へ?
何かがおかしい。
散々殴りつけてきた手を止めたばかりか、こちらに背を向けて歩き出すと大きな切り株に腰を下ろした。この読めない行動に、さすがのBチームメンバーも驚愕していた。
疲れたのか、ぼうっとどこかを見つめるイシュクルテを尻目に、他の面々はAチーム最後の生き残りである僕に総攻撃を仕掛ける。彼らは接近戦では武が悪いと思ったのか、火属性魔法、土属性魔法などなど数えきれないほどの魔法を浴びせ続けた。
「はあ、はあ、はあ……バケモンかアイツ」
しかし、どの攻撃にも“柔軟に”対応してやり過ごすと、じきに試験終了のホイッスルが鳴り響いた。
「ご苦労。皆いい動きだった」
悪気の無い皮肉に目を伏せるAチーム一同。
「これで試験は終了となる。合否は追って連絡がいくのでそのつもりで」
受験生が各々帰路に着く中、僕だけは会場に残っていた。試験官の騎士が威勢よく「解散!」と言い放った後に「クラフトは居残り」と強引に引き止められたのだ。
「やあ、謁見の時以来かな」
「近衛騎士団長!!」
相変わらずのスタイルの良さと清潔感だ。10歳の子持ちだとはいえ、それを知らなければ19歳と言われても疑わないレベルの美男子だ。
「その呼び方は嫌だな。気さくにアランと呼んでくれ」
謁見の時とは打って違って実にフレンドリーで明るい。根からの一軍人間ということだな。
「それじゃあアラン団長と――」
「そんなことよりバルトくん?」
彼は急に声色を変えて僕に詰め寄った。なんだか表情も怖い。
「王女に飽き足らず、シュリアまでたぶらかすとはいかんなあ」
え?
なんのことか本当にわからないのですが?!?!!
69
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
あなたが残した世界で
天海月
恋愛
「ロザリア様、あなたは俺が生涯をかけてお守りすると誓いましょう」王女であるロザリアに、そう約束した初恋の騎士アーロンは、ある事件の後、彼女との誓いを破り突然その姿を消してしまう。
八年後、生贄に選ばれてしまったロザリアは、最期に彼に一目会いたいとアーロンを探し、彼と再会を果たすが・・・。
4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~
TOYA
ファンタジー
~完結済み~
「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」
この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。
その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。
生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、
生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。
だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。
それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく
帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。
いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。
※あらすじは第一章の内容です。
―――
本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる