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第12話 御本人でした
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「近衛騎士団にいいい?!」
「バルトがああ?!」
明《あく》る朝、両親にも王宮での出来事を伝えたところ、本当に血が繋がっているのか疑いたくなるほど冷静な兄とは正反対の反応であった。母さんなんて動揺して過呼吸になりかけた。
ようやく落ち着いたと思えば、今度は「凄い、凄い」とお祭り騒ぎだ。
「まだ合格したわけじゃないんだから……」
「でも王様に勧められたのなら受かったも同然じゃない!」
「それで、試験はいつなんだ?」
「ひと月後だって――」
僕がそう言いかけた瞬間、父が勢いよく立ち上がり「身体作りを始めなくては!!」と大声を上げ、僕の腕を引っ張ると家の外へ連れ出した。
このオーム領は港町で、父も漁師であるため顔が広い。そのことから町の警備隊や冒険者ギルドなんかともツテがあるのだという。
「やあ、バートン。お前がここに来るなんて珍しいじゃないか」
「久しぶりだな、ザンジリ」
向かったのは夜勤明けでクマができている警備隊のザンジリさんの家だった。父が何やら耳打ちをすると、ザンジリさんの顔はみるみるうちに青ざめていき、しばらく話をしてから僕の方に向かって大きく頭を下げた。
「バルト……前のことは本当にすまなかった!」
「そ、そんな。僕は大丈夫ですよ」
「話は聞いた。俺から警備隊長に訓練をつけてもらえるように頼んでおくから!」
へ?
訓練って……そういうこと?!
父はにこやかに笑いながら親指を立てているし、ザンジリさんは脂汗をかきながら隊長宛の書文を認《したた》めだした。こんな状況では「結構です」とも言えず、結局僕は翌日から警備隊長の指導の元、訓練を始めることになってしまった。
初めて入った警備隊本部の中には、イカつい隊員たちと勤勉そうな高官の姿があった。きっと彼らは僕をただ見学しに来た子どもだと思っているのだろう。こちらを見ると不恰好な笑みを向けてくれている。
「君がバルト君だね」
「は、はい!」
ぼうっと歩いていると背が高く清潔感のある男性に声をかけられた。中性的な顔つきと、すらりと伸びた手足はモデルやアイドルかのよう。パッと見ただけでは軍人には見えないが、胸には多くのバッチが付いていて、かなり位の高い御方なのだと推測できる。
「実は今日から隊長さんに訓練をしてもらう約束をしていて……」
「ええ、ザンジリから聞いております」
「それで隊長さんに会いたいのですが、どこに行けば良いでしょう?」
彼は少し驚いたように目を開くと、
「申し遅れました。私がこのオーム領警備隊の隊長ウィリアム・オーギュスト・ブラックプリンスです」
(御本人でしたああああ!)
それに何だよそのナイスな名前は。
ウィリアムってだけで王子様感があるのに、プリンスって入っちゃってるじゃないかよ。
「す、すみません。御本人とはつゆ知らず」
「いいえ。例の件ではザンジリがとても、とても迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした」
「いえいえ」
本部のロビー中央でペコペコと頭を下げ合う2人。
「実力を確かめるにはこれが一番手取り早いんでなあ!」
「なんでこうなった……」
ほのぼのとした雰囲気も束の間、僕は訓練場に連れて行かれ模擬刀を渡された。
(この人、あれだ。剣を持つと人格変わるタイプの人だ)
彼の目はギンギンにキマっているし、もはや王子様とも言えなくなってきた。いや、ドS王子ってのもナシではないか。
「何をぼうっとしている!? 私が女だからと甘く見るなよ!」
え?
「えええええええ!!!?」
「バルトがああ?!」
明《あく》る朝、両親にも王宮での出来事を伝えたところ、本当に血が繋がっているのか疑いたくなるほど冷静な兄とは正反対の反応であった。母さんなんて動揺して過呼吸になりかけた。
ようやく落ち着いたと思えば、今度は「凄い、凄い」とお祭り騒ぎだ。
「まだ合格したわけじゃないんだから……」
「でも王様に勧められたのなら受かったも同然じゃない!」
「それで、試験はいつなんだ?」
「ひと月後だって――」
僕がそう言いかけた瞬間、父が勢いよく立ち上がり「身体作りを始めなくては!!」と大声を上げ、僕の腕を引っ張ると家の外へ連れ出した。
このオーム領は港町で、父も漁師であるため顔が広い。そのことから町の警備隊や冒険者ギルドなんかともツテがあるのだという。
「やあ、バートン。お前がここに来るなんて珍しいじゃないか」
「久しぶりだな、ザンジリ」
向かったのは夜勤明けでクマができている警備隊のザンジリさんの家だった。父が何やら耳打ちをすると、ザンジリさんの顔はみるみるうちに青ざめていき、しばらく話をしてから僕の方に向かって大きく頭を下げた。
「バルト……前のことは本当にすまなかった!」
「そ、そんな。僕は大丈夫ですよ」
「話は聞いた。俺から警備隊長に訓練をつけてもらえるように頼んでおくから!」
へ?
訓練って……そういうこと?!
父はにこやかに笑いながら親指を立てているし、ザンジリさんは脂汗をかきながら隊長宛の書文を認《したた》めだした。こんな状況では「結構です」とも言えず、結局僕は翌日から警備隊長の指導の元、訓練を始めることになってしまった。
初めて入った警備隊本部の中には、イカつい隊員たちと勤勉そうな高官の姿があった。きっと彼らは僕をただ見学しに来た子どもだと思っているのだろう。こちらを見ると不恰好な笑みを向けてくれている。
「君がバルト君だね」
「は、はい!」
ぼうっと歩いていると背が高く清潔感のある男性に声をかけられた。中性的な顔つきと、すらりと伸びた手足はモデルやアイドルかのよう。パッと見ただけでは軍人には見えないが、胸には多くのバッチが付いていて、かなり位の高い御方なのだと推測できる。
「実は今日から隊長さんに訓練をしてもらう約束をしていて……」
「ええ、ザンジリから聞いております」
「それで隊長さんに会いたいのですが、どこに行けば良いでしょう?」
彼は少し驚いたように目を開くと、
「申し遅れました。私がこのオーム領警備隊の隊長ウィリアム・オーギュスト・ブラックプリンスです」
(御本人でしたああああ!)
それに何だよそのナイスな名前は。
ウィリアムってだけで王子様感があるのに、プリンスって入っちゃってるじゃないかよ。
「す、すみません。御本人とはつゆ知らず」
「いいえ。例の件ではザンジリがとても、とても迷惑をかけてしまい申し訳ありませんでした」
「いえいえ」
本部のロビー中央でペコペコと頭を下げ合う2人。
「実力を確かめるにはこれが一番手取り早いんでなあ!」
「なんでこうなった……」
ほのぼのとした雰囲気も束の間、僕は訓練場に連れて行かれ模擬刀を渡された。
(この人、あれだ。剣を持つと人格変わるタイプの人だ)
彼の目はギンギンにキマっているし、もはや王子様とも言えなくなってきた。いや、ドS王子ってのもナシではないか。
「何をぼうっとしている!? 私が女だからと甘く見るなよ!」
え?
「えええええええ!!!?」
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