上 下
11 / 61

第11話 まんまと

しおりを挟む
「なんじゃ、シュリアが呼んでくれたのか。勘違いしてしまうところだったぞ」

 いや、してたよね勘違い。
 今にも処刑しようとしていたよね?!

 ともあれ、僕を呼び出して話がしたかったのは事実らしく、元からそのつもりでこの部屋を用意していたらしい。非公式な場であるからか、国王も先程とは違って笑顔が見える。

「改めて、シュリアを助けてくれてありがとう」
「や、やめてください陛下!」

 封建制度が根強いこの世界では、平民に深々と頭を下げる一国の王など他に存在し得ないだろう。それだけ王女のことを娘として愛しているのだと感じられる。
 国王はようやく頭を上げると一度咳払いをしてから僕を見つめた。

「褒美の件だが……」
「それも謁見の場で申し上げた通りお断りさせていただきます。あの時は咄嗟に身体が動いただけで、恩を売ろうなどと考えたわけではありませんから」
「しかし、それでは王として、シュリアの父として示しがつかん」

 王国側は何がなんでも褒美を与えたいらしく、側近や警備の騎士にまで何か良案は無いものかと聞き出し、会議が始まる始末。そんな雰囲気で「じゃあ金をくれ」と言えるわけもなく、僕はひたすらに「要らない」という姿勢を保ち続けた。
 そうしてしばらくした時、見かねたシュリア王女がこんな提案をする。

「それでは、バルト様を騎士団学校へ推薦されてはいかがですか?」

 【騎士団学校】それは王国の為、王家の為に近衛騎士団となる者を育てるための学校だ。普通なら超難関の試験を突破しなければならず、平民はもちろん、権力を持つ貴族でさえも狭き門であるのだ。もし試験に合格し、入学できたとしても厳しい訓練や教養の毎日を送ることとなる。

「それは良い考えじゃ」
「いやいやいやいや! 僕なんかが行っても――」
「お父様、バルト様は何人もの盗賊をたった1人で抑えたのです。実力は確かですよ」

 これはまずいぞ。
 ああ、実にまずい。

 このままでは一生国のために尽くさなければならない……でも、それって普通のことなのか?
 ああもう!
 この世界では何が普通なのか誰か教えてくれよ!

「だが、試験を免除というわけにもいかんしなあ」

 そうか、名案が浮かんだぞ。
 
「バルトさん? もしかしてわざと落ちようなどと考えてはおりませんよね?」

(めっちゃバレてるうううううう!)

「これシュリア。バルトがそんなことを考えるわけがなかろうが」
「失礼しました」

 ニヤけている顔も可愛いなあ……じゃなくて、この小悪魔王女め!
 まあでも、僕の実力じゃ【普通】があったところで合格できるはずもないか。

「もし合格したとして、入学時期はいつなのですか?」
「ああ、確か試験がひと月後で、そのまたひと月後が入学だったはずじゃ」

 随分と近々だなあ。
 生徒不足か?

「入学金や王都での生活費が用意できないのですが」
「それは私が用意しますわ」

 透き通るほど美しい紅色の長い髪と、特徴的な緑と黄金のオッドアイ。この姿を知らない者はこの王国には誰1人としていないだろう。

「王妃様?!」
「なんだ。ワシと対面した時よりも反応が良いではないか」
「そ、それは……」

 それはそうだろう、とは言えないよな。
 
「うふふ。娘の恩人ですもの、生活に関しては心配しなくていいわ」

 おおよそ予想はしていたけど、金が無い作戦も失敗となれば試験を受けるしかなさそうだ。
 褒美と言っておきながら半ば強制的だったのが気に入らないが、どうせ落ちても良い経験にはなると思うし受かっても――ってそれは普通じゃないもんな。


 結局、オームの町に帰り着いたのは真夜中になってしまった。
 両親は既に眠っていて、食卓に灯りを一本つけると、ボルト兄さんが虚な目で待っていてくれていた。
 僕は謁見であったこと、その後に騎士学園の試験を受けることになってしまったことを兄に伝えた。

「それ、絶対ハメられたでしょ」
「え、マジで……?」

 兄さんは実に冷静だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

浮気相手の女の名前を公開することにいたしました

宇水涼麻
恋愛
ルベグント王子の浮気癖は、婚約者であるシャルリーラを辟易とさせていた。 二人が貴族学園の3年生になってしばらくすると、学園の掲示板に貼り出されたものに、生徒たちは注目した。 『総会で、浮気相手の女の名前を公開する。 しかし、謝罪した者は、発表しない』 それを見た女生徒たちは、家族を巻き込んで謝罪合戦を繰り広げた。 シャルリーラの予想を上回る数の謝罪文が届く。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

処理中です...