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第11話 まんまと
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「なんじゃ、シュリアが呼んでくれたのか。勘違いしてしまうところだったぞ」
いや、してたよね勘違い。
今にも処刑しようとしていたよね?!
ともあれ、僕を呼び出して話がしたかったのは事実らしく、元からそのつもりでこの部屋を用意していたらしい。非公式な場であるからか、国王も先程とは違って笑顔が見える。
「改めて、シュリアを助けてくれてありがとう」
「や、やめてください陛下!」
封建制度が根強いこの世界では、平民に深々と頭を下げる一国の王など他に存在し得ないだろう。それだけ王女のことを娘として愛しているのだと感じられる。
国王はようやく頭を上げると一度咳払いをしてから僕を見つめた。
「褒美の件だが……」
「それも謁見の場で申し上げた通りお断りさせていただきます。あの時は咄嗟に身体が動いただけで、恩を売ろうなどと考えたわけではありませんから」
「しかし、それでは王として、シュリアの父として示しがつかん」
王国側は何がなんでも褒美を与えたいらしく、側近や警備の騎士にまで何か良案は無いものかと聞き出し、会議が始まる始末。そんな雰囲気で「じゃあ金をくれ」と言えるわけもなく、僕はひたすらに「要らない」という姿勢を保ち続けた。
そうしてしばらくした時、見かねたシュリア王女がこんな提案をする。
「それでは、バルト様を騎士団学校へ推薦されてはいかがですか?」
【騎士団学校】それは王国の為、王家の為に近衛騎士団となる者を育てるための学校だ。普通なら超難関の試験を突破しなければならず、平民はもちろん、権力を持つ貴族でさえも狭き門であるのだ。もし試験に合格し、入学できたとしても厳しい訓練や教養の毎日を送ることとなる。
「それは良い考えじゃ」
「いやいやいやいや! 僕なんかが行っても――」
「お父様、バルト様は何人もの盗賊をたった1人で抑えたのです。実力は確かですよ」
これはまずいぞ。
ああ、実にまずい。
このままでは一生国のために尽くさなければならない……でも、それって普通のことなのか?
ああもう!
この世界では何が普通なのか誰か教えてくれよ!
「だが、試験を免除というわけにもいかんしなあ」
そうか、名案が浮かんだぞ。
「バルトさん? もしかしてわざと落ちようなどと考えてはおりませんよね?」
(めっちゃバレてるうううううう!)
「これシュリア。バルトがそんなことを考えるわけがなかろうが」
「失礼しました」
ニヤけている顔も可愛いなあ……じゃなくて、この小悪魔王女め!
まあでも、僕の実力じゃ【普通】があったところで合格できるはずもないか。
「もし合格したとして、入学時期はいつなのですか?」
「ああ、確か試験がひと月後で、そのまたひと月後が入学だったはずじゃ」
随分と近々だなあ。
生徒不足か?
「入学金や王都での生活費が用意できないのですが」
「それは私が用意しますわ」
透き通るほど美しい紅色の長い髪と、特徴的な緑と黄金のオッドアイ。この姿を知らない者はこの王国には誰1人としていないだろう。
「王妃様?!」
「なんだ。ワシと対面した時よりも反応が良いではないか」
「そ、それは……」
それはそうだろう、とは言えないよな。
「うふふ。娘の恩人ですもの、生活に関しては心配しなくていいわ」
おおよそ予想はしていたけど、金が無い作戦も失敗となれば試験を受けるしかなさそうだ。
褒美と言っておきながら半ば強制的だったのが気に入らないが、どうせ落ちても良い経験にはなると思うし受かっても――ってそれは普通じゃないもんな。
結局、オームの町に帰り着いたのは真夜中になってしまった。
両親は既に眠っていて、食卓に灯りを一本つけると、ボルト兄さんが虚な目で待っていてくれていた。
僕は謁見であったこと、その後に騎士学園の試験を受けることになってしまったことを兄に伝えた。
「それ、絶対ハメられたでしょ」
「え、マジで……?」
兄さんは実に冷静だった。
いや、してたよね勘違い。
今にも処刑しようとしていたよね?!
ともあれ、僕を呼び出して話がしたかったのは事実らしく、元からそのつもりでこの部屋を用意していたらしい。非公式な場であるからか、国王も先程とは違って笑顔が見える。
「改めて、シュリアを助けてくれてありがとう」
「や、やめてください陛下!」
封建制度が根強いこの世界では、平民に深々と頭を下げる一国の王など他に存在し得ないだろう。それだけ王女のことを娘として愛しているのだと感じられる。
国王はようやく頭を上げると一度咳払いをしてから僕を見つめた。
「褒美の件だが……」
「それも謁見の場で申し上げた通りお断りさせていただきます。あの時は咄嗟に身体が動いただけで、恩を売ろうなどと考えたわけではありませんから」
「しかし、それでは王として、シュリアの父として示しがつかん」
王国側は何がなんでも褒美を与えたいらしく、側近や警備の騎士にまで何か良案は無いものかと聞き出し、会議が始まる始末。そんな雰囲気で「じゃあ金をくれ」と言えるわけもなく、僕はひたすらに「要らない」という姿勢を保ち続けた。
そうしてしばらくした時、見かねたシュリア王女がこんな提案をする。
「それでは、バルト様を騎士団学校へ推薦されてはいかがですか?」
【騎士団学校】それは王国の為、王家の為に近衛騎士団となる者を育てるための学校だ。普通なら超難関の試験を突破しなければならず、平民はもちろん、権力を持つ貴族でさえも狭き門であるのだ。もし試験に合格し、入学できたとしても厳しい訓練や教養の毎日を送ることとなる。
「それは良い考えじゃ」
「いやいやいやいや! 僕なんかが行っても――」
「お父様、バルト様は何人もの盗賊をたった1人で抑えたのです。実力は確かですよ」
これはまずいぞ。
ああ、実にまずい。
このままでは一生国のために尽くさなければならない……でも、それって普通のことなのか?
ああもう!
この世界では何が普通なのか誰か教えてくれよ!
「だが、試験を免除というわけにもいかんしなあ」
そうか、名案が浮かんだぞ。
「バルトさん? もしかしてわざと落ちようなどと考えてはおりませんよね?」
(めっちゃバレてるうううううう!)
「これシュリア。バルトがそんなことを考えるわけがなかろうが」
「失礼しました」
ニヤけている顔も可愛いなあ……じゃなくて、この小悪魔王女め!
まあでも、僕の実力じゃ【普通】があったところで合格できるはずもないか。
「もし合格したとして、入学時期はいつなのですか?」
「ああ、確か試験がひと月後で、そのまたひと月後が入学だったはずじゃ」
随分と近々だなあ。
生徒不足か?
「入学金や王都での生活費が用意できないのですが」
「それは私が用意しますわ」
透き通るほど美しい紅色の長い髪と、特徴的な緑と黄金のオッドアイ。この姿を知らない者はこの王国には誰1人としていないだろう。
「王妃様?!」
「なんだ。ワシと対面した時よりも反応が良いではないか」
「そ、それは……」
それはそうだろう、とは言えないよな。
「うふふ。娘の恩人ですもの、生活に関しては心配しなくていいわ」
おおよそ予想はしていたけど、金が無い作戦も失敗となれば試験を受けるしかなさそうだ。
褒美と言っておきながら半ば強制的だったのが気に入らないが、どうせ落ちても良い経験にはなると思うし受かっても――ってそれは普通じゃないもんな。
結局、オームの町に帰り着いたのは真夜中になってしまった。
両親は既に眠っていて、食卓に灯りを一本つけると、ボルト兄さんが虚な目で待っていてくれていた。
僕は謁見であったこと、その後に騎士学園の試験を受けることになってしまったことを兄に伝えた。
「それ、絶対ハメられたでしょ」
「え、マジで……?」
兄さんは実に冷静だった。
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