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第5話 襲来
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「これは……」
外に飛び出た皆の目に映ったのは、一〇メートルは優に超えると思われるほど巨大な魔物たちが百鬼夜行の如くこちらに向かって来ていた。今までも魔物の襲撃は幾度かあったものの、ここまでの規模で押し寄せたことは無いという。
「上の方にいるの、デーモンじゃないか!?」
一人の村人が声をあげる。
それにつられてマックや他の村人も天を仰いだ。
そこには邪悪なオーラと二本のツノを持った魔族、デーモンが見下ろすように浮遊していた。
デーモンとは魔族の一種であり、その頂点に君臨する魔王直属の配下種である。強靭な肉体と強力な攻撃力を有し、人族を軽く凌駕するほどの魔力量を誇る、まさに天災級の種族なのだ。
「早く逃げなきゃ!」
「でもどこへ?!」
慌てふためく者。
グッと唇を噛んで「これまでか」と諦める者。
マックはそのどちらでもなかった。
「浮かんでないで降りてきてよ!」
こともあろうか大きな声を張り上げ、自らデーモンを呼びつけたのだ。
「何言ってるのマック!」
「正気なのか?!」
そう言われても、あの魔族には全くと言っていいほど悪意が無い。彼は本気でそう思ったのである。
声が届いたのか、デーモンはゆっくりと地上に降りるとマックの方を向いて近づいて来た。
「マック、早く逃げなさい。ここは私が……」
「大丈夫だよイザベル」
「し、しかし」
デーモンの威圧感に村人たちが次々に膝を落としていく。
その中でマックだけは平常心のままデーモンを待った。
「貴様がマクスウェル・ブライウッドだな」
「うんそうだよ。魔物って喋れるんだね」
この発言に村人たちは冷や汗をかく。
それもそのはず。デーモンは魔族であって魔物ではない。近いようだが全くの別種。それに加えて魔族、中でもこのデーモン種は知能が高く、プライドも高い種族なのだ。
「……ああ、貴様を探していたのだよマクスウェル」
「僕を?」
いつ殺されてもおかしくない状況で、イザベルが「殺したいのなら私を倒してから――」と名脇役の決まり文句を言おうとした時、デーモンはマックの前に片膝をつき、深々と頭を下げた。
あまりの衝撃的な場面に、村人もマックですらも驚いた。
「我の名はシャウス・アルドガルド。この度は我が眷属を救っていただき、誠に感謝申し上げる」
「眷属?」
マックには心当たりは無いようだ。
すると魔法陣が現れ、中からスライムのウェルと王様が出てきた。
「もしかしてウェルのこと?」
「その通り。そのスライム……ウェルとやらはそちらのキングスライムの眷属。そしてそのキングスライムは我の眷属なのだ」
「なるほど!」
マックは手のひらをポンっと叩いた後、「そんなこと気にしないで」と軽くシャウスの肩を叩いて笑った。
「かたじけない。しかしこれは大きな貸しだ。このままでは魔族としての誇りが許さんのだよ」
「そうだなぁ」
考え込む彼にシャウスはある提案をした。
「我が眷属の中から好きな魔物を何体かお譲りしよう。見たところ貴様はテイマーであるようだし、魔力量も申し分ないようだしな」
「そうかぁ。でもシャウス君が眷属になるのは無理なんだよね?」
一応言っておくが、この時の村人たちは開いた口が塞がらぬままこのやりとりを聞いている。
「……構わんが我で良いのか?」
「もちろんだよ。シャウス君が眷属になれば、この全ての魔物をテイムできるわけでしょ?」
「それはそうだが、我は他のデーモンに比べたら見かけほど強くはないし、その割には魔力量を多く消費してしまうと思うぞ」
再び考え込むマック。
彼の言う通り、魔物数百体に加え、魔族のデーモンをテイムするとなると人族では耐えきれないほどの魔力を消費してしまう。
それに――。
「我はこの森の管理者でもある故、滅多なことが無ければここを離れることはできんのだ」
「あ! それなら」
またマックが迷案を思いついたようだ。
「シャウス君単体をテイムして、君の眷属は間接的な主従《テイム》関係になるっていうのはどうかな!」
普通ならあり得ないことだ。
さすがのデーモン様も苦笑いを浮かべる。
そう、普通なら、な。
シャウスには見えていたのだ。
この少年のステータス欄に、超特異魔法『生物係《いきものがかり》』があるのを。
「よし。上手くいくかは分からんがやってみよう」
「うん!」
と言ったは良いものの、彼《マック》はテイムのやり方を知らない。
ウェルやキングスライムとはいつの間にか契約していたし、そもそもテイマーが何なのか未だにピンときていないのだ。
「まずは、な」
「ふむふむ……」
シャウスは丁寧にテイムのやり方を教えてくれた。聞けば魔族の国で家庭教師をやっていた時期があり、そこで『人族の魔法』を得意分野として教えていたらしい。
魔族に魔法を習うという、画《え》としてはとてもシュールな場面が緩やかに流れていく。
「我が魔の力よ。この者を我の眷属とし、忠義を近いし彼《か》の者に血を分け、力を与えたまえ」
非常にたどたどしい詠唱だったが、無事に魔族種デーモンをテイムすることに成功した。
「いけたね!」
「いけたな」
ハイタッチを交わす二人。
一見和やかに聞こえるかもしれない。だが、村人の立場になって考えてほしい。
ドン引きである。
「あ、もうひとつお願いしていい?」
「もう貴様の眷属なのだ。なんなりと申すが良いぞ」
「それ、貴様じゃなくてマックって呼んでほしいな!」
シャウスは感じていた。
例え超特異魔法の力など無くなっても、この少年の笑顔を守り続けよう――と。
「分かりました。マック殿!」
外に飛び出た皆の目に映ったのは、一〇メートルは優に超えると思われるほど巨大な魔物たちが百鬼夜行の如くこちらに向かって来ていた。今までも魔物の襲撃は幾度かあったものの、ここまでの規模で押し寄せたことは無いという。
「上の方にいるの、デーモンじゃないか!?」
一人の村人が声をあげる。
それにつられてマックや他の村人も天を仰いだ。
そこには邪悪なオーラと二本のツノを持った魔族、デーモンが見下ろすように浮遊していた。
デーモンとは魔族の一種であり、その頂点に君臨する魔王直属の配下種である。強靭な肉体と強力な攻撃力を有し、人族を軽く凌駕するほどの魔力量を誇る、まさに天災級の種族なのだ。
「早く逃げなきゃ!」
「でもどこへ?!」
慌てふためく者。
グッと唇を噛んで「これまでか」と諦める者。
マックはそのどちらでもなかった。
「浮かんでないで降りてきてよ!」
こともあろうか大きな声を張り上げ、自らデーモンを呼びつけたのだ。
「何言ってるのマック!」
「正気なのか?!」
そう言われても、あの魔族には全くと言っていいほど悪意が無い。彼は本気でそう思ったのである。
声が届いたのか、デーモンはゆっくりと地上に降りるとマックの方を向いて近づいて来た。
「マック、早く逃げなさい。ここは私が……」
「大丈夫だよイザベル」
「し、しかし」
デーモンの威圧感に村人たちが次々に膝を落としていく。
その中でマックだけは平常心のままデーモンを待った。
「貴様がマクスウェル・ブライウッドだな」
「うんそうだよ。魔物って喋れるんだね」
この発言に村人たちは冷や汗をかく。
それもそのはず。デーモンは魔族であって魔物ではない。近いようだが全くの別種。それに加えて魔族、中でもこのデーモン種は知能が高く、プライドも高い種族なのだ。
「……ああ、貴様を探していたのだよマクスウェル」
「僕を?」
いつ殺されてもおかしくない状況で、イザベルが「殺したいのなら私を倒してから――」と名脇役の決まり文句を言おうとした時、デーモンはマックの前に片膝をつき、深々と頭を下げた。
あまりの衝撃的な場面に、村人もマックですらも驚いた。
「我の名はシャウス・アルドガルド。この度は我が眷属を救っていただき、誠に感謝申し上げる」
「眷属?」
マックには心当たりは無いようだ。
すると魔法陣が現れ、中からスライムのウェルと王様が出てきた。
「もしかしてウェルのこと?」
「その通り。そのスライム……ウェルとやらはそちらのキングスライムの眷属。そしてそのキングスライムは我の眷属なのだ」
「なるほど!」
マックは手のひらをポンっと叩いた後、「そんなこと気にしないで」と軽くシャウスの肩を叩いて笑った。
「かたじけない。しかしこれは大きな貸しだ。このままでは魔族としての誇りが許さんのだよ」
「そうだなぁ」
考え込む彼にシャウスはある提案をした。
「我が眷属の中から好きな魔物を何体かお譲りしよう。見たところ貴様はテイマーであるようだし、魔力量も申し分ないようだしな」
「そうかぁ。でもシャウス君が眷属になるのは無理なんだよね?」
一応言っておくが、この時の村人たちは開いた口が塞がらぬままこのやりとりを聞いている。
「……構わんが我で良いのか?」
「もちろんだよ。シャウス君が眷属になれば、この全ての魔物をテイムできるわけでしょ?」
「それはそうだが、我は他のデーモンに比べたら見かけほど強くはないし、その割には魔力量を多く消費してしまうと思うぞ」
再び考え込むマック。
彼の言う通り、魔物数百体に加え、魔族のデーモンをテイムするとなると人族では耐えきれないほどの魔力を消費してしまう。
それに――。
「我はこの森の管理者でもある故、滅多なことが無ければここを離れることはできんのだ」
「あ! それなら」
またマックが迷案を思いついたようだ。
「シャウス君単体をテイムして、君の眷属は間接的な主従《テイム》関係になるっていうのはどうかな!」
普通ならあり得ないことだ。
さすがのデーモン様も苦笑いを浮かべる。
そう、普通なら、な。
シャウスには見えていたのだ。
この少年のステータス欄に、超特異魔法『生物係《いきものがかり》』があるのを。
「よし。上手くいくかは分からんがやってみよう」
「うん!」
と言ったは良いものの、彼《マック》はテイムのやり方を知らない。
ウェルやキングスライムとはいつの間にか契約していたし、そもそもテイマーが何なのか未だにピンときていないのだ。
「まずは、な」
「ふむふむ……」
シャウスは丁寧にテイムのやり方を教えてくれた。聞けば魔族の国で家庭教師をやっていた時期があり、そこで『人族の魔法』を得意分野として教えていたらしい。
魔族に魔法を習うという、画《え》としてはとてもシュールな場面が緩やかに流れていく。
「我が魔の力よ。この者を我の眷属とし、忠義を近いし彼《か》の者に血を分け、力を与えたまえ」
非常にたどたどしい詠唱だったが、無事に魔族種デーモンをテイムすることに成功した。
「いけたね!」
「いけたな」
ハイタッチを交わす二人。
一見和やかに聞こえるかもしれない。だが、村人の立場になって考えてほしい。
ドン引きである。
「あ、もうひとつお願いしていい?」
「もう貴様の眷属なのだ。なんなりと申すが良いぞ」
「それ、貴様じゃなくてマックって呼んでほしいな!」
シャウスは感じていた。
例え超特異魔法の力など無くなっても、この少年の笑顔を守り続けよう――と。
「分かりました。マック殿!」
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