もしも、工作が好きな普通の男の子が伝説のスキルを手に入れたら

小林一咲

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第二章 美談

第十五話 暗躍

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「双方の状況は?」
「は。閣下の読みどおり、バモナウツ王国が優勢のようです」

 閣下と呼ばれるこの男は、聖国家アストリスの参謀役モルトケ・ハン。エクソシストとしての一面もありながら、複雑で綿密な計画を企て、その全てを成功に導いた彼には『知慧のモルトケ』の異名が付けられたという。
 
「常時であれば我々に勝ち目などない。戦争という混乱の最中であるからこそ達成できるのだ」
「いよいよ我が聖国も戦争に参加するのですね」

 聖騎士団の部下たちが勝ちどきのような声を発する中、モルトケがそれを制した。

「戦争とは少し違う。バモナウツの老耄はあの悪魔を匿い、更にはそれを利用して戦争を起こしたのだ。となれば我々が行うのは神聖なる誅罰である!」

 この日、聖国家アストリスの密兵300名、エクソシスト50名はバモナウツ王国に向け進軍を始めた。


◇◇◇◇◇

「こちらにも衛生兵を!」
「回復魔法が使える者はおらんのか!」

 両国の衝突は凄まじく、優勢の王国軍でさえ開戦2日で死者と重軽傷者合わせて2000人を超えていた。
 ツンと鼻を刺す血と薬品の匂いで、支給されたパンの味すら分からなくなっていた。

「もっと美味そうに食ったらどうだよ坊主」
「初めての経験ですので……」
「そうだよなぁ。ああ、美味い!」

 男勝りな彼女は元傭兵で、幾度も修羅場を潜り抜けてきたという。
 僕は補給兵として武具や食糧、ポーションなんかを拠点に届けている。今回は人手が足りなくなり救護所の応援に向かったところ、凄惨な兵士たちの姿に心を痛めていた。

「あのなぁ坊主、戦争ってのは国同士の問題なんだぞ」
「それ3回目ですよ姐さん」

 彼女はパンを頬張りながら満面の笑みで続けた。

「敵兵を何人殺したとか、拠点を奪ったとかそんなのはどうでもいい。大切なのは『生き残ること』だ」
「生き残る……」
「例え戦争に勝ったって坊主が死んだら悲しむ人はいるだろ? そんなの本末転倒ってやつじゃねぇか」

 確かに。僕は彼女の言葉に心の底から同意した。
 こんなところで死んでしまってはリシスや双子、アズボンドに顔向けできない。それに天国の父と母に怒られそうだし。


「敵襲、敵襲!」

 耳を劈くような爆発音と共に、見張り台の兵士が大声を上げた。
 この拠点は前線から遠く離れた場所にある。他の師団に発見されずここまで辿り着くのは不可能なはずだ。


「総員戦闘準備。軽傷者でも戦える者は武器を取れ!」

 
◇◇◇◇◇

「アズボンド様。お客様がいらしておりますが」
「会いたくないと伝えてくれ」
「それが、迷イ森の管理人だと名乗られておりまして……」

 アズボンドが外を見ると、先程のまでの秋晴れとは反対にアズボンドの屋敷は仄暗く澱んだ霧に覆われていた。

「久しぶり、でもないかしら」
「どうしてシュリデがここに?」
「あの起源術師――いえ、貴方のお友達に頼まれたの」

 彼女は出された紅茶をゆっくりと飲みながらアズボンドの部屋を眺めていた。その横顔は黒魔女とは思えないほど美しく、アズボンドにはあの日の憧れのままに輝いて見えた。

「そんなに見つめて、顔に何か付いてるかしら?」
「な、何しに来たんだ」
「失礼な人ね。貴方を励ましに来たのよ」
「励ますって……」

 どうせシントに言われたからだろ。彼女の興味は魔法しか無い。僕が戦地に行ったって何も――。

「別に私はこのままでも良いと思うの。例えあの子が殺されたって、バモナウツ王国は勝利できるわ。だけど、彼は貴方の人生に必要な人なの」
「シリエルが死んだだけでこの落ちぶれようなんだ。彼にとって僕は邪魔者だよ」

 アズボンドは拳を握り締めて俯いた。自分の無力さと情けなさが悔しくてたまらなかった。こんな姿見せたくないはずなのに、どうしてこうなってしまったのかと後悔すればするほど涙が止め処なく溢れた。

「それは彼も同じよアズボンド。そして彼なら……シントならシリエルをこの世に引き戻せる」
「君はシントが怖くないのか?」

 彼女はアズボンドの手を包み込み、優しく微笑んだ。


◇◇◇◇◇

「坊主、なにボーっとしてやがる。その魔剣ならお前でも戦えるだろう!?」
「は、はい」

 開戦前ギリギリで用意した僕専用の魔剣。一振りでドラゴンさえ屠る威力を持つ。「名前は付いてるから意味があるんだ」と、初対面だった姐さんが勢いで名付けてくれた。

「ジークフリートを使います」
「よし。総員下がって坊主を護れ!」

 起動条件は振るだけだが、魔剣の効果は三回限り。目前まで迫った敵に当てるチャンスは一度だけ。


「今だ坊主」

「いっけええぇ!!」

 魔剣ジークフリートから放たれた一閃は敵の大部分を崩壊させ、残った敵兵も馬から転げ落ちた。

「よくやった坊主。残党はウチらの仕事だよ」
「「おう」」


「いやぁ、お手柄だったぜ坊主」
「本当に凄え奴だよ」

 魔剣ジークフリートと兵士たちの活躍で一時的に危機は脱された。参謀本部も今回の件は予想しておらず、未だ予断を許さない状況ではあったが、その晩は拠点で酒盛りが行われた。

「しかしよぉなんで此処がバレたんだ?」
「おい馬鹿ザル、酒の席でそんな話はするな」
「確かに不穏ではあるがなぁ」
「ちょっと、姐さんまで!」

 敵兵は僅か30名。そしてそのほとんどが寄せ集めの民兵だった。「何か裏がある」と、この救護拠点の誰しもが気に病んでいた。


◇◇◇◇◇

「見つけたか。必ずシント・レーブルを殺せ」
「仰せのままに」

 

 シント・レーブル暗殺まで20日。


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