もしも、工作が好きな普通の男の子が伝説のスキルを手に入れたら

小林一咲

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第一章 万華鏡

第十話 解け合う

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「これは素晴らしい」
「是非、王国の兵士たちに使って頂ければ」

 呪いの付与により、魔力不要のアーティファクトの錬金に成功した僕たちはミュールと別れた後王国に戻っていた。

「謁見にも慣れたもんだな」
「いや、まだ2回目だけど」

 僕が戻ると知った国王は、リシスと共に王宮に来るよう命じた。その内容はもちろん、魔力の少ない兵士のため、アーティファクトを王国に献上させるためだ。無理矢理な気もしたが、元々そのつもりだったので逆らうことはしなかった。
 リシスの交渉のおかげで何とか無料提供ではなくなったが、一国の王を相手にするとなると一筋縄ではいかなかった。

「ただいま」
「「おそい」」

 どちらかというと、この2人の方が手強いけど。

「契約成立したわけだし、これで一安心だな」
「とりあえずはね。でも量産するとなると――」

「御免ください」

 その日、工房に来たのは勇者シリエルだった。僕が旅に出る前とは打って変わって、神妙な面持ちをしていた。
 話によると、シリアルの兄、つまりはアズボンドの様子が心配で訪ねて来たらしい。僕は東シーランスで起こった一連の出来事について説明した。

「そうでしたか。まさかシュリデ姉さんが生きていたとは」
「彼女は生きていたんだし、そのうちまた会えるよ。とは言ってみたんだけど」
「大変お見苦しいところをお見せしました」

 深々と頭を下げるシリエル。その姿に、兄への愛と男としての成長した姿が垣間見れた。

「図々しいのは百も承知なのだが、ひとつお願いがあるのです」
「聞こうか」

 シリエル率いるパーティは、いくら勇者の従者と言えどもまだ子供。冒険者ギルドからの討伐依頼をこなし、経験は重ねているものの、深刻な魔力不足に陥っていた。

「次の討伐は魔人の住む『深淵の墓地』に向かうのですが、どうしても勝てる見込みが薄くて……」

 今までは頭のキレるアズボンドも同行していたため、不利な状況も打破できていたらしい。しかし、今回のことで当の本人はそれどころではなく、勇者パーティは崖っぷちに立たされているようだ。

「いくら勇者の力と言えども不死身ではない。兄貴の存在が大きいのは感じていたけど、ここまでとは思わなくて」

 シーランス港に向かう少し前、勇者パーティとアズボンドはバモナウツ王国の南西部『ダダンコ村』に出たオークの群れを討伐した。その際、指揮を取るアズボンドに腹を立てたシリエルと口論になってしまったらしい。

「その日から口を聞いてなくて……」
「お前たちは本当に」

 兄が兄なら弟も弟である。
 
「それで? 僕がアズボンドを説得しろと?」
「いえ、今回はシント殿に同行して欲しいのです!」
「は、はぁ?!」

「ダメ」
「うん、絶対ダメ」

 流石にこればかりは承諾できない。アーティファクトの制作もしなければならないし、ましてや戦闘なんて僕の管轄ではない。

「そこをなんとか!!」
「「ダメ」」

 僕の説得より、彼女たちに頭を下げる方に忙しくするシリエルだった。

「僕はそもそも行けないし、戦闘経験も無い」
「でも――」
「だから、僕のやり方で君たちを助けようと思う」

 僕の本業は起源術。できないことを無理にするより、できることを確実にする方が効果的だ。
 食い下がるシリエルをなんとか説得し、僕は勇者パーティへの贈り物を考案することとした。


「今度は魔剣を作る、か」
「うん。これは1人ではできないからリシスにも手伝って欲しい」
「それは構わんが、俺にできるのか?」
「できないことは頼まないよ」

 不服そうなリシスだったが、渋々手伝ってくれることになった。
 作り方は簡単。先に制作したアーティファクトの応用をすれば良い。まず、伝説の剣『レーヴァテイン』を創る。そしてその刀身に一撃必殺の呪いを、柄には使用者の完全防御の呪いを付与した。

「簡単じゃねぇだろ。というか、これだけで良いんじゃね?」
「まぁ、そうなんだけど。ここからがリシスの出番だよ」

 リシスは世界一の錬金術師。その彼が知っている属性付与の鉱石スキルを全てこの剣に叩き込む。
 
「完成だ!」

*****
<魔剣・レーヴァテイン>
レベル不明
力:2000
頑丈:5000
俊敏:9000
魔力:600

付与スキル:火炎Lv.5、水柱Lv.5、疾風Lv.5、土壁Lv.5、光の矢Lv.5、必中Lv.5、一撃の呪いLv.9
*****

「とんでもない物創りやがって……」
「リシスも共犯だよ」

 だが、この完璧と言える剣にも難点がひとつだけある。それは使い捨てであること。

「だから使うべきところを慎重に見極めるんだ。いいね?」
「ありがとう、シント殿!」

 ようやく、勇者様とも仲良くなれそうだ。
 

「起きて」
「うん、もう朝だよ」

 色々なことが重なり、疲労困憊だったのだろう。僕は工房でそのまま寝てしまっていたらしい。

「ううう頭が痛い……」
「魔力使い過ぎ」
「うん、頑張り過ぎ」

 双子に起こされなければ、いつまで寝ていたか分からない。魔力は回復しきっていないが、休んでもいられない。

 この日から「アーティファクトをたった1人で量産する」という荒業が始まった。

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