もしも、工作が好きな普通の男の子が伝説のスキルを手に入れたら

小林一咲

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第一章 万華鏡

第七話 解決アズボンド

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「従者がいると楽だね」

 従者という名の荷物持ちを従え、僕たちはようやくシーランス港に辿り着いた。
 潮風の香りが鼻を刺激する海辺は年中暖かく、今日も多くの海水浴客で賑わっていた。

「海など久方ぶりです。心躍りますなぁ!」
「脇目を振るのは構わないけど、迷子にならないでね」
「はっ!」
「僕の鉱石落とさないでね」
「……はっ」

 これは決してパワハラではない。本人が「何なりとお申し付け下さい!」と言ったばかりにこのような待遇を強いられている。

「ここが採掘ギルドなんだけど」
「なんかあったのかな?」

 採掘ギルド前は、なにやら人集りができていた。

「錬金術ギルドは直ぐに立ち去れ!」
「ま、待って下さい、どうしても鉱石が必要なんです!」

 どうやら錬金術ギルドの女性と採掘ギルドの男衆が揉めているようだ。それを見たアズボンドは、何も言わず静かに馬車を降りた。

「待ちなさい君たち」
「なんだ小僧。お前もこの女の仲間か?」
「待て。その御方は鑑定士のアズボンド様だ」

 鑑定士の称号は最強だ。威勢の良かった男たちもその言葉には虚勢すら張れないらしい。
 話を聞くと、女性も封印の魔法石を求めてやって来たようだ。しかし、易々と渡せない理由もあるようで。

「近年、魔封石に少しでも別の金属が当たると、効力が半減してしまうという事例が相次ぎまして。それにより採掘に時間を要するのです」
「最近ということは、以前には無かったということですか?」
「はい、その通りです。ここ1年ほどのことです」

 理由は定かではないが、価格も高騰し出荷も滞っているとなると彼の発言は事実なのだろう。
 アズボンドが鑑定するという口実をつけて、実物を見せてもらうことは叶ったが、気掛かりなのは錬金術ギルドの女性のことだ。

「よろしければ魔封石が必要な理由を聞かせてはくれませんか?」
「実は――」

 彼女の住む東シーランスは、以前から漁業の町として栄えてきた。しかし、最近では高齢化が進み、魔力を持つ者が減ってしまったことで釣りに使われるアーティファクトが機能しなくなってしまったらしい。

「どうにか魔封石を用いて、魔力不足を補おうと思ったのですが……」

 彼女は俯き、項垂れた。

「ただでさえ難しい錬金です。それも希少な魔封石を使用しての錬金。そもそも私に出来るかどうかも分からないのに」
「それは奇遇ですね。僕たちも同じようなことを考えてここまでやってきたのです。良ければお手伝いさせて下さい」
「そう、なのですか? 是非お願いします!」

 彼女の顔は急激に明るくなり、僕たちは手を取り合った。

「イチャイチャはそこまでだ。とりあえず、魔封石を手に取って観察してくれ」
「あ、はい」

 何故か不機嫌なアズボンド。
 魔封石の感触、色、形を手で感じ取る。そして驚くべきことに気がついた。

「この魔封石、魔力が込められていますよね?」
「いえ採掘場から持って来たばかりですので……」

 だとするとおかしい。空っぽであるはずなに、ほんの少しだけ淡い魔力を感じる。

「君も感じたようだね」
「アズボンドこれは?」
「これは呪いの類だ。別の金属に触れると効果が半減するというのは恐らくコレのせいだろう」

 その後、詳しく鑑定を行った結果、やはり呪いによる効果であると判明した。

 アズボンドと管理者の権限で採掘作業は中断となり、町の領主とそれぞれのギルドの長が集まり、会合が行われることとなった。


「これで全員揃ったな。これより、先の採掘ギルドへの妨害行為による特別会議を執り行う」
「判明したのは先日、鑑定士アズボンド・ナンバー氏による鑑定の結果だ」
「また蛮族たちの仕業じゃないのか?」

 近くを拠点としている盗賊や山賊の集団があるらしく、町で暴れたり、人攫いを働いたりしているようだ。それらを総称して蛮族と呼んでいるらしい。
 
「どうなんだ? 盗賊ギルドさんよぉ。繋がりの疑惑もあるようだが」
「我々は盗賊と言っても、魔獣や魔人の持ち物しか盗まぬ。奴らと同じにしてもらっては困る」

 会議は平行線のまま、1時間が経過した。

「誰がやったかは二の次で良いでしょう。今後の対応と対策を練るべきでは?」

 見かねたアズボンドの鶴の一声で、冒険者ギルドの魔法使いを募り、呪いを祓うことが決定された。
 流石と言いたいところだけど、最初からこうすれば10分も掛からなかったじゃん。

 程なくして呪いは無事に取り除くことができ、ギルド間の不信感は残ったものの、なんとか一件落着となった。

「結局、誰がやったかは分からなかったね」
「冒険者ギルドと協力して結界や護衛も付けたんだ。この早さでここまで出来たら悪くない」

 ほとんどアズボンドの裁量で決定したようなものだが、完璧かつ迅速な対応にギルド関係者や領主すらも反論することはなかった。

「それに、魔封石も貰ったしね!」
「お礼にしては高いよなぁ……」
「これで貸借りゼロだね」

 そう得意げに鼻を鳴らすアズボンドだった。


『ボフッ』

「また失敗か」

 僕たちはそのままシーランス港に残り、当初の目的であるアーティファクトの作成に取り掛かっていた。

「ミュールさんはどうですか?」
「ダメですぅ。やっぱりは私には無理かも」

 グズり始めると止まらないミュールは、採掘場でであった東シーランスの錬金術師だ。腕は確かだが、前衛的過ぎて結果が追い付かないらしい。

「諦めないでもう少し頑張りましょう」
「はいぃ……」

「ふん、女々しいやつ」

 そして、この男はずっと機嫌が悪い。

「どうして?」
「何が? 私はエルと遊んで来ようっと」

 僕に構ってほしいのだとしたら――。

 
 女々しいやつだな。
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