The Anotherworld In The Game.

北丘 淳士

文字の大きさ
上 下
12 / 36

塹壕戦

しおりを挟む
「スナイパーや地上の遊撃手は、ある程度倒したから先へ進もう。俺が後方からサポートするから、栞が先陣をきって、高倉さんは俺に続く感じで」
 俺は店を出て、そう指示した。
 急にやる気を出した栞は獅子奮迅の活躍をした。栞は戦車などの重機を恐怖の正拳突きで壊しまくる。壁や角に潜む兵士などは、俺が後方から狙い打つ。
 高倉さんは時折、何か得体の知れない物を拾っては、しっかりと俺の後を付いてくる。だが件の公園に着いたとき、そこは幾筋もの縦穴、いわゆる塹壕が掘られていた。
 銃弾が飛び交う中、俺たちは一番手前の塹壕に飛び込んだ。その塹壕に兵士の姿はない。塹壕戦になると、俺のライフルや栞の正拳も役に立たない。
 これは結構時間がかかりそうだ。どうしようか……。
 そう考えていたとき、高倉さんがあるものを取り出した。
「これを使えばすぐに突破できそうですが」
 そう言った高倉さんは、こぶし大の深緑色した塊を軍服から取り出した。
 そういえば、さっき色々拾っていたな。
「真原さん、ちょっとこれを持ってくださる?」
 高倉さんは、その塊を栞に寄越した。
 栞は不思議な表情をして、その塊を受け取る。その瞬間、高倉さんはその塊からピンを引き抜き、俺は彼女に抱きしめられ、一緒に地面に倒れこむ。
「ちょっ、た、高倉さん!?」
「えっ……、えっ!?」
 状況が掴めない栞の手の平から、耳をつんざくような爆発が起こった。栞は訳が判らないうちに爆発に巻き込まれた。
 俺はすぐにそれが手榴弾だと分かった。高倉さんの肩越しに栞を見ると、情けない格好で目を見開いて仰向けに倒れ、コンティニュー? Yes or Noの文字が再び栞の上に現れる。
「うふふ。ピンを外して五秒といったところでしょうか」
 高倉さんは、俺を抱きしめ顔を胸に埋めたまま、その手榴弾の分析をしていたようだった。そして栞のカウントダウンが始まっていたとき、高倉さんは名残惜しそうに俺から身体を離し、立ち上がりながら胸元からまた手榴弾を取り出す。そのピンを外して、絶妙なタイミングで「えいっ」と可愛い声で投げた。爆発音がすると同時に「涼君今です」と高倉さんはいう。一瞬で理解した俺は起き上がり、持っていたライフルで塹壕から飛び出している敵兵を撃っていく。
 なんだか手馴れてない?
 相当やりこんだみたいだな、このゲームを。
 そう思ったのも束の間、今度は高倉さんが塹壕から飛び出した。
「涼君、次に行きましょう」
 俺の手を引きながら相手側の塹壕へと滑り込む。
「え……ちょっと、栞は?」
「道は開けてますから、後で来るでしょう」
「あ……、はい」
 俺は何故か敬語で後に続いた。
「これなら早く済みそうですね!」
 興奮冷めやまないといった感じで俺にぴったりとくっついてきた。三つ目の塹壕にも手榴弾を投げ込み、俺が敵兵をライフルで狙い撃ちした頃に栞が追いつく。
 拳が白くなるまで強く握りしめる栞のこめかみに青筋が立っていた。
「いいんちょ~~う……、いや、あんた、何してくれてんのよ!」
「あ、真原さん、先程はごめんなさい。ちょっと手榴弾の性能を確かめただけですの」
「よくも私を実験台に使ったわね!」
「他に方法が思い浮かばなくて」
 そう言って高倉さんは栞から視線を逸らす。
「ちょっと涼、見たでしょ。この女、猫かぶってるわよ!」
 高倉さんを指差して栞は俺を見る。
「試しに一個適当に投げてみれば判る話でしょ! あんた頭良いんだから、それぐらいのこと分かるはずじゃない!!」
「ま、まあ、落ち着け。高倉さんのおかげでこの塹壕戦の攻略法が分かったんだから……。俺と栞だけじゃこの塹壕戦は攻略出来なかったかもしれないんだぞ」
「そ、それは、分かっているんだけど……!」
「ごめんなさい真原さん。あの時は咄嗟の事だったので機転が利かなくて」
「くっ……!!」
 そのときの栞は怒りの矛先を収めるので精一杯という感じだった。こぶしは握らないで欲しい、怖いから。

 高倉さんのおかげ? で塹壕戦はすんなり攻略し、煉瓦の壁を背に、俺たちはゲイザー大佐が潜んでいると聞かされたビルが見える場所まで来た。そのビルは中層階で外に非常階段もあり、ゲイザー大佐がそこから逃げる可能性も考えて、挟撃が最善策だろうと思った。
「やはりというか、ビルの窓にスナイパーが何人かいるな」
 俺はスコープを覗きながら二人にいう。
「先にスナイパーは俺が潰すから、その後、栞は高倉さんと一緒にビルに入って各階を攻め落としてくれないか? 手榴弾と栞の拳の方が狭いビル内で融通が利くから。スナイパーを潰したら、俺は外の非常階段から攻め入るから、挟み撃ちにしよう」
 そう言って、スコープから目を離して二人を見る。
 腕を組む栞は、「……分かったわ」と返事をしたものの、まだ高倉さんに疑心の目を向けている。
「私は涼君と一緒に行きたいのですが」
「そんなことさせられるわけないでしょ! 私だって涼と行動したいのに、あんたは手榴弾しか使えないんだから」
 二人の間の空気が、さっきよりも険悪になっている。栞の性格が攻撃的なのもあるが、この二人は相性が悪いのだろうか。
 俺はビルから顔を出すスナイパーを潰していった。ある程度一掃したところで、俺は二人に目配せし、共にビルへと向かった。狙撃が終わって無人になった非常階段に足を踏み入れる。時折爆発音や、窓を突き破って落ちていく敵兵を見て、歩調を合わせながら非常階段を登っていく。懸念していた二人の連携は、上手くいっているようだ。ただビルの屋上に近くなるにつれ、ヘリのブレードが回転するような音が聞こえてきた。
しおりを挟む

処理中です...