転生の果てに

北丘 淳士

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ライカ―ル・ハムラス

戦いの跡

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 アンデベルグが手を翳したまま、ベリエルに言う。
「筋肉が衰えてないではないか」
「ああ、いつも鍛えていた。戦いの感覚は少し鈍っているがな。戦っているうちに取り戻すだろう」
「お前のような有力な同志を失うのは本当に惜しい」
「……同志とは思っていなかっただろう!」
 その言葉にアンデベルグは笑みを溢す。
「たとえ力の差があったとしても、私は仲間だと思っていた。願っていたのは仲間を含めた平和だった」
「人攫い集団が何を言う!」ファルナブルは猛りながら突進してきた。
 アンデベルグは手を薙ぎ払う。ファルナブルは軌道を読んでそれを躱した。強烈な巻き込み風で髪が揺れる。
 この風は、まともに受けると拙い!
 ファルナブルは直感的に、そう感じた。
 斜め後からベリエルが走って来る。
 体勢を立て直したファルナブルは、そのままアンデベルグへと突っ込む。アンデベルグは手を翳し、同時に足を踏み込んだ。
 来る!
 また土の塊が地面から襲ってくると読んだファルナブルは左に避けた。目測通り、土壁がそそり立つ。
 背後からやってきたベリエルが剣を薙いだ。
 土壁ごとアンデベルグの左手の先を手首から切り落とした。
 なおもベリエルは追撃しようと突きの構えを見せた。
 だがアンデベルグの血が姿を変えて盾となり、突きの軌道を変える。
 なっ!!
 驚愕したのはファルナブルだけではない。ベリエルも瞠目して見ていた。
 伸びきったベリエルの右手首を、今度は刃と化した血が切り落とした。
 ベリエルの手首から血が淋漓と迸る。
「まだ戦うのかベリエル」
 戦いが一時中断される。
 ベリエルは長い髪の毛を数本千切り、手首に巻いて冷静に止血をしていた。
「丁度、束縛から放たれて、自由を感じたところだ」
 アンデベルグは紋章が彫られた手の甲を見る。左足で地割れを起こし、ベリエルの手の先ごと、剣をその中に落とした。
「そうか、私も手首を失ったが、血液という自在に操れる液体を得る事が出来た。お前はもう剣もない。これはどういう事か分からない訳はないはずだ。……どうだ、まだ間に合うぞ」
 止血を終えたベリエルは左手を残された土壁に叩きつけ、それを粉砕する。
「冗談を。やっと身体が温まってきたところだ」
 これで剣の巻き添えを食らう事は無くなったが、あの血の刃を相手に倒すことが出来るのだろうか。アンデベルグのヤツは今、ベリエルに集中している。ヤツを盾にして……。
 ファルナブルは戦況を伺っていた。動き出すタイミングを見誤ると詰んでしまう。
 その時、ベリエルは左手を振って掴んでいた土を投げつけた。
 上手い! 壊した時、土を掴んでいたのか!
 と思うと同時にファルナブルも動き出していた。
 ベリエルが駆け間合いを詰める。体重を乗せたベリエルの左拳がアンデベルグを襲うも、血の盾でガードする。
 ファルナブルはアンデベルグの足を払った。
 アンデベルグは後ろに倒れ、血の刃がベリエルの鼻先を掠めると同時にアンデベルグは手を薙ぎ、放たれた真空の刃はベリエルの胸部を切り裂いた。
 倒されたアンデベルグは自身を震源地とした地震を起こし、二人がバランスを崩しているうちに立ち上がる。
「どうした、満身創痍ではないか」
 アンデベルグは不敵に笑う。
 ベリエルは胸の傷の深さを確かめている。だがそれほど効いてない様だった。
「かすり傷だ。ダメージのうちに入らない。それよりもその血の刃、射程距離が短いな」
 そうだ。自分の血を纏っている為、一定の量しか使えないはず。
 ベリエルは咄嗟に、その事に気づいた。戦いながらも細かく分析をしている。
「剣が、欲しいな……」
 ベリエルが、そう呟いた時だった。
 アロア平原に一本の騎士剣が刺さっていた。距離は二十メートル程。気づいたのは三人同時だった。
 すぐにベリエルが剣に向かって駆ける。アンデベルグは彼の軌道を読んで火球を放とうとしていた。ファルナブルは、そのがら空きの背中に飛び蹴りを放った。
「ぐっ……」
 火球は僅かに逸れる。背後からの攻撃にアンデベルグは手をつき、それでも地割れを起こした。剣に向かって地割れが走る。クラックに飲み込まれる前にベリエルは剣を抜き取った。
 よしっ!
 連撃を叩き込もうとしていたファルナブルは再びアンデベルグを纏う風の壁に飛ばされたが、両手で防御していた。
 剣を手に取ったベリエルはそれを薙ぐ。剣尖は平原に深い溝を作った。
「良い剣だ。誰のかは知らんが借りよう」
 アンデベルグはすでに次の体勢に入っていた。片手を前に出し気を練る。さきほど大地を抉(えぐ)った技だ、とファルナブルは気づく。その時にはもう掌から放たれていた。なんとか目に負える速度でそれは発射された。ベリエルは咄嗟にその黒球を剣で断とうとした。
 だめだ、剣が負ける!
 だが、ファルナブルの思惑は外れその黒球を吸い込んでしまった。
 驚いていたのはアンデベルグもだった。
 左手のみで剣を握り、一直線にアンデベルグへと向かう。
 アンデベルグは火球や風の刃を飛ばすも、その剣に吸い込まれていく。
「なんだ、その剣は!!」
 アンデベルグは土の壁を作り、血の盾も作り出した。
 だが、その剣はその二つともバターのように斬る。アンデベルグの頭部は胴体と離れ離れになった。鮮血を上げ、アンデベルグは倒れた。断末魔すら残さない。
 剣を眇めていたベリエルは、ファルナブルに問う。
「俺を止めるかい?」
「……これからお前はどうするのだ?」彼は反問する。
「俺は畑でも耕すとするさ」
「……なら止めない。左手だけで出来るのか?」
「造作もない」
 ベリエルは剣を担ぎ、ファルナブルに背を向けて歩き出した。
 さっきの剣は一体どこから……。
 疑問に思っても仕方のないことだった。
 師範たちはどうしたんだ。
 体にいくつか傷を増やしたファルナブルは、フラムが降りてきた場所に戻った。

「フィノナ!!」
 残っていたのは首が吹き飛んだフィノナの遺体と戦いの跡だった。ファルナブルは真っ先にフィノナの遺体の下に駆けた。
 ああ、なんてことを……、まだ若いのに……。
 涙を流し、遺体を抱く。
 この跡は師範とライカ―ルが戦ったのか? それにしても二人ともどこに……。
 フラム争奪戦で失ったものは大きかった。
 ラネル族は消滅し、パザウッドとライカ―ルの消息が分からないままだった。
 その戦いを陰から見ていた者がいた。
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