桜舞う星の下で

北丘 淳士

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圧倒的な差

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 その日の夕方、朋は三日ぶりに開放され、夕食を一緒にと三弥の部屋に来ていた。差し向かいに座った朋は三弥の眉を読んだ。
「みっちゃん、どうしたの? 深刻な顔して」
「あっ、ううん、何でもない」
「……那美先生のことでも考えていたのかな」
「……うん、まあ」
 胡乱気に出た三弥の言葉に、楽しげにブルーベリータルトを口に入れていた朋は半眼になった。
「今日の練習で何かあったの?」
 三弥はテレパスをシャットアウトし片手で頭を抱え、瞑目しながら言った。
「いや、なんでもないんだ。ごめん、御飯を食べよう」
「私はとっくに食べ終わっているわよ。何か悩みがあるなら、この朋ちゃんが聞いてあげようか」
「プライバシーに関わることだから、ちょっと悪い。ごめんな」
「えー、いいじゃない。朋ちゃん口堅いよ! ……那美先生のことでしょ?」
 朋の気迫に、三弥は黙してしまった。
「みっちゃんさー、相手は先生だよ! 歳は近いかもしれないけど、向こうからしてみれば生徒とか子供としてしか見てくれないわよ。こ、恋人が欲しいなら、私がなってあげる」
 そう言った朋の白磁の顔に、赤みが差した。
「いや、そんなんじゃないんだって」
「えっと、私の告白は無視ですか?」
「あー、ご、ごめん。あー、えっと、はい」
 三弥は夕食に出されていたアップルタルトを、朋に渡した。
「わーい、やったー」
 アップルタルトを受け取った朋は表情を元に戻した。
 ちょろいなぁ。
「それよりも聞いてよ。また那美さんったらさぁ――」
 今度は逆に朋は愚痴を溢し、アップルタルトを小さなフォークで器用に口に入れていく。その現金なさまに三弥は思わず微笑む。
「ところで朋の能力開発はうまく行っているのか?」
「まあまあ。少しずつって感じ」
「那美さんに今度コツを教えてもらおうかな」
「あのさー、目の前にプロがいるのに、何、無視してるのかなー」
 すでに朋はアップルタルトを平らげてしまっていた。
「あ、ああ。一通り教えてくれないかな」
「うん、いいわよ。何から知りたい?」
「クレヤボヤンスかなぁ。最近伸びてないし」
「クレヤボヤンスか~……実はね、みっちゃんや隼人君には内緒って言われたんだけど、最近那美さんが鉛が入ってない部屋に連れて行ってくれているんだ」
「えっ、ホントに!」
「うん。私はテレポーテーションが出来ないから特別にって。それにこの鉛入りの狭い空間ではクレヤボヤンスは伸びないの」
「そう言われてみれば、そうだよな。5~6mの室内が最大になるからね。それで朋はどこまで見えるの」
「ここを中心とした地球の半球強は見えるわよ。地球全体を網羅するのはもうちょっとかな」
「半球!! すごいな……、思っていたより遥かにすごい」
「えへへ! 褒めて、褒めて! もっと褒めて!」
「じゃあ、俺がそれぐらいまで成長するには、鉛の壁ぐらい透視しなくてはいけないな」
「いや、私もここの鉛の壁は透視出来ないんだけどね。外を見たいのなら今度那美さんに聞いててあげる。みっちゃんは逃げ出すタイプじゃないから、たぶん那美先生もOKしてくれると思うわよ」
 隼人にも朋にも能力が追い付かない自分に三弥は多少の焦りがあった。
 どちらかに集中して、究極まで伸ばしたいという悩みも少なからず抱えていた。
「ところで距離を延ばすコツってあるの?」
「そうねえ、距離を延ばすためには、まずは大きく物事を視ることかな」
「大きく?」
「そう。地球が自転しているという事象を、空を見ないで感じること」
「はぁ!? いきなり難しいな」
「まだまだ難しい課題はあるわよ。自転を体で感じたら今度は公転。太陽を軸に24時間で回っていることを体で認識すること」
 三弥は眼を瞑り、まずは自転を感じることに集中した。
「そして最後に、太陽系が銀河系の中でどのように動いているか。結構集中とイメージが大変なのよ。森を見て草も見る感じかな」
「そんなの集中力がもたないよ」
「20分もブースト出来るみっちゃんには、楽勝じゃない」
 朋の楽観的な表情に苦笑し、彼女は三弥の肩をバンバンと叩いた。
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