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容疑者
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ショッピングモールは即、営業停止。警察車両十数台が続々と現場に到着。ウォッドは救急車両で運ばれ、怪我がないことを確認されたフーリエはタオルで顔の返り血を拭うよう言われ、精神的に安定するまで病院で警察の保護下に置かれることになった。
仕事中だったアベイダとカミルは連絡を受け、慌てて病院へと向かった。二人ともほとんど同時に到着し、ベッドに腰かけていたフーリエを見るなり駆け、黒く長い髪ごと頭を抱きしめる。
「よかった、あなたに怪我が無くて」
事件に巻き込まれたが怪我はないという連絡を受けても心配で駆け付けてきた。
「お嬢さんはご無事でしたが、心的障害が残る可能性が高いです。警察に聞いた話によりますと、かなり酷い状況だったようで」
ベッド脇の椅子に座る女医が状況を説明する。近くには二名の警察官も立っていて、事件は凄惨だったことが伺える。
「到着してすぐに安定剤を投薬しましたので、時期に落ち着いてくるでしょう。しばらく休んで、それから少しずつ考えたり体を動かしたりして下さい。あと、ご家族でも心のケアをよろしくお願いします」
「体格からおそらく男だと思いますが、その男は黒い仮面をつけてました。髪は短くて、服装は……」
事件から半日、様子が落ち着いてきたフーリエは訥々とだが事件の内容を話し始めた。一人の警察官が訊き、もう一人がボイスレコーダーを回している。
フーリエの目は今だ茫然自失の状態だった。
「話してくれてありがとう。恐らく君には殺害の手は伸びないと思われるけど、犯人逮捕までは警察が監視するから安心してほしい」
その言葉をかける警察官の隣の一人はボイスレコーダーを持って外に出て行ってしまった。
その頃、警察本部ではショッピングモールの監視カメラを全て取り寄せ、事件の全容を掴もうと目を凝らしていた。
「ただいま巡査から連絡がありました。犯人の服装は……」
射殺した犯人の特徴を知った刑事は低く唸る。
「やはりこいつか。この髪の長い……、おそらく男だろう。この男はウォッド・クロストを三時間前から追っている」
その胸の辺りまで髪を伸ばしている、骨格的に見て男性を犯人だと判断した刑事は、当たりを付けていた男と服装が一致しているのを確認した。
「髪は短い、と被害者、いえ、目撃者の女性は言ってましたが、おそらくウィッグを用意していたんでしょうね」
「まずは犯罪者の履歴から調べよう。手口が手慣れている。そしてビデオから男性が触ったと思われる場所から採取した指紋から炙り出そう」
犯行から一日で犯人は特定できた。犯罪履歴から浮かび上がった犯人はカータス・メグウェル、四十八歳、男。
警察官はすぐに主要道路に検問を敷き、カータスが居住するコンドミニアムの一室を包囲した。両隣の住人はすでに避難させている。先の調べで間取りは2DKだと分かっていた。ベテラン刑事の一人がブザーを押すも反応は無い。管理会社から借りてきた合鍵を静かに入れ、ゆっくりと回し静かに解錠した。ゆっくりとノブを回すとチェーンロックがかけられている。それを確認した刑事はボルトクリッパーを持つ警官に目で合図する。ボルトクリッパーでチェーンを切った瞬間に扉を開け、強化アクリルの盾を持った機動隊が前に入って、刑事をガードする。だが反応は無い。刑事は銃を構えたまま機動隊を盾に、土足でゆっくりと奥へと進む。トイレ、バスルームを確認して突き当り奥の部屋、短い髪の男がパソコンデスクの前で背中を見せて座っていた。
「カータス・メグウェルだな!」
叫ぶ刑事に対し、カータスはゆっくりと両手を上げ後頭部に手を回す。そして微かな笑みを浮かべ椅子ごとクルリと回った。まるで逮捕されるのを待っていたかのような様子だった。
仕事中だったアベイダとカミルは連絡を受け、慌てて病院へと向かった。二人ともほとんど同時に到着し、ベッドに腰かけていたフーリエを見るなり駆け、黒く長い髪ごと頭を抱きしめる。
「よかった、あなたに怪我が無くて」
事件に巻き込まれたが怪我はないという連絡を受けても心配で駆け付けてきた。
「お嬢さんはご無事でしたが、心的障害が残る可能性が高いです。警察に聞いた話によりますと、かなり酷い状況だったようで」
ベッド脇の椅子に座る女医が状況を説明する。近くには二名の警察官も立っていて、事件は凄惨だったことが伺える。
「到着してすぐに安定剤を投薬しましたので、時期に落ち着いてくるでしょう。しばらく休んで、それから少しずつ考えたり体を動かしたりして下さい。あと、ご家族でも心のケアをよろしくお願いします」
「体格からおそらく男だと思いますが、その男は黒い仮面をつけてました。髪は短くて、服装は……」
事件から半日、様子が落ち着いてきたフーリエは訥々とだが事件の内容を話し始めた。一人の警察官が訊き、もう一人がボイスレコーダーを回している。
フーリエの目は今だ茫然自失の状態だった。
「話してくれてありがとう。恐らく君には殺害の手は伸びないと思われるけど、犯人逮捕までは警察が監視するから安心してほしい」
その言葉をかける警察官の隣の一人はボイスレコーダーを持って外に出て行ってしまった。
その頃、警察本部ではショッピングモールの監視カメラを全て取り寄せ、事件の全容を掴もうと目を凝らしていた。
「ただいま巡査から連絡がありました。犯人の服装は……」
射殺した犯人の特徴を知った刑事は低く唸る。
「やはりこいつか。この髪の長い……、おそらく男だろう。この男はウォッド・クロストを三時間前から追っている」
その胸の辺りまで髪を伸ばしている、骨格的に見て男性を犯人だと判断した刑事は、当たりを付けていた男と服装が一致しているのを確認した。
「髪は短い、と被害者、いえ、目撃者の女性は言ってましたが、おそらくウィッグを用意していたんでしょうね」
「まずは犯罪者の履歴から調べよう。手口が手慣れている。そしてビデオから男性が触ったと思われる場所から採取した指紋から炙り出そう」
犯行から一日で犯人は特定できた。犯罪履歴から浮かび上がった犯人はカータス・メグウェル、四十八歳、男。
警察官はすぐに主要道路に検問を敷き、カータスが居住するコンドミニアムの一室を包囲した。両隣の住人はすでに避難させている。先の調べで間取りは2DKだと分かっていた。ベテラン刑事の一人がブザーを押すも反応は無い。管理会社から借りてきた合鍵を静かに入れ、ゆっくりと回し静かに解錠した。ゆっくりとノブを回すとチェーンロックがかけられている。それを確認した刑事はボルトクリッパーを持つ警官に目で合図する。ボルトクリッパーでチェーンを切った瞬間に扉を開け、強化アクリルの盾を持った機動隊が前に入って、刑事をガードする。だが反応は無い。刑事は銃を構えたまま機動隊を盾に、土足でゆっくりと奥へと進む。トイレ、バスルームを確認して突き当り奥の部屋、短い髪の男がパソコンデスクの前で背中を見せて座っていた。
「カータス・メグウェルだな!」
叫ぶ刑事に対し、カータスはゆっくりと両手を上げ後頭部に手を回す。そして微かな笑みを浮かべ椅子ごとクルリと回った。まるで逮捕されるのを待っていたかのような様子だった。
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