魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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もう一つの神具

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 世界は漆黒だった。ただ濃くて白い靄が旭を包んでいる。
 今まで乳白色の壁に囲われていたはずなのに――。ここは死後の世界なのだろうか――。
 だが隣で人の温もりを感じる。思わず起き上がろうとすると、左足に激痛が走った。旭は思わず呻く。どのタイミングで怪我したのかは分からない。
 その温もりから白い靄が出ていた。靄と言っても、非常に粘り気のある液体のような感じだった。
「アリス、ライト全方向」
 途端に首に巻いたLOTから光が放たれた。だが光を放つも周囲は漆黒のままだった。そして旭はその白い靄を掻き分けるも出所が見えない。だが丁度その靄を出す本体に触れた時、記憶が遡った。
 この匂いはリータの香水……。
 旭は顔を近づける。すると、その中心にリータが気を失っていて、彼女の小さく黒いネックレスがゆっくりと明滅していた。半ば彼女に覆いかぶさるような体勢になっていた。リータの頸動脈を押さえ旭は確かめる。
 よし、まだ生きている。
「リータ、ねぇ、起きれる?」
 触れるに近い感じで軽くリータの頬を叩く。
「……んっ」
 意識を取り戻したリータは、うっすらと目を開ける。
「ア、アキラ様、……ここは?」
「良かった、気づいて。ここは……、どこなのか俺でも分からない。ところで怪我はしてない?」
 リータは手をついて半身を起こした。
「あっ、大丈夫?」
「……はい、大丈夫そうです」
 そしてリータは立ち上がった。濃く白い靄に包まれたままリータは周囲を見渡すも、靄で周囲が見えなかった。
「ちょっと待って、リータ」
 そう言って、旭は立ち上がろうとするも、左足に激痛が走り上手く立てない。
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だと思う。多分、骨が折れているぐらいだから」
「大丈夫では、ないではないですか!」
「ううん、骨折ぐらいなら二日で治るよ」
 その言葉にリータは驚いたが、彼女は旭を支えて彼を起こした。
 白い靄のため、周囲が確認しづらかった。だがその靄の出所がリータのネックレスだと思った旭は、リータの首に手を回した。
「アキラ様……?」
「ちょっと、そのままで」
 ネックレスの留め具を外すのに手こずったが、何とか外すことが出来た。ネックレスを右手に持つと、リータの顔が視認できるようになった。LOTの明かりにリータは目を細める。
「あ、ごめん。アリス、ライトを弱めて」
 旭の顔を確認したリータは、旭の胸に飛び込んできた。
 左足が痛んだものの、旭はリータを抱きしめ返した。
「良かったアキラ様、御無事で……」
「うん……。でもここはどこだろう……」
 旭は周囲を見渡すと小さな立方体を発見した。旭はリータ支えられながら、それを拾い上げる。
「自鳴琴だ」
 先ほどまで反物質で満たされていたそれは、すでに空になり、機能を停止していた。
 ――この靄のおかげで助かったのか? このリータの黒いネックレスから出た靄が、対消滅を無効にさせたのだろうか。まだ仮説の段階だが、他に考えが無いので旭はリータに尋ねた。
「リータ、このネックレスは大事な物?」
「はい、幼少の頃、父上が私に下さったものです」
「そうか。……一旦ここに置いたまま、周囲を調べよう。後で取りに来るから」
「はい。それならば大丈夫です」
 旭はネックレスと自鳴琴を一緒にして足元に置いた。そして漆黒の世界に足を踏み入れた。リータの肩を借りて少しづつ前に進む。
 リータは、星が四分の一消滅するかもしれない反物質を抱えているのに、俺と一緒に飛び込んできてくれた。おそらくは、それは彼女の想いなのだろう。そう考えると自分の信念が小さい事のように感じた。
「敵わないよ……」
「えっ、どうしたのですか?」
「ううん、なんでもない」
「それにしても、ここはどこですか?」
「まだ分からないんだ。ベリザスタ42という空間に飛び込んだんだけど、どうなっているかの全然分からない」

 二人は三分近く彷徨い続けた。するとLOTの光が一瞬反射したのをリータは見逃さなかった。
「あそこに何かあるようですけど……」
 リータは指をさす。
「ん? じゃあ、ちょっと行ってみようか」
 二人はその方向に進むと、黒い直方体の物体が露になってきた。それは横倒しになっている。その直方体から空気が漏れるような音がする。その直方体の端は斜めに切り取られていた。
「あっ、ラグラニアのコンソール……」
「コンソール?」
「ああ、ここはラグラニアの中だったんだ」
 ベリザスタ42が余りにも広大で、真球の底が平らに感じていたのだった。
「そうか、対消滅で物質は殆ど無くなったが、コンソールと自鳴琴は対消滅をも受け付けないほどの物質だったのか」
 旭の肩を支えるリータは首を傾げる。
「エルザ?」
「はい、何でしょう」
 黒い直方体からエルザの声が響く。エルザが稼働している事に旭は安堵した。
「外に出られる?」
「それは疑問でしょうか、命令でしょうか」
 その言葉に旭は思わず失笑した。
「命令だ。二人とも外に頼む」
「分かりました。ごきげんよう」
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