魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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幻惑

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 突然、白煙に包まれた室内に、ジェリコは一瞬気を取られていた。そんなジェリコにエディアは間合いを詰め、無言で躊躇なく細剣を低く構え突進する。
「エディア! お前が来るのは分かっていた!」
 ジェリコはエディアの細剣による突きを、ブレードの腹で捌こうとした。
 だが、そのブレードは細剣に当たることなく空振りした。
「なっ!」
 そのままエディアが突っ込んでくる。エディアの身体がジェリコと接触しようとし、ジェリコは思わず身を竦ませる。エディアはそのままジェリコの身体を通過した。その後にエディアが同じ構えで、もう一人現れた。ジェリコの頭は一瞬で混乱した。
 白煙を搔き分けるように姿を現したエディアは、一番狙いやすいブレードに焦点を合わせた。低い体勢から突きを繰り出す。
 硬直したジェリコはその動きに反応できなかった。ボディースーツに覆われていない手首から先をエディアは突いた。
「ぐっっ……」
 彼の手から弾かれたブレードは、剣尖から床に落ち、音もたてずに石畳を突き抜け、階下へと消えていった。それを見たジェリコは左手に持つ自鳴琴を掲げた。その瞬間、旭が白煙から現れ、細剣を片手に飛びかかる。
「素人が!」
 ジェリコは白い弾丸を旭に向けて放つ。
 だがその弾丸は旭の身体をすり抜け、背後の壁の一部を消滅させた。
 そして飛びかかった旭は高速で消え、ジェリコは白煙を掻き分けて黒い物体が飛び込んでくるのを一瞬だけ確認した。
 ――訳が分からない!
 そのまま黒い物体は高速でジェリコの胸部に当たり、彼は壁の端に叩きつけられた。
 倒れ込み、後頭部を押さえて呻くジェリコに、エディアが剣を向けて言う。
「ジェリコ、投降すれば命までは奪わない。でも恐らくこの世界で極刑でしょうね。罪は罰で贖いなさい!!」
 エディアの持つ細剣の剣尖は、ボディースーツに守られていないジェリコの頭部を狙っている。
 後頭部を摩りながらジェリコは顔を上げた。
「エディア、お前、北野の娘だったんだってな……。北野のLOTに綴られてあったぞ」
 その言葉にエディアの向ける剣尖が僅かに震える。エディアはジェリコの首と手首を見たが、LOTはジェリコの左手首に一つしか巻かれていない。
「パパのLOTはどこ?」
「俺の右のポケットに入っている」
 欺瞞ではないのか、と言いたげな表情でエディアは更に警戒を深めた。
「……ゆっくり出しなさい。ゆっくり出して床に転がして渡すの!」
 ひたとエディアを見つめながら、ジェリコは右手をポケットに入れ、帯状のLOTを摘んで出す。そしてそのままLOTをエディアに放り投げた。
「なっ!」
 小さい喫驚の声を上げたエディアは思わず剣を引いて掴み取ろうとした。
 北野のLOTは、そのままエディアに向けて放り投げられた。ほんの一瞬だったが、思わずそれを受け取ろうとしたエディアに隙が出来る。
 その隙にジェリコは左手で自鳴琴を拾い上げた。
 エディアを間に挟んでしまい、何も出来ない旭を尻目にジェリコは飛び上がり、神具の一つ、野球ボールほどの黒い球体を拾い上げた。そしてすぐに「起動せよ!」と叫ぶ。
 黒い球体に小さい白斑が浮かび上がり、その一つをジェリコは押した。
 喫驚の声を漏らしながらエディアは再び細剣を構えた。
 ジェリコの左手に握られる自鳴琴に、爆弾と呼ぶにはあまりにも微粒子な反物質がすでに精製されている。そのまま発射されれば距離的に間に合わない。だが彼我の距離を縮めたほうが反物質を放てないだろうと、エディアは命を顧みず本能が後頭部を粟立たせる死の間合いに入っていった。
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