魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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来襲

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「ん? どうしたのアキラ?」
「えっ?」
 旭は白斑から少し手を離した状態で意識はラステア城地下に戻って来ていた。
「だから何か反応はあったの?」
 隣の山代も不思議そうな顔をしている。
「あ、ああ……。色々教わった」
 旭は、どこから話せば良いものかと言葉を選んだ。
「トリオン人は一度絶滅寸前まで追いやられたんだ。それに抗ったのがリータ達が言う、神祖の民と呼ばれる人たちだろう」
 エリアナが好奇心を眸に煌かせながら聞いてきた。
「神祖の民アキラ様はダグラニ様をご存知ですよね!」
「いくらアキラでも、他の星の昔話なんか知っているわけないわ」
 エディアが返した。
「……いや、面識はあるし、トラム・ダグラニのことも知っている」
「え、どういう事!?」
 山代も、先ほど旭が白斑に触れた時から、様子が変だと感じ始めていた。
「東城君、何があったのか詳しく教えてくれないか」
 エディアだけでなく、山代も珍しく眉を顰めて旭を見ている。
「彼は……、彼らは神祖の民と言われているらしいけど、実のところ『科学者』だ。このダグラニ神書を通じて辻褄があった」
「カガクシャ……?」
 そのような単語が無いのか、リータとエリアナは頭を傾げていた。
「トラム・ダグラニがそのラグラニアとか、神具を創ったのは間違いない。それにリータ、エリアナ、……エフェロンってのは神ではない。星全土を焼き尽くすような宇宙規模の災害を神々からの天罰だということに置き換わったのではないかと俺は思う。あきらかに推論だけど」
「宇宙規模の災害……?」
「この星がその災害に襲われ、ラグラニアに乗って脱出した人々の漂着先が俺達の住んでいる地球なんだ。トリオン人は俺たちの先祖にあたる可能性がある。……あ、いや、それは言い過ぎかも……」
 旭はあまりにも突飛な考えに、その先を言い淀んだが、実際にトリオン人と地球の人類の相貌の違いが無いことに、旭は心の底では可能性があるかもしれない、と考えていた。
「東城君、いったい何を見てきたんだ?」
 山代が身を乗り出して聞いてくる。
「リータやエリアナが言っている、その神祖の民というのは、十三万年前この地上に残って災害から抗っていた科学者たちなんだ。そして生き残ったトリオン人のために、このダグラニ神書を残したと言っていた」
 エディアが首を傾げて問う。
「言っていた? どういう意味?」
 まだ色々な疑問が渦巻いている中、旭は山代に聞く。
「山代教授、この白斑に……」
 その時、山代のLOTが警告音を発した。山代は慌ててLOTをロック解除して展開したと同時に叫んだ。
「コランダムが近くにきている!」
「本当ですか!?」
「ああ、彼のLOTが一定の範囲内に入ってきたらアラームがなるようにセットしていたのだが、おそらく今この城の門辺りで彼の動きが止まっている」
 そしてすぐに血相を変えたラムザが、地下室にノックもせずに駆け込んできた。
「リータ様、ログゼット殿とアベルディ殿が、アキラ様たちの身柄を拘束したいと申しております!」
「えっ……なぜですか? なぜ将軍、いや、官憲長が再びアキラ様を!?」
「詳しくは分かりません。ただ連絡をくれた従者が、背後にアベルディ殿が控えていたと言っておりました。そして回答の期限まで10分を切っています!」
「拒否したらどうするつもりだと、言っているのですか?」
「それなんですが、一個中隊の官憲隊が破城鎚を持って城門前に待機していると言っていたので、どうやら武力行使も辞さない構えのようです!」
「リータ、官憲隊って、昨日城まで案内してきた人たちかい?」
「ええ、そうです。以前はこの王宮の将軍の地位にあって、義を重んじる気高い方だったのですが――」
「今度は話が通じるから、大人しく全てを話せばいいだけだと思うんだけど」
「行く必要はありません! アベルディ殿が関わっているとなると、事態は変わってきます。アキラ様は必ず私がお守りしますので!」と厳然とリータに制された。「それにアベルディ殿の狙いは私の部屋に置いている神具でしょう。アベルディ殿とは、母上から宛がわれた婚約者なのですが……。あっ、いえ! 婚約者と言っても相手にしてませんでしたので、やましいことは何1つしてませんよ!」
 旭を見て狼狽しながらリータは弁明した。
「それよりも先に話を進めよう。リータ、何を言いかけたんだ?」
「あっ! はい。ここには博物館に置いていない神具があるのです」
「うん、何となく分かっている。俺とリータを11年前につないでいたのも、その神具とやらのおかげだ。恐らくその神具と、ラグラニアは立体映像を交信している」
「何度かアベルディ殿が来訪されたとき、その陳列棚の中を、ちらちら見ていました。本人は私が気付いていない、と思っていたみたいですが」
 たしかにリータの部屋を見たとき、ラグラニアと同じような漆黒の器具みたいなものを山代と旭は確認していた。
「傷1つ付いていないので確かな物だとは思います。ただ先日博物館から盗まれた神具を、アキラ様の探している方が使っていたとの噂です」
「その道具をもってる男が、この城の門前に待機しているんだ。俺の推測なのだけど、俺たちがここにいてはこの城が危ないかもしれない」
「この城を甘く見ては困ります」
 そう言ってリータはラムザを見遣る。
「ラムザ枢機卿! アキラ様たちの引き渡し拒否の旨をログゼット殿に伝達してください。アキラ様、私たちは神具が置いてある私の部屋に戻りましょう。アベルディ殿の狙いは、おそらくその神具です。旭様たちなら使えるでしょうから有事の際は使ってください」
 そう言ってリータは再びラムザを見る。
「ラムザ卿、そしてすべての王宮騎士に伝令です! 神祖の民アキラ様を庇護するように。官憲隊が引き下がらねば、交戦も構いません。ただ双方とも出来るだけ穏便に事態を収束するよう努めて下さい! こちらの3名は神祖の民であるがゆえにラステアの法は無効という理由をしっかりと伝えるのです!」
 そう命じられたラムザは黙礼し、騎士2名を従えて、すぐに部屋を飛び出した。
「待ってくれリータ。俺たち3人が出向けばそれで済む話だ。そんな、争うだなんて」
 その旭の言葉にリータは寂しそうな目を向ける。
「アベルディ殿、いえ、アベルディは嗜虐性が強い人物です。私は人を見る目を、知らず知らずのうちに養われてきましたから分かるのです。おそらくアキラ様たちが捕まれば、待っているのは拷問である可能性が大きいです。それにアキラ様の探している方がアベルディと一緒にいるのでしたら何か不穏な予感がするのです」
「拷問……」
 この星では、まだ拷問が当たり前のように行われているのか――。
「このラステアでの争いなどというものは、意見が違いなどで、すぐに惹起されるものなのです。アキラ様にしてみれば、さぞかし野蛮に思われるでしょうが」
 旭はかぶりを振った。
「俺たちの世界にも、いまだ紛争や内戦、国家間の戦争が絶えない。宗教や考え方の違い、誇りや過去の怨念といった当の本人も知らない理由で争っている。戦争が長引けば長引くほど富を得る者もいる。その呪縛にも似た怨念の連鎖が決着を見る日は、未来永劫訪れることはないかもしれない」
 だがリータはそれを謙遜だと思った。恥ずかしげな表情で一息つき、今度は凛然と胸を張って言った。
「もしアキラ様が拷問などにより絶息されましたら、私はアベルディを絶対に許さないでしょう。刺し違えてでも仇を――」
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