魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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ダグラニ神書

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「私、王立博物館で補修主任を任されております、エリアナ・サンベストと申します。此度は拝謁賜り、至極光栄に存じます。昨日、神祖の民が4名顕現されまして、私の知識がお役に立てるかと思い伺った次第です」
 謁見の間ではなく、リータの自室にエリアナ・サンベストは招き入れられた。ティーテーブルに座るリータに、近くのテーブルに座る異質のボディースーツに身を包む旭たちを前に恭しく首を垂れる。
「神祖の民? なぜその名前を……」
 だがリータは、彼女が博物館の主任という事で一旦、理解した。
「以前より謁見の申し込みをされていた方ですね。結構です。頭を上げてください。揺籃の上に出現した神具を持参するようお願いしていましたが……」
 覇気のないリータの、その言葉にエリアナは頭を上げ、バッグからラグラニアを取り出そうとした。旭はリータを通じて事前に白斑に触れないよう警告していたので、やや緊張と興奮が混ざった面持ちで彼女はラグラニアを取り出す。だが取り出してすぐに出たエリアナの言葉は質問だった。
「早速で失礼ですが、リータ様はダグラニ神書をご存知でしょうか?」
 エリアナは早速本題を切り出した。
「えっと……、もちろん知っています。神祖の民の長ダグラニ様が記した経典のことですよね。私の城の地下、書架に眠っていますが、それがどうかしたのですか?」
「やはりそうでしたか! おそらくラステア城に保管されていると思っていました。ダグラニ神書の解読は済んでらっしゃるのですか?」
「いいえ、一部を除いて解読は進んでいません。あっ! アキラ様たちなら解読か読むことができるのではないのですか?」
 そう言って、椅子に座ったままリータは旭を見る。
「ええと、それを見せてくれれば何とかなると思うけど……」と近くに座る旭は返す。
「申し訳ありません、今日を除いてリータ様と面会できる立場にも機会もございませんので、御無礼を承知の上で申し上げます。どうか私に閲覧の許可をいただきたいのです。ぜひともお願いいたします」
 そう懇願されたリータは、2人の会話を聞いていた旭たちに再び目をよこした。
 旭は、自分達がこの星に来れた理由と、そのダグラニ新書とやらに何かしら関係があるのではないかと考え始めていたので、リータを見つめ頷く。
「分かりました。ここにいらっしゃる神祖の民の方々からの了承を得ましたので、一緒に参りましょう。ではアキラ様、ヤマシロ様、ご同行お願いできますか?」
「私は!!」エディアが間髪いれずに突っ込む。
「あっ……、申し訳ありません」
 リータは周りの騎士やラムザが驚くほど深々とエディアに頭を下げた。昨日の夜の二人を想像したくなくて、エディアの存在を無意識に除外していた。
「まぁ、いいわ……」
 二人の事情も知らず、エリアナがいいタイミングで口を挟んできた。
「以前私はダグラニ神書と思われる写しの一部を祖父より譲り受けました」
 そう言ってエリアナは肩からかけたバッグから紙の束を取り出した。それは植物の繊維のようなもので束ねられた書物で、エリアナはそれをリータに低頭しながら差し出した。
「写し……?」
 そう言いながら、リータはエリアナの前へと歩いた。エリアナからその書物を受け取ったリータは、目を落とした瞬間叫んだ。
「これは古代文字……! 古代文字の書物はラステア王家のもので、門外不出のはず!」
「申し訳ありません。もうこのような機会は無いので、どのような罰も受ける覚悟でございます。そのダグラニ神書の解読は、今ではラステア王家でないと出来ないため、リータ様に内容を御確認頂きたいと思っていたのですが」
「それなんですが、先ほども言ったように私の知っている古代文字では分からない単語が数か所あるで、全ては解読してないのです」
 そう言って、リータはダグラニ神書の写しを捲っていく。そして何も言わずに近くの騎士に渡した。
 没収、という意味なのだろう、と旭は思った。
「……そうなのですか? でも神祖の民でしたら全てを解読出来ると思います」
 そう言って、リータとエリアナは旭を見た。
「うーん……、古代文字を少しスキャンさせてくれるといいんだけど」
 リータには「スキャン」の意味が分からなかったが、旭の表情から読み取った。
「ええ、もちろんです。神祖の民のものなのですから」

 ラステア城の地下に案内された旭たちは、数々の書画骨董が眠る部屋を進んでいた。その先、重厚な扉の奥にそれはあった。リータが持つ鍵でその扉を開ける。小さな部屋の中央にある、そのダグラニ新書は、リータの部屋の一隅にあったような、漆黒の金属か珪素化合物分からない不思議なA3サイズの物質だった。材質はラグラニアと同じだと旭たち三人は思った。
 これがダグラニ新書。本というより、石版だな――。それに文字と思えるものが細かく刻まれている。
 ダグラニ新書の左下にラグラニアより、かなり小さいサイズの白斑が現れていた。するとリータは驚いた顔で旭を見た。
「新書は何度か見たのですが、こんな白い紋様は初めて見ました」
 おそらく旭たちが一度トリオンに来たことで亜空間が開いて、そのエネルギーで浮かび上がったのだろう、と旭、山代は思惟した。旭はラグラニアに乗り込むときと同じく意を決してその白斑に触れようとした。
「お、おい、東城君!」
「大丈夫です」
 旭は力強く答え、白斑に触れた。
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