魔法と科学の境界線

北丘 淳士

文字の大きさ
上 下
90 / 114

蠢動

しおりを挟む
 王立博物館の揺籃からエフェロンとその関係者らしき人々が出現した話は、20人ほどの目撃者の口から瞬く間に街へと広がった。アベルディも官憲内にいる間諜からの報告で、街の民よりも早くその噂を耳に入れていた。そしてすぐさま、アベルディはその足で官憲庁庁舎へと向った。そして3階にある官憲長職務室の扉を叩く。
「はい、どなたですか」
 扉の奥から青年と思しき声が返ってきた。
「アベルディ・オルフェスタと申します。ログゼット殿に話があって参りました」
 数瞬の間が開き、扉が開く。そこには机に足を投げ出して座るログゼットと、扉の近くに彼の従者が立っていた。
「ログゼット殿、博物館の神具から何者かが現れたとの話を耳に入れたのですが本当ですか?」
 部屋に入るなり、アベルディは問う。
 ログゼットはその真剣な表情を鼻で笑う。
「あまり詳しく分かってないのですが……、まあ、ガセでしょう。全く最近の官憲は劇作家の監督もしなくてはいけないのかと、頭を悩ましていたところです」
「どういう状況なのですか?」
「王立博物館を一部破壊した4名のうち、3名は王立博物館の詰所で保護し、1名は市街地に逃げ出したようです。恐らく神具を狙った過激派の一部でしょう。私もまだ見てませんが、報告書がありますので見てみますか?」
 机上の書類の山から一枚を取り出したログゼットは、立ち上がってアベルディに手渡した。
 アベルディはその報告書に眼を落とす。
「博物館にいる、この3人に今、会えますか?」
 しばし黙考していたログゼットは頭を振った。
「まだこちらの調査が済んでいません。明日、我々の本格的な取調べが終わってからになるので、明後日以降になるでしょう」
「……そうですか。その時、また伺います」
 小さく嘆息したアベルディはログゼットに報告書を返し、職務室を辞去した。

 勢いで博物館を飛び出したジェリコは街を彷徨っていた。
 ただ服装が一人だけ違って目立っている上に、ブレード1つでは心もとない。
 LOTで解析出来ず、博物館に厳重に保管されていた物だったため、ラグラニアと何らかの関係があるだろう、と思って持ち歩いていた黒い立方体の使い道も全く分からずに、結局博物館に戻ってきてしまったのだった。
 これからどうしようかと悩んでいた矢先、建物の影から濃緑のフード付き外套を羽織った男が近づいてきた。
 特に感慨もないジェリコは、その男を消すかどうか考えながら、その男へと足を進めた。
 濃緑の外套のフードを目深に被った男は膝を付き慇懃に述べ始める。
「この博物館に戻ってくると信じてました。神祖の民が一人。御身の名前をお聞かせ下さい」
 言葉が通じるその男の前で、ジェリコは足を止めた。
「神祖の民?」
「……はい、その神具を扱えるのは神祖の民のみ。伝承では神の道具と言われています。その御手にされている神具は博物館のものだとお見受けしました」
「お前の名は?」
「はい。仰せのままに全てを御答えいたしますが、私からの願いと致しまして、ひとまずその剣をお納めくださいますようお願いいたします」
 ジェリコに乞うその男のフードから、白い歯が覗いていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

メトロポリス社へようこそ! ~「役立たずだ」とクビにされたおっさんの就職先は大企業の宇宙船を守る護衛官でした~

アンジェロ岩井
SF
「えっ、クビですか?」 中企業アナハイニム社の事務課に勤める大津修也(おおつしゅうや)は会社の都合によってクビを切られてしまう。 ろくなスキルも身に付けていない修也にとって再転職は絶望的だと思われたが、大企業『メトロポリス』からの使者が現れた。 『メトロポリス』からの使者によれば自身の商品を宇宙の植民星に運ぶ際に宇宙生物に襲われるという事態が幾度も発生しており、そのための護衛役として会社の顧問役である人工頭脳『マリア』が護衛役を務める適任者として選び出したのだという。 宇宙生物との戦いに用いるロトワングというパワードスーツには適性があり、その適性が見出されたのが大津修也だ。 大津にとっては他に就職の選択肢がなかったので『メトロポリス』からの選択肢を受けざるを得なかった。 『メトロポリス』の宇宙船に乗り込み、宇宙生物との戦いに明け暮れる中で、彼は護衛アンドロイドであるシュウジとサヤカと共に過ごし、絆を育んでいくうちに地球上にてアンドロイドが使用人としての扱いしか受けていないことを思い出す。 修也は戦いの中でアンドロイドと人間が対等な関係を築き、共存を行うことができればいいと考えたが、『メトロポリス』では修也とは対照的に人類との共存ではなく支配という名目で動き出そうとしていた。

超能力者の私生活

盛り塩
SF
超能力少女達の異能力バトル物語。ギャグ・グロ注意です。 超能力の暴走によって生まれる怪物『ベヒモス』 過去、これに両親を殺された主人公『宝塚女優』(ヒロインと読む)は、超能力者を集め訓練する国家組織『JPA』(日本神術協会)にスカウトされ、そこで出会った仲間達と供に、宿敵ベヒモスとの戦いや能力の真相について究明していく物語です。 ※カクヨムにて先行投降しております。

いつか日本人(ぼく)が地球を救う

多比良栄一
SF
この小説にはある仕掛けがある。 読者はこの物語を読み進めると、この作品自体に仕掛けられた「前代未聞」のアイデアを知ることになる。 それは日本のアニメやマンガへ注がれるオマージュ。 2次創作ではない、ある種の入れ子構造になったメタ・フィクション。 誰もがきいたことがある人物による、誰もみたことがない物語がいま幕を開ける。 すべてのアニメファンに告ぐ!! 。隠された謎を見抜けるか!!。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------ 25世紀後半 地球を襲った亜獣と呼ばれる怪獣たちに、デミリアンと呼ばれる生命体に搭乗して戦う日本人少年ヤマトタケル。なぜか日本人にしか操縦ができないこの兵器に乗る者には、同時に、人類を滅ぼすと言われる「四解文書」と呼ばれる極秘文書も受け継がされた。 もしこれを人々が知れば、世界は「憤怒」し、「恐怖」し、「絶望」し、そして「発狂」する。 かつてそれを聞いた法皇がショック死したほどの四つの「真理」。 世界でたった一人、人類を救えも、滅ぼしもできる、両方の力を手に入れた日本人少年ヤマトタケル。 彼は、世界100億人全員から、救いを求められ、忌み嫌われ、そして恐れられる存在になった。 だが彼には使命があった。たとえ人類の半分の人々を犠牲にしても残り11体の亜獣を殲滅すること、そして「四解文書」の謎を誰にも知られずに永遠に葬ることだった。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

スペーストレイン[カージマー18]

瀬戸 生駒
SF
俺はロック=クワジマ。一匹狼の運び屋だ。 久しく宇宙無頼を決めていたが、今回変な物を拾っちまった。 そのまま捨ててしまえば良かったのに、ちょっとした気の迷いが、俺の生き様に陰をさす。 さらば自由な日々。 そして……俺はバカヤロウの仲間入りだ。 ●「小説化になろう」様にも投稿させていただいております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
 初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎  って、何故こんなにハイテンションかと言うとただ今絶賛大パニック中だからです!  何故こうなった…  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  そして死亡する原因には不可解な点が…  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのかのんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

処理中です...