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蠢動
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王立博物館の揺籃からエフェロンとその関係者らしき人々が出現した話は、20人ほどの目撃者の口から瞬く間に街へと広がった。アベルディも官憲内にいる間諜からの報告で、街の民よりも早くその噂を耳に入れていた。そしてすぐさま、アベルディはその足で官憲庁庁舎へと向った。そして3階にある官憲長職務室の扉を叩く。
「はい、どなたですか」
扉の奥から青年と思しき声が返ってきた。
「アベルディ・オルフェスタと申します。ログゼット殿に話があって参りました」
数瞬の間が開き、扉が開く。そこには机に足を投げ出して座るログゼットと、扉の近くに彼の従者が立っていた。
「ログゼット殿、博物館の神具から何者かが現れたとの話を耳に入れたのですが本当ですか?」
部屋に入るなり、アベルディは問う。
ログゼットはその真剣な表情を鼻で笑う。
「あまり詳しく分かってないのですが……、まあ、ガセでしょう。全く最近の官憲は劇作家の監督もしなくてはいけないのかと、頭を悩ましていたところです」
「どういう状況なのですか?」
「王立博物館を一部破壊した4名のうち、3名は王立博物館の詰所で保護し、1名は市街地に逃げ出したようです。恐らく神具を狙った過激派の一部でしょう。私もまだ見てませんが、報告書がありますので見てみますか?」
机上の書類の山から一枚を取り出したログゼットは、立ち上がってアベルディに手渡した。
アベルディはその報告書に眼を落とす。
「博物館にいる、この3人に今、会えますか?」
しばし黙考していたログゼットは頭を振った。
「まだこちらの調査が済んでいません。明日、我々の本格的な取調べが終わってからになるので、明後日以降になるでしょう」
「……そうですか。その時、また伺います」
小さく嘆息したアベルディはログゼットに報告書を返し、職務室を辞去した。
勢いで博物館を飛び出したジェリコは街を彷徨っていた。
ただ服装が一人だけ違って目立っている上に、ブレード1つでは心もとない。
LOTで解析出来ず、博物館に厳重に保管されていた物だったため、ラグラニアと何らかの関係があるだろう、と思って持ち歩いていた黒い立方体の使い道も全く分からずに、結局博物館に戻ってきてしまったのだった。
これからどうしようかと悩んでいた矢先、建物の影から濃緑のフード付き外套を羽織った男が近づいてきた。
特に感慨もないジェリコは、その男を消すかどうか考えながら、その男へと足を進めた。
濃緑の外套のフードを目深に被った男は膝を付き慇懃に述べ始める。
「この博物館に戻ってくると信じてました。神祖の民が一人。御身の名前をお聞かせ下さい」
言葉が通じるその男の前で、ジェリコは足を止めた。
「神祖の民?」
「……はい、その神具を扱えるのは神祖の民のみ。伝承では神の道具と言われています。その御手にされている神具は博物館のものだとお見受けしました」
「お前の名は?」
「はい。仰せのままに全てを御答えいたしますが、私からの願いと致しまして、ひとまずその剣をお納めくださいますようお願いいたします」
ジェリコに乞うその男のフードから、白い歯が覗いていた。
「はい、どなたですか」
扉の奥から青年と思しき声が返ってきた。
「アベルディ・オルフェスタと申します。ログゼット殿に話があって参りました」
数瞬の間が開き、扉が開く。そこには机に足を投げ出して座るログゼットと、扉の近くに彼の従者が立っていた。
「ログゼット殿、博物館の神具から何者かが現れたとの話を耳に入れたのですが本当ですか?」
部屋に入るなり、アベルディは問う。
ログゼットはその真剣な表情を鼻で笑う。
「あまり詳しく分かってないのですが……、まあ、ガセでしょう。全く最近の官憲は劇作家の監督もしなくてはいけないのかと、頭を悩ましていたところです」
「どういう状況なのですか?」
「王立博物館を一部破壊した4名のうち、3名は王立博物館の詰所で保護し、1名は市街地に逃げ出したようです。恐らく神具を狙った過激派の一部でしょう。私もまだ見てませんが、報告書がありますので見てみますか?」
机上の書類の山から一枚を取り出したログゼットは、立ち上がってアベルディに手渡した。
アベルディはその報告書に眼を落とす。
「博物館にいる、この3人に今、会えますか?」
しばし黙考していたログゼットは頭を振った。
「まだこちらの調査が済んでいません。明日、我々の本格的な取調べが終わってからになるので、明後日以降になるでしょう」
「……そうですか。その時、また伺います」
小さく嘆息したアベルディはログゼットに報告書を返し、職務室を辞去した。
勢いで博物館を飛び出したジェリコは街を彷徨っていた。
ただ服装が一人だけ違って目立っている上に、ブレード1つでは心もとない。
LOTで解析出来ず、博物館に厳重に保管されていた物だったため、ラグラニアと何らかの関係があるだろう、と思って持ち歩いていた黒い立方体の使い道も全く分からずに、結局博物館に戻ってきてしまったのだった。
これからどうしようかと悩んでいた矢先、建物の影から濃緑のフード付き外套を羽織った男が近づいてきた。
特に感慨もないジェリコは、その男を消すかどうか考えながら、その男へと足を進めた。
濃緑の外套のフードを目深に被った男は膝を付き慇懃に述べ始める。
「この博物館に戻ってくると信じてました。神祖の民が一人。御身の名前をお聞かせ下さい」
言葉が通じるその男の前で、ジェリコは足を止めた。
「神祖の民?」
「……はい、その神具を扱えるのは神祖の民のみ。伝承では神の道具と言われています。その御手にされている神具は博物館のものだとお見受けしました」
「お前の名は?」
「はい。仰せのままに全てを御答えいたしますが、私からの願いと致しまして、ひとまずその剣をお納めくださいますようお願いいたします」
ジェリコに乞うその男のフードから、白い歯が覗いていた。
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