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崇拝という麻薬
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「東城君、ここは……」
山代がようやく口を開く。
旭はかぶりを振りながら答えた。
「分かりません……。トリオンへ移動するとエルザ、このラグラニアのユビキタスコンピュータは言っていましたが、トリオンは十数光年先にあるはずです。間違って地球のどこかに不時着した可能性があります……。どう見ても様相が人間ですし……。宇宙人なのに人間と見た目が全く同じなのは、どう考えても……」
「そ、それより、コランダムを追おう。今の乱心している彼を外に出すと危ない!」
「そうですね」
「ちょっと待って、外の、周りの様子がおかしいわ!」
エディアが指差したそこには異様な光景が映し出されていた。
先程までうっそりと立っていた十数人の男女が叩頭し、後から来た5人の黒服の男たちもジェリコを崇めるかのように平伏している。
何があったんだ……。
「エルザ! 外の音声を拾えるか?」
「可能です」
「流してくれ!」
「了解しました。音量は搭乗員の平均会話音量を参考にいたします」
「……ははは! そうだ! 私は崇められるべき存在なのだ!! これは私だけが使える絶対的な科学の力だ!!」
ジェリコの高笑いとともに聞こえてきた。
――だめだ、先ほどからの言動がおかしい。
無実の北野を殺害した呵責に押し潰され、気が触れたのだろうか。それとも自分を崇める外の人々が彼をそうさせたのか。旭はただジェリコの乱心を眺めながら思う。
「エフェロン様、どうか剣をお納め下さい!!」
ジェリコを崇める十数人の男女は、神を崇める様な言葉を叫んでいた。
「エルザ、ここはどこなんだ?」
ようやく落ち着いてきた旭はエルザに投げかけた。
「ここはアジブ系第4惑星トリオンのシレンツ・エトワルドにあるトラム研究所です」
「トリオンの……、研究所!?」
どう見ても研究所といった感じはしない。それにしても本当に一瞬でトリオンまで行ったのか――?
「東城君! コランダムを!!」
「あっ、はい!」
旭は一度咳払いして、「エルザ、ここにいる3人を外に!」と命じた。
トリオンとは聞いたが、旭は大気成分の確認もせずに山代とエディアをラグラニアから外に転送させた。
祈りを捧げている十数人の男女の言葉は、ジェリコが奪った北野のLOTと旭のとでしか翻訳出来ていない。おそらくトリオン語だろうと彼は思惟した。
「コランダム! 戻るんだ!!」
船外に出た瞬間、ブラスターを構えた山代は叫ぶ。
右手でプレードを上に掲げ、まるで神になったかのような立ち振る舞いを見せるジェリコは、その手をゆっくり下ろして旭たちを見た。
「俺は選ばれた人間なんだ。彼らの態度を見ても分からないのか?」
「何を言っているジェリコ! この科学力はお前のものではないことぐらい判別出来るはずだ!」
「コランダム気を確かに持て! 犯罪者とはいえ出来るだけ生徒に危害を加えたくない!」
「ははは……、アキラ、お前もそうだが、選ばれているということに気が付かないのか?」
「選ばれているだと? 何を言っているんだ!?」
「これは超科学どころではない、神に匹敵する力だ! 俺たちは選ばれているんだぞ、見よ! この俺たちを崇める集団を!」
――違う、神なんていない。神は病気や怪我を治してくれない。善良に生きる人々を責苦から救ってさえくれない。
「神なんていない! この力は、トリオン人の科学の結晶だ!!」
今まで怜悧な笑みを浮かべていたジェリコは、その表情を以前の無表情へと戻していく。
「……決別だな。俺はお前のことが気に入っていたんだぞ。どこか俺と似たような雰囲気が匂っていたからな」
そう寂しげな声を残し、ジェリコは建物の出口に走り出した。すかさず山代が再びブラスターを放つ。目に見えない衝撃波は太い柱をたやすく砕き、その様子を跪いて見ていた人々は、一様に慌ててその場から逃げ出そうとしていた。
エディアはジェリコを追おうとしていたが、旭は彼女の手を掴んだ。
「ダメだ、今、ラグラニアから離れるのは、まずい!」
そのジェリコは数十メートル先で、さっきと同じく分厚いガラスに包まれた展示物の前で一旦止まった。ジェリコの瞳はLOTを通して、あらゆるものを科学的に観察していた。彼のLOTが解析できないその物体のサイズは、ラグラニアの着地点にある円柱と比べて、かなり小さい。数瞬してブレードを振るい、その分厚いガラスを切り、中に入っていた手のひら程の黒い立方体を取り出す。そして旭たちを肩越しに一瞥して博物館の外へと消えていった。
分厚いガラスを易々と切断したジェリコのブレードは、特殊な加工がなされているのだと旭は確信した。するとこのボディースーツも役に立たないかもしれない。
そう考えていたとき、ここの保安員だろうか、お仕着せの服に身を包んだ男たちが、おそるおそる話しかけてきた。
山代がようやく口を開く。
旭はかぶりを振りながら答えた。
「分かりません……。トリオンへ移動するとエルザ、このラグラニアのユビキタスコンピュータは言っていましたが、トリオンは十数光年先にあるはずです。間違って地球のどこかに不時着した可能性があります……。どう見ても様相が人間ですし……。宇宙人なのに人間と見た目が全く同じなのは、どう考えても……」
「そ、それより、コランダムを追おう。今の乱心している彼を外に出すと危ない!」
「そうですね」
「ちょっと待って、外の、周りの様子がおかしいわ!」
エディアが指差したそこには異様な光景が映し出されていた。
先程までうっそりと立っていた十数人の男女が叩頭し、後から来た5人の黒服の男たちもジェリコを崇めるかのように平伏している。
何があったんだ……。
「エルザ! 外の音声を拾えるか?」
「可能です」
「流してくれ!」
「了解しました。音量は搭乗員の平均会話音量を参考にいたします」
「……ははは! そうだ! 私は崇められるべき存在なのだ!! これは私だけが使える絶対的な科学の力だ!!」
ジェリコの高笑いとともに聞こえてきた。
――だめだ、先ほどからの言動がおかしい。
無実の北野を殺害した呵責に押し潰され、気が触れたのだろうか。それとも自分を崇める外の人々が彼をそうさせたのか。旭はただジェリコの乱心を眺めながら思う。
「エフェロン様、どうか剣をお納め下さい!!」
ジェリコを崇める十数人の男女は、神を崇める様な言葉を叫んでいた。
「エルザ、ここはどこなんだ?」
ようやく落ち着いてきた旭はエルザに投げかけた。
「ここはアジブ系第4惑星トリオンのシレンツ・エトワルドにあるトラム研究所です」
「トリオンの……、研究所!?」
どう見ても研究所といった感じはしない。それにしても本当に一瞬でトリオンまで行ったのか――?
「東城君! コランダムを!!」
「あっ、はい!」
旭は一度咳払いして、「エルザ、ここにいる3人を外に!」と命じた。
トリオンとは聞いたが、旭は大気成分の確認もせずに山代とエディアをラグラニアから外に転送させた。
祈りを捧げている十数人の男女の言葉は、ジェリコが奪った北野のLOTと旭のとでしか翻訳出来ていない。おそらくトリオン語だろうと彼は思惟した。
「コランダム! 戻るんだ!!」
船外に出た瞬間、ブラスターを構えた山代は叫ぶ。
右手でプレードを上に掲げ、まるで神になったかのような立ち振る舞いを見せるジェリコは、その手をゆっくり下ろして旭たちを見た。
「俺は選ばれた人間なんだ。彼らの態度を見ても分からないのか?」
「何を言っているジェリコ! この科学力はお前のものではないことぐらい判別出来るはずだ!」
「コランダム気を確かに持て! 犯罪者とはいえ出来るだけ生徒に危害を加えたくない!」
「ははは……、アキラ、お前もそうだが、選ばれているということに気が付かないのか?」
「選ばれているだと? 何を言っているんだ!?」
「これは超科学どころではない、神に匹敵する力だ! 俺たちは選ばれているんだぞ、見よ! この俺たちを崇める集団を!」
――違う、神なんていない。神は病気や怪我を治してくれない。善良に生きる人々を責苦から救ってさえくれない。
「神なんていない! この力は、トリオン人の科学の結晶だ!!」
今まで怜悧な笑みを浮かべていたジェリコは、その表情を以前の無表情へと戻していく。
「……決別だな。俺はお前のことが気に入っていたんだぞ。どこか俺と似たような雰囲気が匂っていたからな」
そう寂しげな声を残し、ジェリコは建物の出口に走り出した。すかさず山代が再びブラスターを放つ。目に見えない衝撃波は太い柱をたやすく砕き、その様子を跪いて見ていた人々は、一様に慌ててその場から逃げ出そうとしていた。
エディアはジェリコを追おうとしていたが、旭は彼女の手を掴んだ。
「ダメだ、今、ラグラニアから離れるのは、まずい!」
そのジェリコは数十メートル先で、さっきと同じく分厚いガラスに包まれた展示物の前で一旦止まった。ジェリコの瞳はLOTを通して、あらゆるものを科学的に観察していた。彼のLOTが解析できないその物体のサイズは、ラグラニアの着地点にある円柱と比べて、かなり小さい。数瞬してブレードを振るい、その分厚いガラスを切り、中に入っていた手のひら程の黒い立方体を取り出す。そして旭たちを肩越しに一瞥して博物館の外へと消えていった。
分厚いガラスを易々と切断したジェリコのブレードは、特殊な加工がなされているのだと旭は確信した。するとこのボディースーツも役に立たないかもしれない。
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