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激震
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王立博物館の補修主任兼、案内係を勤めているエリアナ・サンベストは、数十人の観光客を背に、あくびをかみ殺して館内を進んでいた。博物館の館長にその知識と手腕を買われ、この仕事について4年目を迎えようとしている。案内した観光客は数知れず、展覧物の説明や客からの見当違いの質問にも、台本のように返すことが出来るほどこなれていた。彼女はもともとこの王立博物館に展示されている数点の神具の調査をしたいがために考古学を学び、考古学研究員と言う立場で王宮博物館に勤務したのだが、肝心の神具に触れて調査することは、研究員はおろか博物館の館長にすら許されていなかった。
今、神具の所有権は王家にあり、政府は無用の長物と見て管理の一切を王家に任せてある。
それでも彼女は閉館日にわざわざ博物館まで足を運び、ガラスケース越しに外観調査を繰り返したり、神具に関する書物を世界各地から取り寄せて調査したりと、その情熱と知識量は博物館の館長ですら舌を巻くほどだった。だが、やはり実際に触れてみたいという願望は捨て切れないでいる。
そんな神具の一つの前で彼女は足を止め、観光客に営業スマイルを見せる。
「こちらが神具の一つ、揺籃(ゆりかご)と呼ばれるものです。世界に危機が迫ったとき、神々が赤子の姿となって顕現すると言われています」
エリアナは横目で揺籃を見る。厚さ10cmほどの分厚いガラスケースに囲まれた、漆黒の黒い円柱である。高さは約1m、差し渡し30cm程で、上部は揺籃と言えなくもない楕円の窪みがある。一見すぐに作れそうに見えるが、神具と言われるものに共通することは、「現在の科学力では、いかなる手段を用いても破壊できない」ことである。実際傷一つ付いていないし、現代のトリオンの技術力をもってして破壊できない。だがそんな神具も、観光客にしてみれば単なる黒柱にしか見えない。この博物館にはまだまだ他に見所があるので、観光客からは特に質問も出ずに、エリアナは再び彼らに背を向け次の展示物に向おうとしていた。
すると突然地面を揺るがす振動が、耳を劈く空気の破裂音とガラスが粉々に砕ける破砕音と共にエリアナと観光客たちを襲った。その衝撃にエリアナは前のめりに転倒し、すぐに身を竦めて耳を塞ぐ。
「きゃ……!」
小さく叫んだエリアナは、白煙と焦げ臭い匂いが漂い始めた博物館の床に、震えながらうずくまっていた。やがて背後の観光客が、ざわめき出したことに我を取り戻し、衝撃の元と思われる揺籃の方を、うずくまったまま肩越しに見る。頑健なガラスケースの上半分が綺麗に消えて無くなり、揺籃が露になっている。ただ変化はそれだけではなかった。揺籃の上に紡錘形の黒い物体が嵌まっている。今まで大して反応が無かった観光客が呆然と立ち上がり、それを凝然と見つめていた。
今、神具の所有権は王家にあり、政府は無用の長物と見て管理の一切を王家に任せてある。
それでも彼女は閉館日にわざわざ博物館まで足を運び、ガラスケース越しに外観調査を繰り返したり、神具に関する書物を世界各地から取り寄せて調査したりと、その情熱と知識量は博物館の館長ですら舌を巻くほどだった。だが、やはり実際に触れてみたいという願望は捨て切れないでいる。
そんな神具の一つの前で彼女は足を止め、観光客に営業スマイルを見せる。
「こちらが神具の一つ、揺籃(ゆりかご)と呼ばれるものです。世界に危機が迫ったとき、神々が赤子の姿となって顕現すると言われています」
エリアナは横目で揺籃を見る。厚さ10cmほどの分厚いガラスケースに囲まれた、漆黒の黒い円柱である。高さは約1m、差し渡し30cm程で、上部は揺籃と言えなくもない楕円の窪みがある。一見すぐに作れそうに見えるが、神具と言われるものに共通することは、「現在の科学力では、いかなる手段を用いても破壊できない」ことである。実際傷一つ付いていないし、現代のトリオンの技術力をもってして破壊できない。だがそんな神具も、観光客にしてみれば単なる黒柱にしか見えない。この博物館にはまだまだ他に見所があるので、観光客からは特に質問も出ずに、エリアナは再び彼らに背を向け次の展示物に向おうとしていた。
すると突然地面を揺るがす振動が、耳を劈く空気の破裂音とガラスが粉々に砕ける破砕音と共にエリアナと観光客たちを襲った。その衝撃にエリアナは前のめりに転倒し、すぐに身を竦めて耳を塞ぐ。
「きゃ……!」
小さく叫んだエリアナは、白煙と焦げ臭い匂いが漂い始めた博物館の床に、震えながらうずくまっていた。やがて背後の観光客が、ざわめき出したことに我を取り戻し、衝撃の元と思われる揺籃の方を、うずくまったまま肩越しに見る。頑健なガラスケースの上半分が綺麗に消えて無くなり、揺籃が露になっている。ただ変化はそれだけではなかった。揺籃の上に紡錘形の黒い物体が嵌まっている。今まで大して反応が無かった観光客が呆然と立ち上がり、それを凝然と見つめていた。
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