魔法と科学の境界線

北丘 淳士

文字の大きさ
上 下
69 / 114

アマニと謎の声

しおりを挟む
「生徒に危険なことをさせるわけにはいかんが、どうかね」
 北野は笑いながら旭を促す。
「はい。……私が触ってみます」
「まあ、計測値は全て異常なかったから、あの白斑はおそらく君の言っていた映像の照準調整ダイヤルみたいなものだろう」
 旭はアマニの前に立った。そして一旦、北野の顔を見て頷き、彼も頷き返す。そしてアマニに浮かんだ白斑に右手の人差し指をあてた。すると足から頭に突き抜ける軽い衝撃が走り、背後で北野の「あっ!」と言う喫驚の声に振り向いた瞬間、旭の目の前が真っ白になった。
 眩い光に顔を顰めて、出していた人差し指を引っ込めた。サーチライトを向けられたと思い、「なにを……」と出かかった。だが耳に入った機械的な声に旭の思考は停止した。
「――」
 その言葉はLOTを介しても翻訳出来ていない。旭はとっさに「アリス、言語解析モード」と声に出した。『解析を開始します』とLOTから発せられる。ようやく眼が慣れてきた頃、背後に、「うっ!」と聞きなれた声が聞こえてきた。北野が同じく光を厭う表情で傍に現れる。今、自分が立っている場所は直径10mほどの半球形の空間だった。その空間は皓皓と光る白い壁に囲まれ、その中央には胸の高さほどの漆黒の柱が白い床に突き刺さるように立っている。肩幅ほどの幅と奥行で、上部は斜めに切り取られていた。丁度大人が操作するに都合のいい高さだ。その素材はアマニの外観と同じく、艶やかに光沢を跳ね返している。
「大丈夫か……、旭君……」
 呻きながら目を瞬かせる北野は、旭の肩に手を置いた。
「ええ、大丈夫です」
「そうか、良かった。君に何かあったら香苗さんから殺されるだけじゃ済まないからな」
 自分の心配をしてたのか。
「それにしても、ここは……」
「――」
 再び同じ機械的な声が響いた。
 ようやく目が慣れてきたといった感じの北野だったが、未だ表情は戸惑いのままだった。
「ここは……、どこなのか分かるかね」
「分かりません。どこかに飛ばされたか、幻でも見ているのか、さっぱりです。ただ……」
 中央の黒い筐体らしき物体を見ると、文字が浮かんで点滅していた。北野と旭は近づいてそこに目を落とした。
「何て書いてあるんだ?」
 北野はLOTを通してその文字を読もうとした。だが、彼は首を傾げて呟く。
「LOTが翻訳出来ないってことは、……どういうことだ?」
「教授、LOTが反応出来ないってことは……、信じがたいですが……」
 北野は旭の顔を怪訝な表情で見る。その内その真意を知ると、呼吸が荒くなってきた。
「はっ……、はっ……、ちょっと、ちょっと待ってくれ……」
 北野は頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。ようやく理性を取り戻した途端、アマニとこの空間がどうしてもつながらなくて相当混乱しているようだった。北野の様子は、ここがどこだかも、なぜここにいるのかも分からないといった感じだった。しゃがみ込んだままの北野は、バシバシと自分の頬を両手で叩き出した。
「夢じゃない。何なんだこの、常軌を逸した現状は……、これはまるで……、亜空間と似ている。そう亜空間!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『天燃ゆ。地燃ゆ。命燃ゆ。』中篇小説

九頭龍一鬼(くずりゅう かずき)
SF
 武士たちが『魂結び』によって『神神』を操縦し戦っている平安時代。  源氏側は平家側の隠匿している安徳天皇および『第四の神器』を奪おうとしている。  斯様なる状況で壇ノ浦の戦いにおよび平知盛の操縦する毘沙門天が源義経の操縦する持国天に敗北し平家側は劣勢となる。  平家の敗衄をさとった二位の尼は安徳天皇に『第四の神器』を発動させるように指嗾し『第四の神器』=『魂魄=こんそうる』によって宇宙空間に浮游する草薙の剱から御自らをレーザー攻撃させる。  安徳天皇の肉体は量子論的にデコヒーレンスされ『第四の神器』は行方不明となる。  戦国時代。わかき織田信長は琵琶法師による『平曲』にうたわれた『第四の神器』を掌握して天下統一せんと蹶起する。――。

140字の見本市

なるなる
現代文学
X(旧Twitter)に投稿した140字SSをまとめてみました。 それぞれが独立したストーリーですので、どこからでも始められます。

Recreation World ~とある男が〇〇になるまでの軌跡〜

虚妄公
SF
新月流当主の息子である龍谷真一は新月流の当主になるため日々の修練に励んでいた。 新月流の当主になれるのは当代最強の者のみ。 新月流は超実戦派の武術集団である。 その中で、齢16歳の真一は同年代の門下生の中では他の追随を許さぬほどの強さを誇っていたが現在在籍している師範8人のうち1人を除いて誰にも勝つことができず新月流内の順位は8位であった。 新月流では18歳で成人の儀があり、そこで初めて実戦経験を経て一人前になるのである。 そこで真一は師範に勝てないのは実戦経験が乏しいからだと考え、命を削るような戦いを求めていた。 そんなときに同じ門下生の凛にVRMMORPG『Recreation World』通称リクルドを勧められその世界に入っていくのである。 だがそのゲームはただのゲームではなく3人の天才によるある思惑が絡んでいた。 そして真一は気付かぬままに戻ることができぬ歯車に巻き込まれていくのである・・・ ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも先行投稿しております。

👨👩❓️三人用声劇台本「吸血鬼の末路」~女吸血鬼ver.~

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
ファンタジー
女吸血鬼が主人公。腹ペコの吸血鬼は街に繰り出すが、トラブルに巻き込まれとらわれてしまう。夏向けの台本。 ジャンル:ファンタジー、シリアス 所要時間:10分前後 男一人、女一人、不問一人 吸血鬼:女性(色っぽい声で) 警察官&助手(無感情→感情あり):不問 研究所の所長:男性 ◆こちらは声劇用台本になります。吸血鬼が男性ver.の作品もございます。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)

愛山雄町
SF
 ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め! ■■■  人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。 ■■■  宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。  アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。  4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。  その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。  彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。 ■■■  小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。 ■■■ 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。

乾坤一擲

響 恭也
SF
織田信長には片腕と頼む弟がいた。喜六郎秀隆である。事故死したはずの弟が目覚めたとき、この世にありえぬ知識も同時によみがえっていたのである。 これは兄弟二人が手を取り合って戦国の世を綱渡りのように歩いてゆく物語である。 思い付きのため不定期連載です。

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

処理中です...