魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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オーパーツ

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 アマニがアシンベルに届くのに、結局2週間かかった。
 現地の大学や研究者、それに日本から非破壊検査の大手を呼んで現地でアマニの検査をしたのだが、構造はおろか試料を採取することが出来ず、様々な電磁波分析すら寄せ付けない代物だった。ミューオンをも通さないから当たり前だ。
 北野の指揮でアシンベルからチャーター機を飛ばし、旭がアマニを直に見ることが出来たのは、アシンベルの公孫樹が黄色く色付き、銀杏が歩道に落ち始める頃だった。

 アカデミー内の研究室にアマニは持ち込まれた。先の亜空間開闢実験との関連については、北野、山代により伏せられ、アカデミー生が発見した遺物という扱いになった。そうすることで北野と旭が中心となって観測出来るのだが、観測機器及び電磁波類を全く受け付けない。外観の調査と計測だけで調査はすぐに終わってしまった。
 外観はアマニ、その名前の由来になった卵というよりもラグビーボールと同じく両端は同じ角度で尖っている。最大幅は痩せた大人の肩幅ほどで、最小幅は大人の頭の大きさほど。重さは3・250キログラム。このサイズで3キロほどとなると、中はある程度空洞がある、もしくは比重の軽い金属で構成されているのだろうと北野は推測した。黒光りするアマニには他に突起物や模様、切り込みなど一切なく、解析の切欠すら見いだせない。
「御手上げだな……、理解の範疇を超えている」
 30畳ほどの研究室の中央に据えられたアマニを見つめながら、北野は呟いた。旭は返事すら出来ず呆けたまま小さく頷く。一通りの検査が済んで、研究所内に研究員もいない日曜日の朝だった。
「立ち会った考古学者からの報告書が、今朝方届いたんだが、放射性炭素年代測定と周辺の地質から、アマニが発見された地層というのは、今から約13万年前±千年前後だということだ」
「13万年前……!」
「そう、だが傷もない綺麗なままという事は、つい最近……、80年前に起こった地殻変動に巻き込まれて埋まった可能性が高いだろうと、その考古学者は言っている」
「80年以内ですか……、そうですよね。そもそもこの硬度、どの硬度計でも測定出来なかったんですよね」
「ああ、だから御手上げなんだ。科学者としては敬遠したい言い方だが……、オーパーツ――、と言える代物かもな」
「オーパーツ――」
 オーパーツ、時代錯誤遺物。その時代の想定技術力以上の遺物。
 かつて検査技術がままならない頃は、数々のオーパーツと言われる遺物が存在していたが、22世紀に入る頃には非破壊検査技術が格段に向上し、数多のそれらは露と消えていった。オーパーツという言葉は、すでに捏造や幻想という意味になっている。
 だが現実として目の前にあるオーパーツ、アマニを見つめながら、旭は硬い唾を飲み込んだ。
「……とりあえず、SSBEまで保留だな。旭君には特別にここの立ち入りを許可したから、何か気になることがあったら自由に調査するといい。ただそのときは一度この棟を管理している一階の職員に声をかけてから入室するように」
「え、あっ、ありがとうございます!」
「礼には及ばんよ。その代わり、ロックベリーを蔑ろにするなよ」
 それが交換条件だと言わんばかりの視線を投げかけ、北野は旭の肩を叩いて踵を返し、部屋を出て行ってしまった。エディアのこともあって、北野の好意でこの厚遇を受けられたのだろう。とりあえずアマニの前に何が出来るというわけでもないので、顔が浮かんだエディアにLOTを通じて昼食に誘った。
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