魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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酒席

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 ラムザとログゼットは石畳で整備された目抜き通りを通り、まだ土を固めただけの道が大半を占めるラステアの繁華街へと折れた。夕陽は暮色を連れて地の彼方に姿を隠し、すでに濃紺の帳が天を覆う。
 だが街は昼間よりも活気付き始めた。動物の脂を精製して燃した橙の明かりが店から漏れる。仕事帰りの街人の高揚感を助長させている。その油の甘い香りが仄かに漂っていた。
 その一角の店内に2人は腰を下ろす。
 店はまだ人が少なく、すぐに女給がメモと筆記具を持って2人の座ったテーブルにやってきた。
「この店で人気の……、ほら、なんだったかな……あれ、カイザム酒に特別な香料が入っとるという」
 ラムザがその名前を思い出せないのか、メニューと女給の顔を交互に見ながら探す。
「カリム……、ですか?」女給はアルカイックスマイルで聞く。
「おお、それだ。それを2つ頼む。あとそれに合う肴を適当に見繕ってくれ」
「かしこまりました」
 女給は丁寧にお辞儀し、注文をメモに記入しながら厨房へと向かった。
「カイザム酒に香料が入ってるなどとは、珍しいものを注文しますね」
「うむ、それなんだが、以前ラステアの飲食店連合の連中が、政府の決めた酒税について明確な定義を要求しただろ」
「ええ、10年前でしたか、私が将軍の任を解かれた年ですので覚えております」
「それで、話し合いは難航を極め、酒の製法によって利益率が違うから種類ごとに税率を決めろだの、その種類の定義も決めろだの、法の整備にえらく時間かかってな、政治家も民主制になってから選挙票が欲しくて連合を蔑ろに出来んのだよ」
「……はあ」
「それでようやく法が確定して公布されたのが2年前なんだが、この……、えっと……何だったかな」
「カリム……、ですか?」
「おお、それそれ。その……」
「お待たせしました。カリムお2つに、つけ合わせです。つけ合わせは、カヤ・ガリクのスライスに、炙ったビターギッドです」さっきとは別の女給が、2人の席に酒と料理を持ってきた。
 グラスから覗く琥珀色の酒と、綺麗に盛られたつけ合わせに2人の喉がなる。
「とりあえず、いただくとするか」
「ええ、そうですね。私は喉が渇いて」
 そう言って2人は杯を手に取り、テーブルにコンコンと2回杯の底を打ち付けて飲み始める。それは神に対する感謝と、同じく王に対する感謝を表す古い慣習だった。
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