魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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エディアの追及

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 ジェリコは家の方向が違うので、エディアと2人で並んで帰っていた。週1回、水曜はクラブ活動も出来ない一斉定時間日なので、その日は大体エディアに捕まり2人で帰る。一緒に帰るのは何回目かなど旭は、すでに覚えていない。
 髪型を整えながら、エディアは旭の目を見て言った。
「デート、クラスのみんなにもばれちゃったね!」
「ばれちゃったね! ……じゃねーよ!」
 笑顔のエディアに半眼を寄越しながら怒る。
「なんで怒っているのよ! でも、あの時アキラが寮でのこと隠したがっているってのが一瞬で分かったから、私黙っていたのよ。以心伝心ってやつね」
「あー、はいはい。デートの方も誤魔化して欲しかったよ」
「だから何よ、その反応……。で、調査結果出たんでしょ」
 小声で話せば周りに聞こえない距離までエディアは顔を寄せる。その距離は彼女の体温と香りを旭に感じさせる。
 エディアから少し顔を離して旭は答える。
「アフリカの大地に先住民族が残した伝説のラグビーボールが眠っているらしい。発掘するのに4ヶ月だとさ」
「ラグビーボール!? 何それ」
「ラグビーボールってのは、ラグビーっていう15対15で戦うスポーツがあって……」
「それぐらい知っているわよ、私の国の国技なんだから!!」
 そう言って、エディアは旭の二の腕を抓る。とうとう日常的に抓るようになってきた。
 あたた……、と腕を摩って仕方なく説明し始める。
「簡単に言うとラグビーボール大の金属製らしい物体が、ザンビアの地表から500m付近に眠っているらしい。まだそれしか分かってないんだってさ」
「へーっ。私はてっきり、どっかの気が狂った科学者が、面白半分でアキラの家に映像を飛ばしていたぐらいにしか考えてなかったわ」
 旭はエディアと同レベルの推測をしていたのかと、思わず眼を瞑って顔を伏せてしまった。
「今なにか、失礼なことを考えてなかった?」と、エディアは再び旭の二の腕を触りながら睨みつける。
「まさか……!」
 旭は首を高速で振って全力でそれを否定した。
 そんな最中、2人は背後から声を掛けられた。
「東城君、それにロックベリー、相変わらず仲がいいな」
 先週、暴漢に顔を蹴られて鼻血を流した山代だった。ナノマシンが作用して、その顔は数日前に蹴られたようには見えない。
「あっ、はい。ヤマシロ教授、今から研究所ですか?」
 エディアが闊達な声で、山代に答えた。
「普通に『はい』と返しやがったな、エディア……」と旭は呟く。
「ああ、報告書に目を通すだけなんだが、責任者としては自分の目で確かめないと気が済まないからな。たぶん日付が変わるぐらいまで残業だ」
 旭は山代の苦労も微塵も知ることができないが、社交辞令的に返した。
「大変なんですね、責任者って」
 研究所に籠もる科学者を絵に描いたような陰気な青白い肌に、細面の山代は、目の下を摩りながら白い歯を見せる。
「大変だけど、楽しくってしょうがないさ。科学者ってみんなそうだろ」
「ええ、まあ分かりますけど」
 山代も旭の隣にやってきて話しながら、広い閑散とした公孫樹並木を進む。
「今回は前回のような犠牲者を出すわけにはいかないからね。あれは、不幸な事故だった……。まさか行方不明者が出るなんて」
 その後すぐ山代は、しまった、と言いたげな表情をした。疲れていたせいで、あっさりと機密事項を漏らしてしまった。
 意外とドジっ子かもしれない、と旭は半眼で見つめた。
 そんな裏事情も分からないようなエディアが、普通に聞いてきた。
「どんな事故だったのですか?」
 山代は観念したのか、「亜空間に一人の教授が飛び込んだんだ」と答えた。
 調査中の亜空間に飛び込んだなんて。
 どういう心境で、どういう状態に置かれて、そして亜空間内でどうなったのか。そもそも3cmの孔にどうやって飛び込んだのか。そして残された家族のことも考えると、思わず旭も絶句し顔を顰めてしまう。
「理由は分からないが、探索はすぐに打ち切られたんだ。オーバーヒートを起こしかけたアシンベルリングもすぐには再稼動出来ず、ゲートも開けなかったと言っていた。今回は出力に関する作業は全てプログラム化して、さらに3重のチェック機構を設けることにしている。いくら上位研究員や教授クラスでも1人で各セクションをコントロール出来ないようにするから、まあその手の事故は起こり得ないとは思うけど……」
「教授……、その飛び込んだ科学者の名前はご存知ですか?」
 エディアが小声で聞く。
 山代は軽く頭を振って、「残念だけど、それは極秘扱いになっている。私はその頃。新入りだったが、良くしてもらった。あの人の事は忘れない」と、エディアの目を見て答えた。
「そうですか……」
 残念そうにしているエディアを、旭は怪訝な表情で見つめた。
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