魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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アシンベルの闇

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「ところで北野教授、さっきの連中は一体なんなのですかね」
「んー? そりゃあ大方、俺か山代君の素行調査でもしてたんだろ」と、特に気にしている風でもなく、飲み切ったアイスコーヒーに刺さるストローをズズッと啜った。
 あんなことは日常茶飯事といった温度差の違いが、ここでの生活の深さを如実に感じさせた。
 おそらく北野教授は、母さんと同じぐらい長くアシンベルに携わっているのだろう、と旭は考えた。
 旭のその視線に気付いた北野はグラスを置いて、厳つい顔に微笑を浮かべながら話しだした。
「我々のやっていることは、人類がこの宇宙で末永く活動していくための礎を築いているのだが、それを気に食わない連中は五万といる。それぞれに考え方の違いがあって、やれ神の意思に背くだの、やれ自分達の利益が損なわれるだの、ぐだぐだ言うだけで前に進もうとしない……。あ、2人ともコーヒーのおかわりは?」
「じゃあ、頂きます」と旭だけ答えた。
 開いていたLOTを通じてコーヒーをオーダーした北野は、10秒足らずでテーブルから出てきたアイスコーヒーにミルクを入れながら続ける。
「奴らは、ごねればそれだけ金になるって事を利用している。甘い蜜を自分だけが吸えないということを損としか考えない。そんな考え方だといずれ自分の足で先に進めなくなるということに気付きもしないでな。現に宗教は科学の足を引っ張ってきた史実がある」
 北野はアイスコーヒーをかき混ぜ、少し口に含み更に話を続ける。
「それに宗教家も、いまや政治の票田に成り下がっているしな。宗教というのは心の安寧を与えてくれるが、本当に敬虔な信徒と言うのは何も知らない下っ端で、彼らは神だけしか見えてなく、その手前の人の本質が見えていない。自分の神を信じるという信念が、他人の利益に利用されているなんて、哀れなもんだ」
 最後は愚痴のように呟いていたが、旭はしっかりと聞き考えていた。
 確かに父さんは敬虔な宗教家だったが、27歳で病没してしまった。神に見守られていたはずだったにもかかわらず。なぜ自分と母さんを置いて父さんは死を受け入れたのか、今でも分からない。父さんは神を信じることで何を見出そうとしていたのだろうか。祖父や祖母が信じていたものを、何も考えずに受け入れていただけだったのだろうか。今になっては分かる術も無い。
 ただ旭にとって夏雄が死んで今まで分かったことと言えば、人間なんて脆い、と言うことぐらいだった。
 子供の頃、色々な話を聞かせて絶対的な存在だったのが、無口な白く軽いカルシウムの塊だけになった父さん。今は元気を取り戻したが、父さんが他界して、しばらくは気の抜けた感じだった母さん。アビーインパクトなどの一定の確率でやってくる宇宙規模の災害に対し、こんなに科学技術が発達しているにもかかわらず、見守り祈ることしか出来なかった人類。
 父さんは脆かったから神に縋っていたのかもしれない。そして、母さんも脆いから父さんの死にあそこまで打ちのめされたのかもしれない。アビーに対する人類の脆さは、言わずもがなだ。人類なんて、地球上に蔓延るカビみたいな存在かもしれない。
「人間なんて、地球に蔓延るカビみたいなもんだ」
 考えていた事と同じような言葉を発した方に旭は顔を遣ると、その言葉を発した北野は、どこか寂しげな表情を浮かべている。
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