魔法と科学の境界線

ＳＳＢＥ

「なんだって！」
　旭は脱ぎかけのまま、扉を開けた。
　旭の慌てようを見た香苗は得意げな顔を見せる。
「来年の１月２７日実験開始予定よ。これから約半年後だけど、国連で採択される前に地域住民に対する政府の手回しは済んでいるから、アシンベルリングの点検が終わり次第、扉が開くわ」
　アシンベルリング――、全周１４ｋｍ、直径１４ｍの巨大な真円のリング。人工的にしか創れない原子構造をもつ特殊な金属をリング状にしたものだ。それに高エネルギーを注入しながら高速回転させることによって時空を絞るように引き裂き、この世界とは違う亜空間への扉を開く。
　亜空間開闢に関する資料は、リータに会えなくなって以降、旭は色々な論文で見知っていた。ここアシンベル科学都市の名前の由来にもなった、アシンベル・カストニアの理論を再現したものだった。彼は亜空間開闢に置けるパイオニア的存在だった。
「ってことは……」
「そう、リータちゃんが現れるかもね！」
「亜空間開闢か……」
「あ、そうそう、亜空間開闢実験って名前は前回の事故で使えなくなって英語表記。サブスペース　ビギニング　エクスペリメント。ＳＳＢＥになったから」
「ＳＳＢＥ……」
　リータとの約束が果たせる日が現実のものとなってきた。
　リータはどう変わったのだろうか。自分の事を覚えてくれているのだろうか。それ以前に再び現れてくれるのだろうか。
　旭は上半身裸のまま、壁に映るリータの画像を見ていた。