魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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死の意味

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 その日はリータと会って2ヵ月後にやってきた。
 ある水曜日の朝、いつものように大欠伸をしながら旭がキッチンに顔を出したときだった。香苗が、よろけながら旭の元にやってきて、跪いて抱きついてきた。
 またお酒飲んでいるのかな、と旭は思った。
 最近飲むことが多くなっていたからだ。香苗は肩を震わせながら泣きはじめた。
「おはよう、母さん……」
 そう言っても香苗は力を緩めない。しばらく抱かれるままになっていた旭に、ようやく彼女は身体を離して日頃見せない、くしゃくしゃな顔を向けて言った。
「旭、驚かないで聞いて……。夏雄が……、父さんが死んだの……」
 香苗は再び強く抱きつき、声を上げて泣き出した。
「父さんが……、死んだ……?」
 耳元で響く香苗の泣き声が頭を揺さぶり、そして香苗が言った言葉の意味を求めて旭の頭は混乱している。しばらくしてようやく事態が飲み込めてきた。
 死ぬということは、命が途絶えるということ。そしてもう2度とその人に会えないということ。
 リータと本を読んでいて、「死ぬ」って何、と聞かれたとき、説明のためにLOTで調べて旭は悲しくなったのを思い出した。
 父さんの命が途絶え、父さんともう2度と会えない。
 そう思った途端、鼻の奥が急に痛くなり涙が出てきた。そして喉を締めつけられるような感覚と、心臓を鷲掴みにされたような痛い感覚とが旭を襲った。
 旭は香苗の肩に顔を埋めて、大きな声で泣き出した。

 その日、香苗はすぐに喪服に着替え、昼までに一旦、夏雄の実家に顔を出して、夕方には戻ってくると旭に言った。
 旭は学校を休まされ、香苗に言われた通り荷物をまとめている。一週間、夏雄の実家に泊まらなくてはいけなくなり、着替えや本など必要なものを考えてはバッグに詰め込んでいた。だが夏雄が死によるショックが大きかったのか、途中から全く集中できないでいた。結局準備は夕方まで掛かってしまう。夏雄が死んだことを考えると、たまにじわりと涙が出てきて旭は、それを拭いながら居間で香苗の帰りを待った。
 長野から戻ってきた香苗は、今度は職場に顔を出さないと旭に告げ、またすぐに着替えて家を飛び出していく。
 寝てないようだったけど大丈夫なのだろうか、と旭は思った。
 そしてその夜も旭は1人でリータを待った。
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