魔法と科学の境界線

北丘 淳士

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フィルムカメラ

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 長野の実家で1泊して帰宅したその次の日、旭は学校から走って帰宅し、夏雄から借りてきたカメラを手に取った。リータの姿を夏雄に見せたくて、カメラでリータを撮ることにした。旭は実家にいる時それを思いつき、天使の写真を見た父親が、どういった表情をするのかが楽しみで、授業は上の空だった。

 帰宅後、カメラが使えるかどうか小窓から確認して、旭は1枚試し取りした。希少なフィルムだったが、まだ幼い旭はそれを知らず、夏雄の実家とは違う仄寒い調度の部屋を無駄に撮影する。フィルムの残りが分かる小窓の数字が減っていたので、使えることは理解した。計画停電が始まる前に、旭は部屋の本棚から図鑑1冊を抜き取って部屋を出た。最近のリータのお気に入りである図鑑、それにカメラを持って廊下で彼女が現れるのを待った。そして家全体が薄暗くなり10分程経った頃、リータが旭を向いて現れた。
「やあ、リータ」
「こんばんは、アキラ」
 先週の金曜日に読みかけていたページにスピンを挟んでいた。図鑑のそのページを開き、床に置いてリータに向ける。
「リータ、一つお願いがあるんだけど」
「なに?」
 図鑑を見ようとしていたリータの青い眸が、旭を見る。
「こっちを見て」
 カメラを縦に構えてリータにカメラを向ける旭を、彼女は首を傾げて見た。カメラのレンズを覗いた旭は、少し後ろに下がりながらリータの全体が収まるように調整する。
「アキラ、どうしたの?」
 その言葉に旭は答えず、ちょうどリータが納まる場所を見つけ、シャッターを押した。自然体のリータが撮りたかったからだ。フィルムの残りが減っているのを確認した旭は定位置に座り、リータに事情を話す。
「これがカメラだよ。リータの写真を撮ったんだ」
 リータは目を輝かせながら「シャシン!」と叫んだ。
 アルバムを見たときの反応から、凄く興味をもっているのは分かっていたが、リータの感激ぶりに旭は思わず笑みを溢した。
 旭は「もう一枚撮っていい?」と聞くと、リータは「ちょっと待って」と言って映像の範囲から出て行った。なかなか戻って来なかったので廊下に座ってカメラを弄っていたら、しばらくして慌てて映像の範囲内に戻ってきた。
「待たせてごめんなさい」
 そう言ったリータの背中まである髪が、櫛で梳かれたのか綺麗に整っている。
 旭は何だか嬉しくなって、今度はカウントすることにした。
「じゃあ3、2、1で撮るよ」
 その言葉にややぎこちない表情でリータはレンズを見つめ、旭のカウントに合わせて身構える。今度はリータの胸から上の写真を撮った。
 すぐさまリータが「シャシンできた?」と身を乗り出して聞いてきた。
「フィルムを使い切ってから現像しないといけないから、もう少しかかるよ。楽しみに待ってて」
「うん! すっごく楽しみ」と大きな瞳を一段と輝かせていた。
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