65 / 67
死闘
しおりを挟む
三人と魔王との剣戟が繰り広げられる。
切れ味鋭い日本刀をもってしても、その触手を切断するのは難い。だが魔王本体に少しずつ肉薄しつつあった。
その様を見ていた魔王は煩わしさを露にしていく。
「ええぃ、鬱陶しい!」
魔王は上半身を「く」の字に曲げ、背中から生えている触手を独楽のように回した。鞭のような連撃が三人を襲う。防御力の薄いルリとトウジが刀を盾にしながらも吹き飛ぶ。そして上半身を起こし、吹き飛んだルリとトウジに向かって水弾を放とうとするも不発だった。
「くそっ! 水切れか!」
標的を変え、四本の触手を縒ってエリオット目がけて突きを繰り出した。だが、その攻撃は盾によって防がれた。
「かなり重いが覚醒した盾は、俺でも使えるみたいだな」
ベルハルドが光り輝く勇者の盾で、その攻撃を防いでいた。
瞠目していた魔王の動きが一瞬止まる。
その機会を見逃さずエリオットは駆け、硬質化した触手を勇者の剣で斬った。正確には二本しか切れていないものの、確実に魔王を弱体化させた。
痛みに魔王は顔を顰める。
狙うは本体!
猛るエリオットに気圧され、水弾も放てない魔王は頭を切り替えた。
触手を元に戻し、鞭のようにエリオットを襲いながらも魔王は背中を向けた。背中には四つの空気穴らしき管があった。
新しい攻撃が来る、と予感したエリオットの思惑は外れた。
魔王が触手を振り乱しながら海に向かって逃げ出したのだ。
新たな攻撃を予測し、一瞬構えたため、逃げながらも触手で攻撃してくる魔王にエリオットは追いつけない。
もう魔法も使えない。だが、このまま逃がしてなるものか!
触手の攻撃を薙ぎながら追いかけるため、少しずつその距離は開いていく。
その時、よろめきながら放ったウィスの妖精の矢が魔王の左ふくらはぎに刺さった。
「最後の一本よ!」
だが魔王は歩みを止めない。足を引き摺り、触手で防御しながらも海を目指す。
逃げ切られてしまう……!
そう思った瞬間、岩陰から一人の剣士が飛び出し魔王に斬りかかった。魔王の歩みと触手の動きを止めるのに十分だった。
「父さん!」
その剣士はエリオットの父、ラルフだった。
突如現れたラルフは流れるような太刀筋で三太刀を浴びせた。
そのまま全力でエリオットは駆けた。残ったマナを勇者の剣にのせ、電気を帯びる。そして飛び上がり、振り返ろうとした魔王の首を一閃。
傾く西日を背にし鋭い切れ味の勇者の剣は、一瞬でうろこ状になった魔王の首をものともせず撥ねた。
撥ねた魔王の首は砂浜に転がった。何かを言いたげだったその赤い目が、徐々に薄れ命の灯が消えた。
終わった……。
最後の戦いが終わったエリオットは急に重さを感じ、剣を落として膝をついた。
「エリオット、大丈夫か!」
心配し駆け寄るラルフが見たのは、変わっていく我が子だった。
銀色の髪と緑色の瞳は少しずつ黒く変色していく。
「鎧が、重い……」
「待ってろ、今、脱がしてやる」
重量のある鎧を脱がすのに手間どいながらも、何とか脱がすことが出来た。
「よくやったエリオット。今のが魔王だったんだろ」
「うん、父さんが駆け付けて来てないと逃すところだった、ありがとう」
「なに、丁度巡回中にエリオットの雷を見たからな。ザルト海峡の流れも治まっているし、何かあるのだろうと手漕ぎの舟を借りて来たのだ」
エリオットが溜息をついたのと、カルナの事を思い出したのは、ほぼ同時だった。
「カルナ!」
鎧を捨て、身軽になったエリオットは振り返って駆けだした。
カルナの周りでは他の四人が集まっていた。
「カルナ、大丈夫か!」
見た目が変わったエリオットにウィス以外の三人が一瞬、瞠目する中、ウィスはカルナに抱き着いて泣き崩れていた。
「顔色も悪いし、呼吸がどんどん小さくなっていってるの!」
「エリオット、どうにかして回復できないのか!」
「これは、もう手遅れでしょう。傷が深すぎます」
トウジの脇差を借りて法衣を胸元まで裂き、ルリが診ているも彼女は匙(さじ)を投げていた。
もう回復は無理だ……。
道中、少しでもいいからカルナから回復魔法を教えてもらえば良かったと、エリオットは酷く後悔し始めていた。
目の前で、今まで旅を共にしていた仲間が死んでいく。
人見知りだったカルナ。
甘いものに目が無いカルナ。
酒が入ると笑い上戸になるカルナ。
恋の話に興味津々だったカルナ。
何も処置が出来ずに、そのカルナが死んでいく。
折角、魔王を倒したのに、この仕打ちはあんまりだと、三人は思った。
切れ味鋭い日本刀をもってしても、その触手を切断するのは難い。だが魔王本体に少しずつ肉薄しつつあった。
その様を見ていた魔王は煩わしさを露にしていく。
「ええぃ、鬱陶しい!」
魔王は上半身を「く」の字に曲げ、背中から生えている触手を独楽のように回した。鞭のような連撃が三人を襲う。防御力の薄いルリとトウジが刀を盾にしながらも吹き飛ぶ。そして上半身を起こし、吹き飛んだルリとトウジに向かって水弾を放とうとするも不発だった。
「くそっ! 水切れか!」
標的を変え、四本の触手を縒ってエリオット目がけて突きを繰り出した。だが、その攻撃は盾によって防がれた。
「かなり重いが覚醒した盾は、俺でも使えるみたいだな」
ベルハルドが光り輝く勇者の盾で、その攻撃を防いでいた。
瞠目していた魔王の動きが一瞬止まる。
その機会を見逃さずエリオットは駆け、硬質化した触手を勇者の剣で斬った。正確には二本しか切れていないものの、確実に魔王を弱体化させた。
痛みに魔王は顔を顰める。
狙うは本体!
猛るエリオットに気圧され、水弾も放てない魔王は頭を切り替えた。
触手を元に戻し、鞭のようにエリオットを襲いながらも魔王は背中を向けた。背中には四つの空気穴らしき管があった。
新しい攻撃が来る、と予感したエリオットの思惑は外れた。
魔王が触手を振り乱しながら海に向かって逃げ出したのだ。
新たな攻撃を予測し、一瞬構えたため、逃げながらも触手で攻撃してくる魔王にエリオットは追いつけない。
もう魔法も使えない。だが、このまま逃がしてなるものか!
触手の攻撃を薙ぎながら追いかけるため、少しずつその距離は開いていく。
その時、よろめきながら放ったウィスの妖精の矢が魔王の左ふくらはぎに刺さった。
「最後の一本よ!」
だが魔王は歩みを止めない。足を引き摺り、触手で防御しながらも海を目指す。
逃げ切られてしまう……!
そう思った瞬間、岩陰から一人の剣士が飛び出し魔王に斬りかかった。魔王の歩みと触手の動きを止めるのに十分だった。
「父さん!」
その剣士はエリオットの父、ラルフだった。
突如現れたラルフは流れるような太刀筋で三太刀を浴びせた。
そのまま全力でエリオットは駆けた。残ったマナを勇者の剣にのせ、電気を帯びる。そして飛び上がり、振り返ろうとした魔王の首を一閃。
傾く西日を背にし鋭い切れ味の勇者の剣は、一瞬でうろこ状になった魔王の首をものともせず撥ねた。
撥ねた魔王の首は砂浜に転がった。何かを言いたげだったその赤い目が、徐々に薄れ命の灯が消えた。
終わった……。
最後の戦いが終わったエリオットは急に重さを感じ、剣を落として膝をついた。
「エリオット、大丈夫か!」
心配し駆け寄るラルフが見たのは、変わっていく我が子だった。
銀色の髪と緑色の瞳は少しずつ黒く変色していく。
「鎧が、重い……」
「待ってろ、今、脱がしてやる」
重量のある鎧を脱がすのに手間どいながらも、何とか脱がすことが出来た。
「よくやったエリオット。今のが魔王だったんだろ」
「うん、父さんが駆け付けて来てないと逃すところだった、ありがとう」
「なに、丁度巡回中にエリオットの雷を見たからな。ザルト海峡の流れも治まっているし、何かあるのだろうと手漕ぎの舟を借りて来たのだ」
エリオットが溜息をついたのと、カルナの事を思い出したのは、ほぼ同時だった。
「カルナ!」
鎧を捨て、身軽になったエリオットは振り返って駆けだした。
カルナの周りでは他の四人が集まっていた。
「カルナ、大丈夫か!」
見た目が変わったエリオットにウィス以外の三人が一瞬、瞠目する中、ウィスはカルナに抱き着いて泣き崩れていた。
「顔色も悪いし、呼吸がどんどん小さくなっていってるの!」
「エリオット、どうにかして回復できないのか!」
「これは、もう手遅れでしょう。傷が深すぎます」
トウジの脇差を借りて法衣を胸元まで裂き、ルリが診ているも彼女は匙(さじ)を投げていた。
もう回復は無理だ……。
道中、少しでもいいからカルナから回復魔法を教えてもらえば良かったと、エリオットは酷く後悔し始めていた。
目の前で、今まで旅を共にしていた仲間が死んでいく。
人見知りだったカルナ。
甘いものに目が無いカルナ。
酒が入ると笑い上戸になるカルナ。
恋の話に興味津々だったカルナ。
何も処置が出来ずに、そのカルナが死んでいく。
折角、魔王を倒したのに、この仕打ちはあんまりだと、三人は思った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる