勇者が来る!!

北丘 淳士

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死闘

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 三人と魔王との剣戟が繰り広げられる。
 切れ味鋭い日本刀をもってしても、その触手を切断するのは難い。だが魔王本体に少しずつ肉薄しつつあった。
 その様を見ていた魔王は煩わしさを露にしていく。
「ええぃ、鬱陶しい!」
 魔王は上半身を「く」の字に曲げ、背中から生えている触手を独楽のように回した。鞭のような連撃が三人を襲う。防御力の薄いルリとトウジが刀を盾にしながらも吹き飛ぶ。そして上半身を起こし、吹き飛んだルリとトウジに向かって水弾を放とうとするも不発だった。
「くそっ! 水切れか!」
 標的を変え、四本の触手を縒ってエリオット目がけて突きを繰り出した。だが、その攻撃は盾によって防がれた。
「かなり重いが覚醒した盾は、俺でも使えるみたいだな」
 ベルハルドが光り輝く勇者の盾で、その攻撃を防いでいた。
 瞠目していた魔王の動きが一瞬止まる。
 その機会を見逃さずエリオットは駆け、硬質化した触手を勇者の剣で斬った。正確には二本しか切れていないものの、確実に魔王を弱体化させた。
 痛みに魔王は顔を顰める。
 狙うは本体!
 猛るエリオットに気圧され、水弾も放てない魔王は頭を切り替えた。
 触手を元に戻し、鞭のようにエリオットを襲いながらも魔王は背中を向けた。背中には四つの空気穴らしき管があった。
 新しい攻撃が来る、と予感したエリオットの思惑は外れた。
 魔王が触手を振り乱しながら海に向かって逃げ出したのだ。
 新たな攻撃を予測し、一瞬構えたため、逃げながらも触手で攻撃してくる魔王にエリオットは追いつけない。
 もう魔法も使えない。だが、このまま逃がしてなるものか!
 触手の攻撃を薙ぎながら追いかけるため、少しずつその距離は開いていく。
 その時、よろめきながら放ったウィスの妖精の矢が魔王の左ふくらはぎに刺さった。
「最後の一本よ!」
 だが魔王は歩みを止めない。足を引き摺り、触手で防御しながらも海を目指す。
 逃げ切られてしまう……!
 そう思った瞬間、岩陰から一人の剣士が飛び出し魔王に斬りかかった。魔王の歩みと触手の動きを止めるのに十分だった。
「父さん!」
 その剣士はエリオットの父、ラルフだった。
 突如現れたラルフは流れるような太刀筋で三太刀を浴びせた。
 そのまま全力でエリオットは駆けた。残ったマナを勇者の剣にのせ、電気を帯びる。そして飛び上がり、振り返ろうとした魔王の首を一閃。
 傾く西日を背にし鋭い切れ味の勇者の剣は、一瞬でうろこ状になった魔王の首をものともせず撥ねた。
 撥ねた魔王の首は砂浜に転がった。何かを言いたげだったその赤い目が、徐々に薄れ命の灯が消えた。
 終わった……。
 最後の戦いが終わったエリオットは急に重さを感じ、剣を落として膝をついた。
「エリオット、大丈夫か!」
 心配し駆け寄るラルフが見たのは、変わっていく我が子だった。
 銀色の髪と緑色の瞳は少しずつ黒く変色していく。
「鎧が、重い……」
「待ってろ、今、脱がしてやる」
 重量のある鎧を脱がすのに手間どいながらも、何とか脱がすことが出来た。
「よくやったエリオット。今のが魔王だったんだろ」
「うん、父さんが駆け付けて来てないと逃すところだった、ありがとう」
「なに、丁度巡回中にエリオットの雷を見たからな。ザルト海峡の流れも治まっているし、何かあるのだろうと手漕ぎの舟を借りて来たのだ」
 エリオットが溜息をついたのと、カルナの事を思い出したのは、ほぼ同時だった。
「カルナ!」
 鎧を捨て、身軽になったエリオットは振り返って駆けだした。
 カルナの周りでは他の四人が集まっていた。
「カルナ、大丈夫か!」
 見た目が変わったエリオットにウィス以外の三人が一瞬、瞠目する中、ウィスはカルナに抱き着いて泣き崩れていた。
「顔色も悪いし、呼吸がどんどん小さくなっていってるの!」
「エリオット、どうにかして回復できないのか!」
「これは、もう手遅れでしょう。傷が深すぎます」
 トウジの脇差を借りて法衣を胸元まで裂き、ルリが診ているも彼女は匙(さじ)を投げていた。
 もう回復は無理だ……。
 道中、少しでもいいからカルナから回復魔法を教えてもらえば良かったと、エリオットは酷く後悔し始めていた。
 目の前で、今まで旅を共にしていた仲間が死んでいく。
 人見知りだったカルナ。
 甘いものに目が無いカルナ。
 酒が入ると笑い上戸になるカルナ。
 恋の話に興味津々だったカルナ。
 何も処置が出来ずに、そのカルナが死んでいく。
 折角、魔王を倒したのに、この仕打ちはあんまりだと、三人は思った。
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