勇者が来る!!

北丘 淳士

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「ウィス! エリオットが戻って来るまで耐えるぞ!」
「分かったわ!」
 お互い二本ずつの触手を相手に防戦を続ける。カルナがベルハルドの背後に回り、彼が受けた肩の傷を治す。
 絶え間なく攻撃を繰り出すも、先ほど負傷した肩が回復しているベルハルドを見て、魔王は目を細める。
 回復している……。
 大きなベルハルドの背後に白い法衣のカルナを見た。
 あいつか!
 エリオットがいなくなった事で、触手が空いた魔王は二つの触手を螺旋状に縒(よ)り、ベルハルドに向けて突いた。幾度も魔物の攻撃を防いできたベルハルドの盾は音を立てて割れれ、彼は吹き飛んだ。そしてすかさず水弾を放つ。その水弾は背後にいたカルナの胸部を貫いた。
「カルナー!!」
 喀血して吹き飛ぶカルナを見て叫ぶウィスは、怒りに歯を噛みしめ、短剣を両手に魔王へと突っ込む。
 だが空いていた触手の一本をウィスの足首を掴み、そして引っ張り上げた。三メートルもの高さに引き上げられたウィスに魔王は左腕を伸ばす。
「死ね!」
「あなたもね!」
 高々と持ち上げられながらも、ウィスは矢を番い魔王の頭部を狙っていた。ウィスの矢では水弾の相殺すら出来ない。
 水弾が放たれる前に、右往左往していたケイトはウィスに向かって飛んだ。
 あなたを死なせない!
 矢が放たれる前に、ケイトは放たれようとしていたウィスの弓にマナの大半を送り込んだ。
 水弾と矢が放たれたのは同時だった。
 妖精の力を纏った矢は、魔王が放った水弾を貫き、彼の肩口に刺さった。
 魔王は、その痛みに一瞬、触手の力を弱めた。三メートルの高さからウィスは落とされる。
「ぐっ!」
 すぐにウィスは体勢を立て直すことが出来ない。
「一人ずつ始末していってやる!」
 魔王は、さらに三本の触手を縒り、倒れているウィスに照準を合わせた。
「ウィス、ウィス! 起きて!!」
 ケイトの声はウィスには届かない。ベルハルドも盾が壊れて間に合わない。
 縒られた触手が今にもウィス目がけて飛び出そうとしていた時だった。魔王の右肩に三本のクナイが投げられ、浅くもだが刺さった。
「誰だ!」
 戦いの場に現れたのは、かつて二カルス海峡で袂を分かれたトウジ・カガだった。そして遅れてルリ・タチカワも到着する。
「二人とも!」
 驚くベルハルドに、小さく頷いたルリは左腰に佩いた鞘から日本刀を抜く。
「さっきの青い雷はエリオットさんのだと分かりました。彼がエリオットさんが言っていた魔王ですね。トウジ、ここで成敗しましょう!」
 右肩に刺さったクナイを魔王は抜いて捨てた。
 脇差を抜きながら低い姿勢で魔王に肉薄するトウジに、魔王は縒っていた三本の触手を戻し鞭のように振り回す。残っていた一本はウィスを狙ったものの、彼女は横転しそれを回避する。
 右手を突き出し、魔王はトウジに向ける。
「トウジ、気をつけろ!」
 ベルハルドの声と同時に水弾が発射される。高速で飛んでくる水弾に、かろうじて反応し、脇差で軌道を逸らせた。
「トウジ、押し切りますよ!」
 三本では分が悪いと思った魔王は、ウィスを狙っていた触手も二人を襲い始めた。
 ベルハルドは背後で倒れているカルナを見た。意識が無く仰向けに倒れ、口と胸元から淋漓と出ている血は法衣を赤く染め、肺に穴が開いたような呼吸音をしている。
 このままだとヤバい!
 形勢はやや取り返したものの、体力を回復させるカルナが脱落してしまった。
 四本の触手と競り合っていた二人に向けて魔王は歩を進める。ずっと水中にいたため重力に慣れていないようで、その歩みは遅い。
 魔王本体の攻撃が合わさると、厳しいかもしれない……。
 だがランス一つで、回避能力も低いベルハルドが加勢しても足手まといになる可能性が高い。
 自分の体を盾にして隙を作るしか……。
 葛藤している間に、胸に緑色に輝く石が光る鎧を纏ったエリオットが駆けてきた。やはりその鎧は錆が完全に落ち、確かな強度と、羽のような軽さを備えていた。
「エリオット!」
 ベルハルドのその声に、ウィスも膝を叩いて立ち上がる。勇者の存在がパーティーを鼓舞した。
「カルナ!」
「このままではヤバい、早く手当てしないと!」
「くそっ!」
 怒りという原動力を糧に彼は魔王に突進していく。盾は装備していなかった。
「ルリ、トウジ、来てくれたのか!」
「エリオットさん、もうやられたのかと思いましたよ!」
「まずは触手だ!」
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