勇者が来る！！

魔法習得

　魔導書を手にしたカルナは宿屋や荷馬車の上、食事時間もそれを読んでいた。ブツブツ言いながら、時には自分の体で魔法を試しているようだった。
　エイナから路銀を貰った二日目には、ジラール連合国との国境に着いた。オルガノフ帝国とジラール連合国は交易が盛んで、国境線はあっさりと越えることが出来た。
「ここは連合国で、しかもザルト海峡を挟んでいるから、ビルダーナには情報も入って来ないしな」
　地図も他の国々と比べて、若干簡略気味に書いてある。
「とりあえず、首都を目指しますか」
　荷馬車に本を読むカルナを乗せたまま、一行は地図に書いてある最寄りの街に行くことにした。
　だが急峻な山々が多いこの国に入って三時間程進むと、土砂崩れによって道が塞がれていた。
　あー、こりゃあエリオットの仕業だな。
　ベルハルドはそう思いながらも、トラステリアに小声で意見を求める。
「どうしたらいい？」
『こちらも土砂崩れで魔物を確保することが出来ませんでした。とりあえず復旧作業を手伝ったりして時間を潰してください』
「分かった」

　ジラール連合国は先の地震で陸路がほぼ通行止めになり、土砂を搬出する作業に追われた。
　土の魔法はマナの消費が激しいため、エリオットは極力、手で土砂を搬出する。
　ずっと魔導書とにらめっこしていたカルナも肉体強化魔法を使えるようになり、自分だけでなく他の三人や復興人員に強化魔法をかけて、次々と道を開拓していった。
「この強化魔法って凄いな。かけられた時に少し熱っぽい感じがするけど、こんな重たい石でも持ち上げられるなんて」
　ベルハルドは得意げに二百キロ近くの石を持ち上げ、街道脇に捨てている。
　力不足を気にしていたカルナも、今は七十キロもの石を抱えて運んでいた。
「本当、これは一体どういった魔法何だい？」
　問うエリオットに、持っていた石を路肩に捨てたカルナは人差し指を立て、得意げに説明し始める。
「まずはマナで血液の循環を速くします。心拍数というものが上がりますね。そして力の源となるあるアトムを別のものに置き換えます。脳からも分泌物をドバドバと出るようにします。そして……」
「おいおい！　それって身体は大丈夫なのか？」
「大丈夫です。お腹も空きますし、ダイエット効果もあるのですよ！　いくら甘いものを食べても大丈夫です」
「……それならいいけど」
　一抹の不安を抱えつつも、エリオットは復興作業に心血を注いだ。