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首
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その巨人に連れられて、エリオットたちは村に入っていく。
ウィスやベルハルドさんと一緒だったら警戒して、村から追い出されたかもしれない。
その巨人と一緒に歩いていると、他の巨人から笑顔や、好奇の目で見られる。
警戒されないよう、エリオットは笑顔で彼らに会釈した。
「ここだ」ひときわ大きい家の前に辿り着き、十メートルぐらいあるであろう木の扉を叩いて開けた。「長老、いるかい?」
扉が開いた途端、奥の方で何か物音がした。
「その声はアルドリアか、奥にいるぞ」
「ついて来てくれ」
その室内は途方もなく広く、家畜が丸ごと干し肉にしてあるものが三体、壁につるされている。テーブルもエリオットたちより高く、エリオットたちは自分が小さくなった気がした。歩いて戸口をくぐると、巨大な椅子に腰かけた老人がいた。座ってはいるものの、その大きさは八メートルを超えていた。
「おお、人間か。迷い込んだかな?」
「いや長老、何か話があるようで」
「そうか、まぁ、適当に座るとよい」
「私は農作業に戻りますね」
「分かった。彼らが町を出る時は、またお願いするからきてくれ」
「分かりました」
そのアルドリアと呼ばれた巨人は出ていき、長老と三人になる。
「私は、アルムガンドというものだ。さて……」エリオットと目が合った時、長老は少しばかり眉を上げた。「勇者殿だな」
「なぜ分かるんですか?」
「勇者の伝承はヨトゥンヘイムにも伝わっている。銀の髪に緑の眼、間違いない。とうとう現れたか」
「はい、私は魔王を倒すため、世界を回っているのです」
「それで、その勇者殿がヨトゥンヘイムに何用なのだ?」
「それは……」
今までの巨人の接し方から、とても要件を打ち出せなかった。
「おそらく、巨人を討伐してこい、と帝国の人間から言われたのだな」
先を読む力は、さすが長老と言われているだけはある、とエリオットは感じた。
「……はい、現オルガノフ帝から、巨人の首を持ってこい、と言われまして。ですが私には出来ません」
きっぱりとエリオットは告げた。
「そうか……、ところでコルデ町の皆は元気だったかな?」
「? はい、皆、巨人の人々に敬愛の心を持っていました。そんなあなたたちを傷つけることは、私には出来ないのです」
「それは困った問題だな」
だが、その言葉とは裏腹にアルムガンドは笑みを湛えた。
彼は勇者が承認欲求が満たされないと災害が起こることも知っていた。
「昔は人間と共に暮らしていた。三十年程前になるかな。だが、その頃帝国が力をつけ始め、私たち巨人の力に目を付けた。人間同士の争いに巻き込まれたく無い我々は、マナの湧き出るこのヨトゥンヘイムの妖精に頼み、幻術をかけてもらい隠遁している」
「妖精がいるのですか?」
エリオットの肩に座ったままのケイトが問う。
「ああ、妖精がいる。だが人間嫌いで、人間の匂いが染みついたお主には会いたくないだろう」
「そうですか……」
普通の人間には見えないケイトが見えることは、この人もマナを扱えたりするのだろう、とエリオットは思惟した。
「首が欲しいのだな」
エリオットは頷こうとしたが、首を横に振った。
「いいえ、このまま帰ります。そして成果なし、と伝えます」
「ちょっと待っていてくれ」
そう言ってアルムガンドは、ゆっくりと立ち上がった。あまりの巨体にカルナは首を痛めた。そしてアルムガンドは別の部屋に移動し、奥で何か作業をしていた。五分ほど経ってアルムガンドは白い布に包まれた大きな荷物を持ってきた。
「この中に巨人の首が入っている。もうミイラ化しているがな。歴代長老の首のミイラだ。これを持っていけば皇帝も納得するだろう」
「そんな大事な物、頂いても良いのですか!?」
「構わない。私たちヨトゥンの寿命は長く、人間の時間で言うと五百年を越える。だがその歴史も長くて、もはや誰の首かは分からん。今までの長老の首を祀っていたが、これが世界の為になるのであれば差し出そう」
白い布に包まれた首を持ってきたアルムガンドは、エリオットたちの前にそれを置いた。高さは一メートル強ある。
「分かりました。これはお借りします。出来れば、また持って戻るつもりです」
その言葉に、アルムガンドは笑みを浮かべた。
「しっかり乾燥しているから、重くはないと思う。外に出たら、まだ近くにアルドリアがいると思うから、声をかけるといい。では世界を頼んだぞ、勇者殿」
「はい、感謝します。ではお預かりします」
エリオットとカルナは一礼し、彼はその包みを抱え上げた。そして部屋を出る時も一礼した。
「勇者……か」
アルムガンドは、しばし考えこんでいると、エリオットが戻ってきた。
「どうした?」
「すいません、扉開けて下さい。重くて」
三時間後、馬車の下に四人が集まった。
「よく首を貸してくれたな」
「はい、良い人たちでした。これは丁重に扱わないと」
その包みは馬車の荷台に載せてある。
「これでオルガノフ帝も満足するだろう。路銀も少なくなっているから直接向かおうか」
「そうですね」
その言葉を聞いていたトラステリアは安堵した。
「充てる魔物を減らしましょう。彼らが心配ですので」
ウィスやベルハルドさんと一緒だったら警戒して、村から追い出されたかもしれない。
その巨人と一緒に歩いていると、他の巨人から笑顔や、好奇の目で見られる。
警戒されないよう、エリオットは笑顔で彼らに会釈した。
「ここだ」ひときわ大きい家の前に辿り着き、十メートルぐらいあるであろう木の扉を叩いて開けた。「長老、いるかい?」
扉が開いた途端、奥の方で何か物音がした。
「その声はアルドリアか、奥にいるぞ」
「ついて来てくれ」
その室内は途方もなく広く、家畜が丸ごと干し肉にしてあるものが三体、壁につるされている。テーブルもエリオットたちより高く、エリオットたちは自分が小さくなった気がした。歩いて戸口をくぐると、巨大な椅子に腰かけた老人がいた。座ってはいるものの、その大きさは八メートルを超えていた。
「おお、人間か。迷い込んだかな?」
「いや長老、何か話があるようで」
「そうか、まぁ、適当に座るとよい」
「私は農作業に戻りますね」
「分かった。彼らが町を出る時は、またお願いするからきてくれ」
「分かりました」
そのアルドリアと呼ばれた巨人は出ていき、長老と三人になる。
「私は、アルムガンドというものだ。さて……」エリオットと目が合った時、長老は少しばかり眉を上げた。「勇者殿だな」
「なぜ分かるんですか?」
「勇者の伝承はヨトゥンヘイムにも伝わっている。銀の髪に緑の眼、間違いない。とうとう現れたか」
「はい、私は魔王を倒すため、世界を回っているのです」
「それで、その勇者殿がヨトゥンヘイムに何用なのだ?」
「それは……」
今までの巨人の接し方から、とても要件を打ち出せなかった。
「おそらく、巨人を討伐してこい、と帝国の人間から言われたのだな」
先を読む力は、さすが長老と言われているだけはある、とエリオットは感じた。
「……はい、現オルガノフ帝から、巨人の首を持ってこい、と言われまして。ですが私には出来ません」
きっぱりとエリオットは告げた。
「そうか……、ところでコルデ町の皆は元気だったかな?」
「? はい、皆、巨人の人々に敬愛の心を持っていました。そんなあなたたちを傷つけることは、私には出来ないのです」
「それは困った問題だな」
だが、その言葉とは裏腹にアルムガンドは笑みを湛えた。
彼は勇者が承認欲求が満たされないと災害が起こることも知っていた。
「昔は人間と共に暮らしていた。三十年程前になるかな。だが、その頃帝国が力をつけ始め、私たち巨人の力に目を付けた。人間同士の争いに巻き込まれたく無い我々は、マナの湧き出るこのヨトゥンヘイムの妖精に頼み、幻術をかけてもらい隠遁している」
「妖精がいるのですか?」
エリオットの肩に座ったままのケイトが問う。
「ああ、妖精がいる。だが人間嫌いで、人間の匂いが染みついたお主には会いたくないだろう」
「そうですか……」
普通の人間には見えないケイトが見えることは、この人もマナを扱えたりするのだろう、とエリオットは思惟した。
「首が欲しいのだな」
エリオットは頷こうとしたが、首を横に振った。
「いいえ、このまま帰ります。そして成果なし、と伝えます」
「ちょっと待っていてくれ」
そう言ってアルムガンドは、ゆっくりと立ち上がった。あまりの巨体にカルナは首を痛めた。そしてアルムガンドは別の部屋に移動し、奥で何か作業をしていた。五分ほど経ってアルムガンドは白い布に包まれた大きな荷物を持ってきた。
「この中に巨人の首が入っている。もうミイラ化しているがな。歴代長老の首のミイラだ。これを持っていけば皇帝も納得するだろう」
「そんな大事な物、頂いても良いのですか!?」
「構わない。私たちヨトゥンの寿命は長く、人間の時間で言うと五百年を越える。だがその歴史も長くて、もはや誰の首かは分からん。今までの長老の首を祀っていたが、これが世界の為になるのであれば差し出そう」
白い布に包まれた首を持ってきたアルムガンドは、エリオットたちの前にそれを置いた。高さは一メートル強ある。
「分かりました。これはお借りします。出来れば、また持って戻るつもりです」
その言葉に、アルムガンドは笑みを浮かべた。
「しっかり乾燥しているから、重くはないと思う。外に出たら、まだ近くにアルドリアがいると思うから、声をかけるといい。では世界を頼んだぞ、勇者殿」
「はい、感謝します。ではお預かりします」
エリオットとカルナは一礼し、彼はその包みを抱え上げた。そして部屋を出る時も一礼した。
「勇者……か」
アルムガンドは、しばし考えこんでいると、エリオットが戻ってきた。
「どうした?」
「すいません、扉開けて下さい。重くて」
三時間後、馬車の下に四人が集まった。
「よく首を貸してくれたな」
「はい、良い人たちでした。これは丁重に扱わないと」
その包みは馬車の荷台に載せてある。
「これでオルガノフ帝も満足するだろう。路銀も少なくなっているから直接向かおうか」
「そうですね」
その言葉を聞いていたトラステリアは安堵した。
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