勇者が来る!!

北丘 淳士

文字の大きさ
上 下
54 / 67

しおりを挟む
 その巨人に連れられて、エリオットたちは村に入っていく。
 ウィスやベルハルドさんと一緒だったら警戒して、村から追い出されたかもしれない。
 その巨人と一緒に歩いていると、他の巨人から笑顔や、好奇の目で見られる。
 警戒されないよう、エリオットは笑顔で彼らに会釈した。
「ここだ」ひときわ大きい家の前に辿り着き、十メートルぐらいあるであろう木の扉を叩いて開けた。「長老、いるかい?」
 扉が開いた途端、奥の方で何か物音がした。
「その声はアルドリアか、奥にいるぞ」
「ついて来てくれ」
 その室内は途方もなく広く、家畜が丸ごと干し肉にしてあるものが三体、壁につるされている。テーブルもエリオットたちより高く、エリオットたちは自分が小さくなった気がした。歩いて戸口をくぐると、巨大な椅子に腰かけた老人がいた。座ってはいるものの、その大きさは八メートルを超えていた。
「おお、人間か。迷い込んだかな?」
「いや長老、何か話があるようで」
「そうか、まぁ、適当に座るとよい」
「私は農作業に戻りますね」
「分かった。彼らが町を出る時は、またお願いするからきてくれ」
「分かりました」
 そのアルドリアと呼ばれた巨人は出ていき、長老と三人になる。
「私は、アルムガンドというものだ。さて……」エリオットと目が合った時、長老は少しばかり眉を上げた。「勇者殿だな」
「なぜ分かるんですか?」
「勇者の伝承はヨトゥンヘイムにも伝わっている。銀の髪に緑の眼、間違いない。とうとう現れたか」
「はい、私は魔王を倒すため、世界を回っているのです」
「それで、その勇者殿がヨトゥンヘイムに何用なのだ?」
「それは……」
 今までの巨人の接し方から、とても要件を打ち出せなかった。
「おそらく、巨人を討伐してこい、と帝国の人間から言われたのだな」
 先を読む力は、さすが長老と言われているだけはある、とエリオットは感じた。
「……はい、現オルガノフ帝から、巨人の首を持ってこい、と言われまして。ですが私には出来ません」
 きっぱりとエリオットは告げた。
「そうか……、ところでコルデ町の皆は元気だったかな?」
「? はい、皆、巨人の人々に敬愛の心を持っていました。そんなあなたたちを傷つけることは、私には出来ないのです」
「それは困った問題だな」
 だが、その言葉とは裏腹にアルムガンドは笑みを湛えた。
 彼は勇者が承認欲求が満たされないと災害が起こることも知っていた。
「昔は人間と共に暮らしていた。三十年程前になるかな。だが、その頃帝国が力をつけ始め、私たち巨人の力に目を付けた。人間同士の争いに巻き込まれたく無い我々は、マナの湧き出るこのヨトゥンヘイムの妖精に頼み、幻術をかけてもらい隠遁している」
「妖精がいるのですか?」
 エリオットの肩に座ったままのケイトが問う。
「ああ、妖精がいる。だが人間嫌いで、人間の匂いが染みついたお主には会いたくないだろう」
「そうですか……」
 普通の人間には見えないケイトが見えることは、この人もマナを扱えたりするのだろう、とエリオットは思惟した。 
「首が欲しいのだな」
 エリオットは頷こうとしたが、首を横に振った。
「いいえ、このまま帰ります。そして成果なし、と伝えます」
「ちょっと待っていてくれ」
 そう言ってアルムガンドは、ゆっくりと立ち上がった。あまりの巨体にカルナは首を痛めた。そしてアルムガンドは別の部屋に移動し、奥で何か作業をしていた。五分ほど経ってアルムガンドは白い布に包まれた大きな荷物を持ってきた。
「この中に巨人の首が入っている。もうミイラ化しているがな。歴代長老の首のミイラだ。これを持っていけば皇帝も納得するだろう」
「そんな大事な物、頂いても良いのですか!?」
「構わない。私たちヨトゥンの寿命は長く、人間の時間で言うと五百年を越える。だがその歴史も長くて、もはや誰の首かは分からん。今までの長老の首を祀っていたが、これが世界の為になるのであれば差し出そう」
 白い布に包まれた首を持ってきたアルムガンドは、エリオットたちの前にそれを置いた。高さは一メートル強ある。
「分かりました。これはお借りします。出来れば、また持って戻るつもりです」
 その言葉に、アルムガンドは笑みを浮かべた。
「しっかり乾燥しているから、重くはないと思う。外に出たら、まだ近くにアルドリアがいると思うから、声をかけるといい。では世界を頼んだぞ、勇者殿」
「はい、感謝します。ではお預かりします」
 エリオットとカルナは一礼し、彼はその包みを抱え上げた。そして部屋を出る時も一礼した。
「勇者……か」
 アルムガンドは、しばし考えこんでいると、エリオットが戻ってきた。
「どうした?」
「すいません、扉開けて下さい。重くて」

 三時間後、馬車の下に四人が集まった。
「よく首を貸してくれたな」
「はい、良い人たちでした。これは丁重に扱わないと」
 その包みは馬車の荷台に載せてある。
「これでオルガノフ帝も満足するだろう。路銀も少なくなっているから直接向かおうか」
「そうですね」

 その言葉を聞いていたトラステリアは安堵した。
「充てる魔物を減らしましょう。彼らが心配ですので」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

HP2のタンク ~最弱のハズレ職業【暗黒騎士】など不要と、追放された俺はタイムリープによって得た知識で無双する~

木嶋隆太
ファンタジー
親友の勇者を厄災で失ったレウニスは、そのことを何十年と後悔していた。そんなある日、気づけばレウニスはタイムリープしていた。そこは親友を失う前の時間。最悪の未来を回避するために、動き始める。最弱ステータスをもらったレウニスだったが、、未来で得た知識を活用し、最速で最強へと駆け上がる。自分を馬鹿にする家を見返し、虐げてきた冒険者を返り討ちにし、最強の道をひた進む。すべては、親友を救うために。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

処理中です...