勇者が来る!!

北丘 淳士

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巨人の里

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 首都オルガニゼを出立して三日、コルデ高地のふもとで、白髪の老人ジャック・フロストとスノーウルフの群れと戦っていた。
「ジャック・フロストに触ってはだめよ! エリオットに任せて!」
 猛吹雪で視界も悪い中、四人は魔物相手に戦っていた。
 エリオットは炎の魔法を連発して、ジャック・フロストの魔法を無効化させ、肉薄して切りつけて倒す。スノーウルフもベルハルドのランスとウィスの短剣でほぼ駆逐しようとしていた。ベルハルドの一突きで最後のスノーウルフは、ただの肉塊と化した。
 ジャック・フロストを切りつけた右腕に凍傷を負ったエリオットはカルナが回復させていた。
「ごめんなさい、私だけ戦いに参加できなくて」
「いや、傷を癒してくれるだけでもカルナの存在は大切だよ」
 ジャック・フロストに負った凍傷も、血の巡りがよくなり回復していく。エリオットは右手を握ったり開いたりした。
「うん、もう大丈夫。あそこが多分コルデの町だろう。一休みして情報を得よう」
 猛吹雪の中、チラチラと木製の家が立ち並ぶ町が見える。

 その猛吹雪の中、トラステリアは凍えながら今後の展開を考えていた。
 私たちが魔物を送り出すのはここまで、あとは問題の巨人。勇者の承認欲求が満たされなかった時の、今回の厄災の規模は計り知れないわ。あの皇帝、自国に被害が及んだら、一体どうするのかしら。

 暖炉の温もりを身に沁みながら、エリオットたちはコルデ町の長老の話を聞いていた。
「わしが若い頃は、普通に巨人がおった。皆と協力しこの町の家を建てるのも手伝ってくれた。だが帝国が力をつけてきてからというもの、巨人たちは姿を眩ましてしまった。どこにいるかは分からん。昔みたいに、また巨人たちと遊びたいとは思うがな」
「どの辺りに住んでいたとか分かりますか?」
「この町から山頂へ向かう中腹に住んでいた。今行っても何もない」
 カルナとウィスも寒さに震え、暖炉につきっきりになっている。
「寒いって大変ね」
 エリオットの肩に止まっているケイトが三人を見ながら呟く。

 コルデ町で一泊した後、エリオットたちは長老が話していた場所へと向かった。
 雪は止み、鈍色の雲の隙間から陽の光が射している。
「良かった、天気が回復して」
 ドグマスからは無理難題を言われたものの、一行の雰囲気は明るい。
 当然のように魔物と会うことなく、中腹近くの開けた場所に来た。
「長老の話では、この辺りなのだけど、やっぱり何もないな」
 ベルハルドの呟きに、エリオットは前向きに返す。
「魔物もいないようですし、二手に分かれて探しましょう」

 エリオットはカルナと共に近くの森の中を探索した。ウィスから言われていたように木に目印をつけながら一時間程進む。すると突然、肩に乗っていたケイトが声を出した。
「あ、あそこ、幻術がかけられているわ!」
 彼女が指さした方向には森しかない。
「幻術?」
「うん、私の故郷と同じようなもの。私の指さす方向にまっすぐ進んで」
 エリオットたちは言われた通り、彼女が指さす大木に向かって進む。
「ぶつかるぞ」
「いいから。大丈夫!」
 エリオットは躊躇しながら、ゆっくりとその大木に触れた。すると手は幹を貫通し、向こうに別の空間があることが分かった。そのまま体ごと幹にぶつかる。抜けたそこには村が広がっていた。雪を被った家々はとてつもなく大きく、見渡すだけで数人の巨人が闊歩している。近くにいた毛皮を纏った巨人が、唖然としているエリオットたちに気づき近寄ってくる。
 その巨人は、ゆうに六メートルはあろう高さだった。股下の高さだけでもエリオットたちの身長を超えている。
 カルナはエリオットの背後に隠れ、その様子を覗っている。
「やぁ、久しぶりに人間を見たな」
 低く腹に響く声で、その巨人は話しかけた。
 長老から、巨人の優しさについて聞かされていたエリオットは怯むことなく、その巨人に聞いた。
「ここに身を潜めていたのですね」
 その巨人は笑顔を向ける。
「ああ、君は私たちに危害を加えないようだね。道に迷ったのかな?」
「いえ、私たちは、あなたたちを探していました」
「そうか、何故だね」
「それは……」
 巨人の優しい振る舞いに、首を持ってこい、とは言えないエリオットは黙ってしまう。
「何か理由があるようだ、長老に会うかい?」
「はい、色々とお話ししたいことがあるので、ぜひ」
「では、案内しよう。ヨトゥンヘイムへようこそ」
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