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エルサント共和国の実状
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馬車の荷台に、やたら重たい勇者の盾を乗せ、二日かけてエルサント共和国との国境に着いた。ブランノールで聞いた情報通り、関所は閉じられたままだ。四人と馬車は石造りの関所を前に立ち止まる。
「通してくれるのかしら」
「こうしている間にも魔王が世界を侵略し始めるかもしれないというのに」
それはないだろう、とベルハルドは口の中で呟きながらも、馬車が二台ほど通れる木製の門に近寄り数回叩き声を上げる。
「すいません、エルサントに用があるのですが!」
何度か声をかけると、ようやく門が開き、一人の衛兵が顔を出した。
「申し訳ありません、今、国内は騒乱としてまして通行できないのですよ」
「これでも駄目ですか?」
ベルハルドはエリオットから受け取ったビルダーナの許可証を見せた。
「これは……」
衛兵はしばらく不思議な物を見るような目で見ていたが、何かを思い出したのか、ハッとした顔で「少々お待ちを」と言って中に入っていった。
勇者の話は伝わっているはずだがな……。
三分ほどして先ほどの衛兵が戻ってきて顔を出す。
「お待たせしました。馬車は通れませんので外に留めてもらって、皆さん中へどうぞ」
馬の手綱を握ったエリオットは近くの木に馬車を留め、四人は門の中へと入っていった。門は二重になっていて中は蝋燭の灯りが二つしかなく暗い。門と門の間に扉が左右に一つずつあり、左側の扉に案内された。中は意外と広く、庶務をするための部屋がいくつかあった。その中の一室に四人は通された。
割と広いその部屋には大きめの机があり、床には何人かの衛兵が仮眠をとっている。その机の椅子に杖を立てかけた老人が座っていた。
「初めまして、お待ちしておりました勇者殿。私はこの国の議員の一人、アドーラ・ナザ・ロノワと申します。ロノワとお呼びください」
「初めましてロノワ殿、私はエリオットと申します。こちらはベルハルド、ウィス、カルナです」
紹介された三人は小さく会釈した。
「私は?」とケイトが呟くもエリオットは話を続けた。
「この国では魔物が跋扈していると聞きましたが」
「ええ、一定数の魔物はいたのですが、ある時期、魔物を生み出す魔物が現れまして、生み出された魔物が森や平原、街道を埋め尽くし、国の経済が停滞してしまったのです。最初は我が軍勢が抑え込んでいたのですが、彼らの増殖力が勝りブランノールとの関所を封じなくてはいけない事態にまでなりました」
「魔物の数は大体どれぐらいですか?」
「最低でも二千五百、大きく見積もって四千ぐらいに達していると思われます」
「エリオット、そいつが魔王か?」
「いいや、分かりません。今の段階では、そこまで強くはないような気がします。こっちの兵力はどれぐらいですか?」
「この関所に動ける者は三十六人、首都に百人ほど残っていると思います。各都市は分かりません」
「街や村も閉鎖されているんですよね」エリオットは地図を広げる。「地図に載っているだけで首都と六つの街か……」「その内、一つの街が陥落しました。首都の手前の都市ライナスです。そこに魔物を生み出す魔物バスティロが、まだいると思われます」
「首都の手前ですね。ウィス、どのような魔物か分かる?」
「本での知識しかないけど、かなりの知性があることだけは知っているわ。一日に生み出す魔物は十から十五体ぐらいだったと思う」
「それならば、首都を狙っているかもしれませんね。こちらから見たら、バスティロを背後から叩くことが出来るかもしれません。ポーションの在庫はどれぐらいありますか?」
「先日、ブランノールから送られてきた分で百五十ぐらいです。ここの食料はブランノールから仕入れてますので十分かと」
「これは持久戦だな」ベルハルドが呟く。
「ベルハルドさん、兵法には詳しいですよね」
「ああ、こう見えても王宮騎士団だからな」
「良い策があったら教えて欲しいのですが」
珍しくエリオットが教えを乞う姿勢に、他の国が厄災に巻き込まれてないかベルハルドは不安になった。
「そうだな、個々の戦力が分からないから今、断定は出来ないが、一兵卒は四人一組でお互いの背後を守るように戦う事。街道を先につないで、補給の道筋を作ること。森や平原の魔物は後回しだ。そしてそのバスティロ討滅を最優先だな。こちらに体力があるうちか、他の街で戦力を増強してから退路を断って一気に討滅する。そして首都まで物の流れを作ろう。カルナ、ブランノールから魔導士を派遣してもらえないかな?」
「おそらく無理でしょう。魔導士は、ほんの一握りしかいません。彼らが政を担っていますので、表立って戦いに参戦することはないと思います」
「そうか……」ベルハルドは顎に手を置いて考える。「とりあえずエリオット、勇者の力の見せ所だ。気合入れていくぞ」
「はいっ!」
「通してくれるのかしら」
「こうしている間にも魔王が世界を侵略し始めるかもしれないというのに」
それはないだろう、とベルハルドは口の中で呟きながらも、馬車が二台ほど通れる木製の門に近寄り数回叩き声を上げる。
「すいません、エルサントに用があるのですが!」
何度か声をかけると、ようやく門が開き、一人の衛兵が顔を出した。
「申し訳ありません、今、国内は騒乱としてまして通行できないのですよ」
「これでも駄目ですか?」
ベルハルドはエリオットから受け取ったビルダーナの許可証を見せた。
「これは……」
衛兵はしばらく不思議な物を見るような目で見ていたが、何かを思い出したのか、ハッとした顔で「少々お待ちを」と言って中に入っていった。
勇者の話は伝わっているはずだがな……。
三分ほどして先ほどの衛兵が戻ってきて顔を出す。
「お待たせしました。馬車は通れませんので外に留めてもらって、皆さん中へどうぞ」
馬の手綱を握ったエリオットは近くの木に馬車を留め、四人は門の中へと入っていった。門は二重になっていて中は蝋燭の灯りが二つしかなく暗い。門と門の間に扉が左右に一つずつあり、左側の扉に案内された。中は意外と広く、庶務をするための部屋がいくつかあった。その中の一室に四人は通された。
割と広いその部屋には大きめの机があり、床には何人かの衛兵が仮眠をとっている。その机の椅子に杖を立てかけた老人が座っていた。
「初めまして、お待ちしておりました勇者殿。私はこの国の議員の一人、アドーラ・ナザ・ロノワと申します。ロノワとお呼びください」
「初めましてロノワ殿、私はエリオットと申します。こちらはベルハルド、ウィス、カルナです」
紹介された三人は小さく会釈した。
「私は?」とケイトが呟くもエリオットは話を続けた。
「この国では魔物が跋扈していると聞きましたが」
「ええ、一定数の魔物はいたのですが、ある時期、魔物を生み出す魔物が現れまして、生み出された魔物が森や平原、街道を埋め尽くし、国の経済が停滞してしまったのです。最初は我が軍勢が抑え込んでいたのですが、彼らの増殖力が勝りブランノールとの関所を封じなくてはいけない事態にまでなりました」
「魔物の数は大体どれぐらいですか?」
「最低でも二千五百、大きく見積もって四千ぐらいに達していると思われます」
「エリオット、そいつが魔王か?」
「いいや、分かりません。今の段階では、そこまで強くはないような気がします。こっちの兵力はどれぐらいですか?」
「この関所に動ける者は三十六人、首都に百人ほど残っていると思います。各都市は分かりません」
「街や村も閉鎖されているんですよね」エリオットは地図を広げる。「地図に載っているだけで首都と六つの街か……」「その内、一つの街が陥落しました。首都の手前の都市ライナスです。そこに魔物を生み出す魔物バスティロが、まだいると思われます」
「首都の手前ですね。ウィス、どのような魔物か分かる?」
「本での知識しかないけど、かなりの知性があることだけは知っているわ。一日に生み出す魔物は十から十五体ぐらいだったと思う」
「それならば、首都を狙っているかもしれませんね。こちらから見たら、バスティロを背後から叩くことが出来るかもしれません。ポーションの在庫はどれぐらいありますか?」
「先日、ブランノールから送られてきた分で百五十ぐらいです。ここの食料はブランノールから仕入れてますので十分かと」
「これは持久戦だな」ベルハルドが呟く。
「ベルハルドさん、兵法には詳しいですよね」
「ああ、こう見えても王宮騎士団だからな」
「良い策があったら教えて欲しいのですが」
珍しくエリオットが教えを乞う姿勢に、他の国が厄災に巻き込まれてないかベルハルドは不安になった。
「そうだな、個々の戦力が分からないから今、断定は出来ないが、一兵卒は四人一組でお互いの背後を守るように戦う事。街道を先につないで、補給の道筋を作ること。森や平原の魔物は後回しだ。そしてそのバスティロ討滅を最優先だな。こちらに体力があるうちか、他の街で戦力を増強してから退路を断って一気に討滅する。そして首都まで物の流れを作ろう。カルナ、ブランノールから魔導士を派遣してもらえないかな?」
「おそらく無理でしょう。魔導士は、ほんの一握りしかいません。彼らが政を担っていますので、表立って戦いに参戦することはないと思います」
「そうか……」ベルハルドは顎に手を置いて考える。「とりあえずエリオット、勇者の力の見せ所だ。気合入れていくぞ」
「はいっ!」
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