勇者が来る!!

北丘 淳士

文字の大きさ
上 下
42 / 67

バルザナ墓地攻略

しおりを挟む
 勇者一行は、低級の魔物を打倒しながら二日かけてカナティーニに着いた。 
「こんなに弱い魔物と戦っていたら、腕が鈍りそうだな」
 戦いの最中、エリオットは悪態をつく。
 辿り着いたそこは人口三百人程度の村だった。カルナが先頭に立って歩き、時折村人とも会話しながら、その中でも割と大きな木造の家に辿り着く。
「ここが母の家です」
 カルナが扉への階段を上る時、ちょうど扉から一人、法衣を来た男性が出てきた。
「あっ、お母さんの治療をされている方ですか?」
「うん? ああ、ディエロさんの娘さんかい?」
「はい、そうです。母の具合はどうでしょう」
「うーん、それが、今はその……」
 どうも歯切れの悪い答えが返ってきた。
「私にも診せて下さい」
「いや、それは止めた方が良い」
「何でですか? 私はもう回復魔法の中級者ですよ」
「いや、身内だから見せられないんだ。二日前から容体が悪化してしまって……」
「そんな……」
 悲嘆の声を漏らしたカルナは、その場にへたり込んだ。

 村に唯一の宿屋で一行は食事をしていた。ウィスやベルハルドはカルナに気を使って酒は飲んでいない。父の存在も気になるところだったが聞けずじまいだった。
 一向に匙(さじ)が進まないカルナの前にケイトが降り立つ。
「まあまあ、そんなに気を落とさないでよカルナ。中級魔導士が四人もついているんでしょ」
「うん……、それはそうなんだけど」
「ねえねえ、カルナのマナも味合わせて頂戴!」
 ケイトはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねながらせがむ。その姿にカルナは小さな笑みを溢した。カルナはケイトに指を差し出しマナを放出する。ケイトはカルナの指に頬ずりした。
「うん、カルナのも優しい味。きっとエリオットと同じで心が奇麗なのね」
 励ましてくれているのだろう、とカルナは思った。
 その時、宿屋の扉が勢いよく開いた。
「やっぱりいた、カルナちゃん。久しぶりじゃないか」
 宿屋の女将だった。買い物から戻ったようで、手に下げた籠から色とりどりの野菜が見える。
「お母さん大変そうだね、出入りしている魔導士から色々聞いているよ」
「おばさん! ……そうなんです、かなり容体が悪いようで」
「まだ原因は分からないのかい?」
 食堂のテーブルの上に、重そうに籠を置く。
「はい、今の状態をまだ見ていないので分かりません」
「もとから体調が良くなかったもんねぇ」女将は椅子を引いて腰かけ話しだす。「ラティスさんは深夜に墓場で儀式を始めた頃から、どんどん悪化していったのよ。それが原因じゃないかねぇ」
「お母さん、そんなことをしてたんですか!?」
「カルナ、それってバルザナ墓地の事なんじゃないか?」
 エリオットが問う。
「え……、ええ。この辺りの墓地といえば、バルザナ墓地しかありません」
「そこに原因があるんだよ。今夜、魔物の討伐に行こう!」
「うん。魔物の事はよく分らんが、その可能性はあるな」
「じゃあ、少し仮眠して、深夜そのバルザナ墓地に向かいましょう」
 皆が皆、気持ちを盛り上げてくれる。カルナは一人ではない事に今更気付いた。気持ちが少し上を向く。
「分かりました、ありがとうございます」

 宿屋で仮眠を取った四人は深夜、宿屋を出た。あと数時間で夜が明ける頃だ。辺りは光源も無く月とケイトの光だけが道しるべだった。
「夜は魔物が現れると危険だから出るな、と父さんから言われていたけど、やっぱり不気味だな」
「ホント、私の目もあまり役に立たないし、この状態で襲われたら厄介だわ」
 その頃、トラステリアは馬車の中で毛布にくるまり、寝息を立てていた。
「でも、バルザナ墓地って村の郊外なんだろ。魔物なんて出やしないさ」
 理由を知っているベルハルドは皆を勇気づける。宿屋を出てものの十分ほどでバルザナ墓地へ着いた。
「ホントに出てきそうな雰囲気ね……」
「ウィス、こんなの怖かったのか?」
「ば、バカね。幽霊なんて出ないわよ」 
 カルナはポケットから昼間村長から借りた鍵で鉄製の扉を開けた。小さな村の墓地は土葬の為か意外と広い。一行は恐る恐る足を踏み入れた。腰ほどの高さの墓石が綺麗に並ぶ様は不気味だった。奥の森では夜行性の鳥の声が響く。その声は人間界と自然界を隔てる拒否の声のようにも聞こえた。
 ウィスは矢筈を弓にかけ、臨戦態勢に入っている。
「ケイト、もうちょっと光を強くすることが出来るか」
「出来るわ、ちょっと待ってね」
 ケイトが発する光が強さを増した時、ウィスは墓石の向こうで何かが動くのを発見した。
「いやーーっ!!」
 ウィスから矢が放たれる。その矢は動く何かの頭部に当たった。
「バカ、ウィス! 人だったらどうするんだ!!」
 だが、その矢が刺さった人影は動きを止めない。
「どうやらリビングデッドのようです。それにゴーストにレイス、ワイト! ワイトは危険です。絶対に触れられないようにしてください!」
 気が付けば周りを死霊系の魔物に囲まれていた。頭に矢が刺さったままのリビングデッドは硬直した体を引きずりながら、徐々に近づいてくる。
「どうする、カルナ!」
「私が覚えたての魔法で周囲全域を浄化させます。それまで時間を稼いで下さい!」
「分かった、時間稼ぎをすればいいんだな!」
 ベルハルドは盾を前面に出し、リビングデッドやワイトを押し倒す。
 エリオットがゴーストに剣で切りつけるも、その刃は貫通し、エリオットを襲おうとする。すかさず風の魔法でゴーストを遠くに弾き飛ばす。
 ウィスは悲鳴を上げながら、矢を連射していた。
「もう少しです、耐えて下さい!」
 カルナが掲げるメイスの聖石に淡い緑色の光が集まる。
 二十体ほどの魔物の群れに少しずつ圧されながら、三人はカルナを守っていた。
「いきます!」
 光が十分に溜まったメイスを天高く掲げ、マナの大半を注ぎ込んだ。メイスから放たれた緑色の雷が辺りのアンデットを追尾する。放たれた雷は、すべてのアンデットを捉え、撃たれたそれらは跡形もなく浄化された。
「成功……、です」
 カルナはメイスを杖代わりに、息も絶え絶えだった。疲労を隠せないカルナにエリオットは駆け寄った。
「よくやった、カルナ。すごいよ。はい、ポーションを飲んで」
 ポケットから取り出したポーションの蓋を開け、カルナに差し出す。カルナはそれを一気に飲み干した。
「お母さんの病の理由が分かった気がします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

聖十字騎士学院の異端児〜学園でただ1人の男の俺は個性豊かな女子達に迫られながらも、世界最強の聖剣を駆使して成り上がる〜

R666
ファンタジー
日本で平凡な高校生活を送っていた一人の少年は駅のホームでいつも通りに電車を待っていると、突如として背中を何者かに突き飛ばされ線路上に放り出されてしまい、迫り来ていた電車に轢かれて呆気なく死んでしまう。 しかし彼の人生はそこで終わることなく次に目を覚ますと、そこは聖剣と呼ばれる女性にしか扱えない武器と魔法が存在する異世界であった。 そこで主人公の【ハヤト・Ⅵ・オウエンズ】は男性でありながら何故か聖剣を引き抜く事が出来ると、有無を言わさずに姉の【サクヤ・M・オウエンズ】から聖十字騎士学院という聖剣の扱い方を学ぶ場所へと入学を言い渡される。 ――そしてハヤトは女性しかいない学院で個性豊かな女子達と多忙な毎日を送り、そこで聖剣を駆使して女尊男卑の世界で成り上がることを決める――

処理中です...