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教皇
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アスラ運河を越えて四日でブランノール首都サンナリアへと着いた。
首都の門は荘厳だったが、門をくぐった先の民家と思しき建物は木造が多く、その街を進むと厳とした宮殿が見えてきた。宮殿の門番と思しき女性にビルダーナの許可証を見せると、話が伝わっていたのか、すんなりと通された。それと同時にエリオットの肩に乗ったケイトにも目線が向けられるが、彼女は表情を戻し華美な宮殿内を案内される。
「城下町とかなり違うな」
「ええ、この国の政は魔法が使える者が取り仕切っています。宮殿の周りに住んでいる国民は主に土木関係の職人や、それを相手に生業としている商人がほとんどです。後は首都の外に住んでいる農民ですね」
「そうか……」
そんな世界もあるんだな。
エリオットの頭の中では、まだ世界を知らないため、それぐらいの解釈しか出来なかった。
「こちらになります」
扉を開き中に入ると、そこはいくつもの太い柱で支えられた開けた場所だった。あまりの豪華さにカルナ以外の三人は目を瞠る。
「すごいな」ベルハルドからも言葉が漏れた。
「まもなく教皇様がお見えになられますので、中央階段下でお待ちください」
「こっちです」
呆然としていた三人をカルナが誘導する。そして七段の階段下で四人は立ったまま待っていた。その壇上に姿を現したのは初老の女性ではなく青白い法衣に身を包んだクラーレだった。
「クラーレ先生!」
「クラーレさん」
「お義姉さん!」
「お久しぶり、エリオット君、ウィスちゃん。いや、エリオットさん、ウィスさんの方が良いかしら」
「知り合いか?」
「はい、僕やウィスに魔法や勉強を教えて下さった先生です。先生、お久しぶりです」
エリオットとウィスは頭を下げた。
「そんなに畏まらなくてもいいわ。あの時のように普通に話しましょう」
そう言って階段の手摺を伝い、下に降りてきた。
「お義姉さん、なんで教皇様の法衣を?」
「二ヶ月前に次期教皇として選出されたのよ。ちょうど貴方がビルダーナに出向いた後ね」
「そう、だったの……」
カルナはそのまま下を向き押し黙ってしまった。
「エリオットさん」
「エリオットでいいよ先生」
「では、エリオット、大きくなりましたね。それに肩にいるのは妖精ですか?」
「ええ、途中で助けたら付いてきました。それに大きくなるのは当たり前ですよ。だって二年だもん、先生が国に戻ってから」
「魔法の練習はしてきましたか?」
「もちろんです」
エリオットは人差し指を立てて、五センチ程度の火柱を出した。かつてクラーレがエリオットに見せた魔法だった。
「ウィスも立派な女性になりましたね」
「はい! クラーレさんに勉強を教わってなければ今頃、私は……」
ウィスの女性らしい姿を見て、クラーレは嫣然と微笑んだ。
「そして、そちらは」
「はい、ベルハルド・ガレーと申します。エリオットの父である、ラルフさんの弟子です」
「まあ、そうなんですか。あのラルフさんのお弟子さん」
「まだ未熟ではありますが、エリオットの保護者役をしております」
「さぞかし、剣技の熟練された方なのですね」
「もったいなき、お言葉」
「久しぶりの再会という事で、お茶でも飲みながら、お話ししましょう」
「ちょっと待ってよ、お義姉さん!!」静かな大広間で、カルナが珍しく声を荒げた。「お義姉さんはなんで、なんでお母さんが病気の時に傍にいてやらなかったの!? お母さんが原因不明の病であれだけ苦しんでいたのに!」
その言葉に他の三人は表情を強張らせた。それと同時に、エリオットが自分の修行のために叔母を放って自分のところに来た、という自責の念が降り始めた。
カルナの言葉に驚いた表情を見せたクラーレだったが、表情を緩め口を開く。
「その事についても話しましょう。さあ、四人ともついて来てください」
クラーレは階段を上っていく。ウィスもカルナの背中を押して促した。
階段を上がって左手に行くと扉が見えた。クラーレは扉を開く。
「円卓の好きな席に座っていて下さい。今お茶をお持ちしますから」
そこは二十畳程の広間だった。ガラス張りの大きな窓が四枚、部屋の隅に大きな机があり、そこがクラーレの机だとすぐに分かった。部屋の中央には七人掛けの円卓があり、天窓から陽の光が射している。四人が室内に入るとクラーレは扉を閉めた。室内には四人だけになる。
宮殿の様子から、骨董品の一つでもあるかと思いきや、かなり殺風景だった。絵の一つも飾られていない。
「とりあえず、座って待とうか」
ベルハルドが促し、四人は円卓に座った。
肩から降りたケイトがテーブルにだらしなく座る。
「ここの人たちって私の事が見えているの?」
「ああ、多分建物にいる人はみんな見えてる」
「でも、さっきの人は何か別格って感じよね」
「やっぱり分かるのか?」
「エリオットとはまた違った、澄んだ感じがする。どんな味なのかしら」
「マナにも味ってあるんだ……」
その時ドアがノックされ、ワゴンを押す女性を引き連れ、クラーレが入ってきた。
テーブルに座っていたケイトは素早く飛び上がり、エリオットの肩に戻る。
「お待たせしました。お茶をどうぞ」
首都の門は荘厳だったが、門をくぐった先の民家と思しき建物は木造が多く、その街を進むと厳とした宮殿が見えてきた。宮殿の門番と思しき女性にビルダーナの許可証を見せると、話が伝わっていたのか、すんなりと通された。それと同時にエリオットの肩に乗ったケイトにも目線が向けられるが、彼女は表情を戻し華美な宮殿内を案内される。
「城下町とかなり違うな」
「ええ、この国の政は魔法が使える者が取り仕切っています。宮殿の周りに住んでいる国民は主に土木関係の職人や、それを相手に生業としている商人がほとんどです。後は首都の外に住んでいる農民ですね」
「そうか……」
そんな世界もあるんだな。
エリオットの頭の中では、まだ世界を知らないため、それぐらいの解釈しか出来なかった。
「こちらになります」
扉を開き中に入ると、そこはいくつもの太い柱で支えられた開けた場所だった。あまりの豪華さにカルナ以外の三人は目を瞠る。
「すごいな」ベルハルドからも言葉が漏れた。
「まもなく教皇様がお見えになられますので、中央階段下でお待ちください」
「こっちです」
呆然としていた三人をカルナが誘導する。そして七段の階段下で四人は立ったまま待っていた。その壇上に姿を現したのは初老の女性ではなく青白い法衣に身を包んだクラーレだった。
「クラーレ先生!」
「クラーレさん」
「お義姉さん!」
「お久しぶり、エリオット君、ウィスちゃん。いや、エリオットさん、ウィスさんの方が良いかしら」
「知り合いか?」
「はい、僕やウィスに魔法や勉強を教えて下さった先生です。先生、お久しぶりです」
エリオットとウィスは頭を下げた。
「そんなに畏まらなくてもいいわ。あの時のように普通に話しましょう」
そう言って階段の手摺を伝い、下に降りてきた。
「お義姉さん、なんで教皇様の法衣を?」
「二ヶ月前に次期教皇として選出されたのよ。ちょうど貴方がビルダーナに出向いた後ね」
「そう、だったの……」
カルナはそのまま下を向き押し黙ってしまった。
「エリオットさん」
「エリオットでいいよ先生」
「では、エリオット、大きくなりましたね。それに肩にいるのは妖精ですか?」
「ええ、途中で助けたら付いてきました。それに大きくなるのは当たり前ですよ。だって二年だもん、先生が国に戻ってから」
「魔法の練習はしてきましたか?」
「もちろんです」
エリオットは人差し指を立てて、五センチ程度の火柱を出した。かつてクラーレがエリオットに見せた魔法だった。
「ウィスも立派な女性になりましたね」
「はい! クラーレさんに勉強を教わってなければ今頃、私は……」
ウィスの女性らしい姿を見て、クラーレは嫣然と微笑んだ。
「そして、そちらは」
「はい、ベルハルド・ガレーと申します。エリオットの父である、ラルフさんの弟子です」
「まあ、そうなんですか。あのラルフさんのお弟子さん」
「まだ未熟ではありますが、エリオットの保護者役をしております」
「さぞかし、剣技の熟練された方なのですね」
「もったいなき、お言葉」
「久しぶりの再会という事で、お茶でも飲みながら、お話ししましょう」
「ちょっと待ってよ、お義姉さん!!」静かな大広間で、カルナが珍しく声を荒げた。「お義姉さんはなんで、なんでお母さんが病気の時に傍にいてやらなかったの!? お母さんが原因不明の病であれだけ苦しんでいたのに!」
その言葉に他の三人は表情を強張らせた。それと同時に、エリオットが自分の修行のために叔母を放って自分のところに来た、という自責の念が降り始めた。
カルナの言葉に驚いた表情を見せたクラーレだったが、表情を緩め口を開く。
「その事についても話しましょう。さあ、四人ともついて来てください」
クラーレは階段を上っていく。ウィスもカルナの背中を押して促した。
階段を上がって左手に行くと扉が見えた。クラーレは扉を開く。
「円卓の好きな席に座っていて下さい。今お茶をお持ちしますから」
そこは二十畳程の広間だった。ガラス張りの大きな窓が四枚、部屋の隅に大きな机があり、そこがクラーレの机だとすぐに分かった。部屋の中央には七人掛けの円卓があり、天窓から陽の光が射している。四人が室内に入るとクラーレは扉を閉めた。室内には四人だけになる。
宮殿の様子から、骨董品の一つでもあるかと思いきや、かなり殺風景だった。絵の一つも飾られていない。
「とりあえず、座って待とうか」
ベルハルドが促し、四人は円卓に座った。
肩から降りたケイトがテーブルにだらしなく座る。
「ここの人たちって私の事が見えているの?」
「ああ、多分建物にいる人はみんな見えてる」
「でも、さっきの人は何か別格って感じよね」
「やっぱり分かるのか?」
「エリオットとはまた違った、澄んだ感じがする。どんな味なのかしら」
「マナにも味ってあるんだ……」
その時ドアがノックされ、ワゴンを押す女性を引き連れ、クラーレが入ってきた。
テーブルに座っていたケイトは素早く飛び上がり、エリオットの肩に戻る。
「お待たせしました。お茶をどうぞ」
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