39 / 67
教皇
しおりを挟む
アスラ運河を越えて四日でブランノール首都サンナリアへと着いた。
首都の門は荘厳だったが、門をくぐった先の民家と思しき建物は木造が多く、その街を進むと厳とした宮殿が見えてきた。宮殿の門番と思しき女性にビルダーナの許可証を見せると、話が伝わっていたのか、すんなりと通された。それと同時にエリオットの肩に乗ったケイトにも目線が向けられるが、彼女は表情を戻し華美な宮殿内を案内される。
「城下町とかなり違うな」
「ええ、この国の政は魔法が使える者が取り仕切っています。宮殿の周りに住んでいる国民は主に土木関係の職人や、それを相手に生業としている商人がほとんどです。後は首都の外に住んでいる農民ですね」
「そうか……」
そんな世界もあるんだな。
エリオットの頭の中では、まだ世界を知らないため、それぐらいの解釈しか出来なかった。
「こちらになります」
扉を開き中に入ると、そこはいくつもの太い柱で支えられた開けた場所だった。あまりの豪華さにカルナ以外の三人は目を瞠る。
「すごいな」ベルハルドからも言葉が漏れた。
「まもなく教皇様がお見えになられますので、中央階段下でお待ちください」
「こっちです」
呆然としていた三人をカルナが誘導する。そして七段の階段下で四人は立ったまま待っていた。その壇上に姿を現したのは初老の女性ではなく青白い法衣に身を包んだクラーレだった。
「クラーレ先生!」
「クラーレさん」
「お義姉さん!」
「お久しぶり、エリオット君、ウィスちゃん。いや、エリオットさん、ウィスさんの方が良いかしら」
「知り合いか?」
「はい、僕やウィスに魔法や勉強を教えて下さった先生です。先生、お久しぶりです」
エリオットとウィスは頭を下げた。
「そんなに畏まらなくてもいいわ。あの時のように普通に話しましょう」
そう言って階段の手摺を伝い、下に降りてきた。
「お義姉さん、なんで教皇様の法衣を?」
「二ヶ月前に次期教皇として選出されたのよ。ちょうど貴方がビルダーナに出向いた後ね」
「そう、だったの……」
カルナはそのまま下を向き押し黙ってしまった。
「エリオットさん」
「エリオットでいいよ先生」
「では、エリオット、大きくなりましたね。それに肩にいるのは妖精ですか?」
「ええ、途中で助けたら付いてきました。それに大きくなるのは当たり前ですよ。だって二年だもん、先生が国に戻ってから」
「魔法の練習はしてきましたか?」
「もちろんです」
エリオットは人差し指を立てて、五センチ程度の火柱を出した。かつてクラーレがエリオットに見せた魔法だった。
「ウィスも立派な女性になりましたね」
「はい! クラーレさんに勉強を教わってなければ今頃、私は……」
ウィスの女性らしい姿を見て、クラーレは嫣然と微笑んだ。
「そして、そちらは」
「はい、ベルハルド・ガレーと申します。エリオットの父である、ラルフさんの弟子です」
「まあ、そうなんですか。あのラルフさんのお弟子さん」
「まだ未熟ではありますが、エリオットの保護者役をしております」
「さぞかし、剣技の熟練された方なのですね」
「もったいなき、お言葉」
「久しぶりの再会という事で、お茶でも飲みながら、お話ししましょう」
「ちょっと待ってよ、お義姉さん!!」静かな大広間で、カルナが珍しく声を荒げた。「お義姉さんはなんで、なんでお母さんが病気の時に傍にいてやらなかったの!? お母さんが原因不明の病であれだけ苦しんでいたのに!」
その言葉に他の三人は表情を強張らせた。それと同時に、エリオットが自分の修行のために叔母を放って自分のところに来た、という自責の念が降り始めた。
カルナの言葉に驚いた表情を見せたクラーレだったが、表情を緩め口を開く。
「その事についても話しましょう。さあ、四人ともついて来てください」
クラーレは階段を上っていく。ウィスもカルナの背中を押して促した。
階段を上がって左手に行くと扉が見えた。クラーレは扉を開く。
「円卓の好きな席に座っていて下さい。今お茶をお持ちしますから」
そこは二十畳程の広間だった。ガラス張りの大きな窓が四枚、部屋の隅に大きな机があり、そこがクラーレの机だとすぐに分かった。部屋の中央には七人掛けの円卓があり、天窓から陽の光が射している。四人が室内に入るとクラーレは扉を閉めた。室内には四人だけになる。
宮殿の様子から、骨董品の一つでもあるかと思いきや、かなり殺風景だった。絵の一つも飾られていない。
「とりあえず、座って待とうか」
ベルハルドが促し、四人は円卓に座った。
肩から降りたケイトがテーブルにだらしなく座る。
「ここの人たちって私の事が見えているの?」
「ああ、多分建物にいる人はみんな見えてる」
「でも、さっきの人は何か別格って感じよね」
「やっぱり分かるのか?」
「エリオットとはまた違った、澄んだ感じがする。どんな味なのかしら」
「マナにも味ってあるんだ……」
その時ドアがノックされ、ワゴンを押す女性を引き連れ、クラーレが入ってきた。
テーブルに座っていたケイトは素早く飛び上がり、エリオットの肩に戻る。
「お待たせしました。お茶をどうぞ」
首都の門は荘厳だったが、門をくぐった先の民家と思しき建物は木造が多く、その街を進むと厳とした宮殿が見えてきた。宮殿の門番と思しき女性にビルダーナの許可証を見せると、話が伝わっていたのか、すんなりと通された。それと同時にエリオットの肩に乗ったケイトにも目線が向けられるが、彼女は表情を戻し華美な宮殿内を案内される。
「城下町とかなり違うな」
「ええ、この国の政は魔法が使える者が取り仕切っています。宮殿の周りに住んでいる国民は主に土木関係の職人や、それを相手に生業としている商人がほとんどです。後は首都の外に住んでいる農民ですね」
「そうか……」
そんな世界もあるんだな。
エリオットの頭の中では、まだ世界を知らないため、それぐらいの解釈しか出来なかった。
「こちらになります」
扉を開き中に入ると、そこはいくつもの太い柱で支えられた開けた場所だった。あまりの豪華さにカルナ以外の三人は目を瞠る。
「すごいな」ベルハルドからも言葉が漏れた。
「まもなく教皇様がお見えになられますので、中央階段下でお待ちください」
「こっちです」
呆然としていた三人をカルナが誘導する。そして七段の階段下で四人は立ったまま待っていた。その壇上に姿を現したのは初老の女性ではなく青白い法衣に身を包んだクラーレだった。
「クラーレ先生!」
「クラーレさん」
「お義姉さん!」
「お久しぶり、エリオット君、ウィスちゃん。いや、エリオットさん、ウィスさんの方が良いかしら」
「知り合いか?」
「はい、僕やウィスに魔法や勉強を教えて下さった先生です。先生、お久しぶりです」
エリオットとウィスは頭を下げた。
「そんなに畏まらなくてもいいわ。あの時のように普通に話しましょう」
そう言って階段の手摺を伝い、下に降りてきた。
「お義姉さん、なんで教皇様の法衣を?」
「二ヶ月前に次期教皇として選出されたのよ。ちょうど貴方がビルダーナに出向いた後ね」
「そう、だったの……」
カルナはそのまま下を向き押し黙ってしまった。
「エリオットさん」
「エリオットでいいよ先生」
「では、エリオット、大きくなりましたね。それに肩にいるのは妖精ですか?」
「ええ、途中で助けたら付いてきました。それに大きくなるのは当たり前ですよ。だって二年だもん、先生が国に戻ってから」
「魔法の練習はしてきましたか?」
「もちろんです」
エリオットは人差し指を立てて、五センチ程度の火柱を出した。かつてクラーレがエリオットに見せた魔法だった。
「ウィスも立派な女性になりましたね」
「はい! クラーレさんに勉強を教わってなければ今頃、私は……」
ウィスの女性らしい姿を見て、クラーレは嫣然と微笑んだ。
「そして、そちらは」
「はい、ベルハルド・ガレーと申します。エリオットの父である、ラルフさんの弟子です」
「まあ、そうなんですか。あのラルフさんのお弟子さん」
「まだ未熟ではありますが、エリオットの保護者役をしております」
「さぞかし、剣技の熟練された方なのですね」
「もったいなき、お言葉」
「久しぶりの再会という事で、お茶でも飲みながら、お話ししましょう」
「ちょっと待ってよ、お義姉さん!!」静かな大広間で、カルナが珍しく声を荒げた。「お義姉さんはなんで、なんでお母さんが病気の時に傍にいてやらなかったの!? お母さんが原因不明の病であれだけ苦しんでいたのに!」
その言葉に他の三人は表情を強張らせた。それと同時に、エリオットが自分の修行のために叔母を放って自分のところに来た、という自責の念が降り始めた。
カルナの言葉に驚いた表情を見せたクラーレだったが、表情を緩め口を開く。
「その事についても話しましょう。さあ、四人ともついて来てください」
クラーレは階段を上っていく。ウィスもカルナの背中を押して促した。
階段を上がって左手に行くと扉が見えた。クラーレは扉を開く。
「円卓の好きな席に座っていて下さい。今お茶をお持ちしますから」
そこは二十畳程の広間だった。ガラス張りの大きな窓が四枚、部屋の隅に大きな机があり、そこがクラーレの机だとすぐに分かった。部屋の中央には七人掛けの円卓があり、天窓から陽の光が射している。四人が室内に入るとクラーレは扉を閉めた。室内には四人だけになる。
宮殿の様子から、骨董品の一つでもあるかと思いきや、かなり殺風景だった。絵の一つも飾られていない。
「とりあえず、座って待とうか」
ベルハルドが促し、四人は円卓に座った。
肩から降りたケイトがテーブルにだらしなく座る。
「ここの人たちって私の事が見えているの?」
「ああ、多分建物にいる人はみんな見えてる」
「でも、さっきの人は何か別格って感じよね」
「やっぱり分かるのか?」
「エリオットとはまた違った、澄んだ感じがする。どんな味なのかしら」
「マナにも味ってあるんだ……」
その時ドアがノックされ、ワゴンを押す女性を引き連れ、クラーレが入ってきた。
テーブルに座っていたケイトは素早く飛び上がり、エリオットの肩に戻る。
「お待たせしました。お茶をどうぞ」
2
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる