勇者が来る!!

北丘 淳士

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ブランノール法治国へ

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 アスラ運河を渡った先は、箒に乗った人々が飛び交い、土で出来たゴーレムがインフラ整備をしている……、国ではなかった。
 道路は整地されていたが、鋤や鍬で田畑を耕す人たちが手を休め、珍しい恰好をしたエリオットたちを見ていた。
 先代の勇者と共に魔王を倒した魔導士の末裔が、その力を引継ぎ、連綿と魔法を伝えてきた国だとカルナは道中で話していた。魔導士の血を引き継いだ子孫にのみ魔法を使えないのが常識だった。その中でやはり最初から魔法の素養があるエリオットは異質であった。
『勇者たちより後に出たので、先に宿屋を取って下さい』
 魔物を輸送しているトラステリアから無線でベルハルドたちに届く。
「今日はちょっと早いが、次の街で一泊しよう」
「えっ? もう一つぐらいいけませんかね」
「いいえ、エリオットさん。路銀もありますし、たまにはゆっくり行きましょう。私が美味しいお店、紹介しますよ」
「うーん、そうかぁ」
 エリオットとしては早くクラーレに会いたいという思いがあったが、周りの意見も取り入れなくてはいけないと思いとどまり、次の街で一泊することにした。

 ブランノールの飼育場に辿り着いたトラステリアだったが、その現状を見て絶句した。ゴブリンやメイジキャットなどの低レベルの魔物しかいなかったからだ。彼女は飼育場の責任者に詰め寄った。
「どうして、こんな低級の魔物しかいないのですか?」
「いや、それが……、強い魔物は、すでにこの国のエリート魔導士に駆逐されてまして……、これでも必死に集めて育てたのですよ」
「勇者たちはもう、相当実力をつけています。こんな雑魚じゃ承認欲求が満たされませんよ!」
「そんなこと言われましても……」
 初老の男性が妙齢の女性に説教される場面をシノビたちは見ていた。
「仕方ありません、これらの魔物は貰っていきます」
「は、はい、どうぞ」
 トラステリアは憤りながら全ての魔物を檻に押し込んだ。

「ああ、この味。地元に戻ってきたって感じがします」
 トラステリアの苦悩を余所に、郷土料理に舌鼓を打つカルナと、それを楽しむエリオットたちがいた。
「うん、上手い。料理好きなカルナが推薦するだけあるな」
「ホント、美味しいよカルナ」
 煮込み料理を口に運ぶエリオットも、匙(さじ)が止まらない。
「いつもカルナに料理を任せていたものね。私も作れるんだけどカルナ程じゃないし。私も教わろうかしら」
 そう言いながらウィスは、豪快に料理を口に運ぶエリオットを見ていた。
「ただ、食材は豊富にあるのですが、甘いものが圧倒的に少ないのです」
「どうして?」
「甘味料となるシガルがブランノールの気候では育たないのです。グレイズ王国とはアスラ運河で国交はそこまでもないですし、次のエルサント共和国とは検問所が厳しく、こちらも同じく物資の流通が盛んとは言えません」
 説明したカルナは、すでに食べ終わり、グレイズ王国で買い占めたお菓子を食べている。
「カルナ、持ち込みは基本お断りだぞ」
 ベルハルドは注意する。

 ブランノールの首都サンナリアに向かう道中、エリオットたちはトラステリアの送る魔物を倒しながら進んでいた。
「ブランノールの統治者って女性、だっけ!」
「はい、歴代教皇は女性がっ、選ばれています」
「何か理由でもあるの? よっと!」
「ええ、巫女的役割を、果たしてますので」
 いきなり低級の魔物になったため、魔物と戦いながら会話している。
「クラーレ先生が、どこに住んでいる、か、分かる?」
「いえ、義姉とは、しばらく離れて暮らしていました、ので分かりません」
「そう、か、会えるといいん、だけど!」
 結局、会話しながらレッドキャップやゴブリン、インプなどの小型悪魔を倒した。
「ふぅ、最初の頃に比べて、魔物を倒すのが楽になったな」
「経験がそうさせているんだ。もっと強い敵と戦うとどんどん応用が効いて強くなる」
「それにしても……」
 剣に付いた血を振って飛ばしたエリオットは、その剣をまじまじと見つめている。
「どうした?」
「いや、剣の切れ味が落ちてきたような気がして」
「私も鏃(やじり)が摩耗してきて、貫通力が弱くなってきた気がするわ。それに短剣も」
 ベルハルドはランスの先端を見た。
 たしかに先端の鋭さが無くなっている感じはしていた。
「教皇と会って、その後、武防具店で砥いでもらうか」
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