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探求者
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「グレイズはどうだった?」
「ビルダーナやブランノールから色々なものが入って来てて、良い国でした」
「そうだろう。あれは俺が十四の頃だった。ビルダーナの騎士団に入っていて、剣の腕を磨いていた時だ。グレイズから入ってきたというバレッツというお菓子を目にした。俺はすぐにそのバレッツに夢中になったんだ。あのふわふわともちもちの中間のようなもっと食べたいと思い、自分で作ろうと王立図書館に行ってレシピを探した。探すこと三日、ようやくバレッツのレシピを見つけたんだ。声を出して喜んだよ。図書館の職員に怒られたがな。ただ、バレッツを作るのにもグレイズに流通しているメガリノという香辛料が必要だったんだ。俺は一週間の休暇を貰い、馬に乗ってグレイズを目指した。魔物にも出会わなかったから二日でグレイズに入ることが出来た。その時はもう夕方だったので店は閉まっていて、一泊して買いに行くことにした。ただそこの宿屋でバレッツが出てきたんだ。俺は感動のあまり涙を流したよ。もう一つくれ、と店主に言ったが、数に限りがある、と言われて、再び俺は涙を流した。店主は呆れていたがな。悶々とした一夜を過ごした次の日、俺はメガリノを探し回ったが、どこにも売ってない。情報は間違いだったのか、と絶望に打ちひしがれたよ。それで香辛料売りの店主に問い詰めたんだ。余所者にはメガリノは売ってくれないのか、ってね。そしたらその店主は、こう答えたんだ。もうメガリノの旬は終わって、また来年になる、と。すなわち昨晩のバレッツが、その年最後のバレッツだったんだ。俺は泣いた。男泣きってやつだ。せっかく一週間も有休を貰ったのに、俺の調査不足で空振りに終わってしまったんだ。手ぶらで帰ってきた俺を見て、他の騎士団は爆笑していたよ。惨めだったな。だが俺は諦めなかった。時間がある時に徹底調査して翌年、再び有休を取ってグレイズに向かった。グレイズに着いてすぐバレッツを食べながらメガリノを探した。調査の芽が実を結んだのか、すぐにメガリノを手に入れることが出来た。メガリノがいっぱい入った袋を抱きしめてキスをしたよ。店員は呆れ顔だったがな。だがそんなことはどうでもいい。早速ビルダーナに戻って、残っている有休を使ってバレッツ作りに取り掛かった。だがレシピ通りに作っても上手くいかない。火力を変えたり時間を調整したりと試行錯誤を繰り返すも、あのもちもちふわふわ感が出ないんだ。味は合っていた。レシピは間違いないのだが、結局メガリノ全部を使い切ってしまった。おかしな話だろ。笑いたければ笑ってもいいんだぜ。そして俺は翌年、ビルダーナ騎士団を辞めた。バレッツ作りに集中するためだ。辞めた翌日、馬を走らせグレイズのバレッツ職人の下で働こうと赴いた。だが、バレッツを扱う店は姿を消し、代わりにカトレットというお菓子が流行していた。絶望の淵に追いやられたよ。だけど一昨年泊まった宿屋の料理人に会う事が出来て、頼み込んで作り方を教えてもらったんだ。僥倖だった。作ってみたらなんてことない、使う油の種類が違ったんだ。ビルダーナのレシピには油としか書いて無く、それがグレイズで使われている油と違ったんだな。わざわざ騎士団を辞めたのに、たったそれだけの事が見抜けなかった。だから君にも後悔しない生き方をして欲しい」
「はあ……」
「おい、エリオット、橋が架かるぞ」
「あ、はい。今行きます」
「頑張れよ青年」
エリオットはアスラ運河の畔で佇んでいたアナバス・バーランドと別れた。
「やけに長く話していたけど知り合いか?」
「いいや、全く知らない人です」
「知らない人に着いて行っちゃあ駄目だぞ」
「もう、そんな子供じゃありませんよ」
エリオットの肩にいたケイトも戻ってきた。
「やっと話が終わったのね。途中で飽きたから散歩行ってた」
四人は船が途絶えて可動式の橋が架けられたアスラ運河を渡った。
「ビルダーナやブランノールから色々なものが入って来てて、良い国でした」
「そうだろう。あれは俺が十四の頃だった。ビルダーナの騎士団に入っていて、剣の腕を磨いていた時だ。グレイズから入ってきたというバレッツというお菓子を目にした。俺はすぐにそのバレッツに夢中になったんだ。あのふわふわともちもちの中間のようなもっと食べたいと思い、自分で作ろうと王立図書館に行ってレシピを探した。探すこと三日、ようやくバレッツのレシピを見つけたんだ。声を出して喜んだよ。図書館の職員に怒られたがな。ただ、バレッツを作るのにもグレイズに流通しているメガリノという香辛料が必要だったんだ。俺は一週間の休暇を貰い、馬に乗ってグレイズを目指した。魔物にも出会わなかったから二日でグレイズに入ることが出来た。その時はもう夕方だったので店は閉まっていて、一泊して買いに行くことにした。ただそこの宿屋でバレッツが出てきたんだ。俺は感動のあまり涙を流したよ。もう一つくれ、と店主に言ったが、数に限りがある、と言われて、再び俺は涙を流した。店主は呆れていたがな。悶々とした一夜を過ごした次の日、俺はメガリノを探し回ったが、どこにも売ってない。情報は間違いだったのか、と絶望に打ちひしがれたよ。それで香辛料売りの店主に問い詰めたんだ。余所者にはメガリノは売ってくれないのか、ってね。そしたらその店主は、こう答えたんだ。もうメガリノの旬は終わって、また来年になる、と。すなわち昨晩のバレッツが、その年最後のバレッツだったんだ。俺は泣いた。男泣きってやつだ。せっかく一週間も有休を貰ったのに、俺の調査不足で空振りに終わってしまったんだ。手ぶらで帰ってきた俺を見て、他の騎士団は爆笑していたよ。惨めだったな。だが俺は諦めなかった。時間がある時に徹底調査して翌年、再び有休を取ってグレイズに向かった。グレイズに着いてすぐバレッツを食べながらメガリノを探した。調査の芽が実を結んだのか、すぐにメガリノを手に入れることが出来た。メガリノがいっぱい入った袋を抱きしめてキスをしたよ。店員は呆れ顔だったがな。だがそんなことはどうでもいい。早速ビルダーナに戻って、残っている有休を使ってバレッツ作りに取り掛かった。だがレシピ通りに作っても上手くいかない。火力を変えたり時間を調整したりと試行錯誤を繰り返すも、あのもちもちふわふわ感が出ないんだ。味は合っていた。レシピは間違いないのだが、結局メガリノ全部を使い切ってしまった。おかしな話だろ。笑いたければ笑ってもいいんだぜ。そして俺は翌年、ビルダーナ騎士団を辞めた。バレッツ作りに集中するためだ。辞めた翌日、馬を走らせグレイズのバレッツ職人の下で働こうと赴いた。だが、バレッツを扱う店は姿を消し、代わりにカトレットというお菓子が流行していた。絶望の淵に追いやられたよ。だけど一昨年泊まった宿屋の料理人に会う事が出来て、頼み込んで作り方を教えてもらったんだ。僥倖だった。作ってみたらなんてことない、使う油の種類が違ったんだ。ビルダーナのレシピには油としか書いて無く、それがグレイズで使われている油と違ったんだな。わざわざ騎士団を辞めたのに、たったそれだけの事が見抜けなかった。だから君にも後悔しない生き方をして欲しい」
「はあ……」
「おい、エリオット、橋が架かるぞ」
「あ、はい。今行きます」
「頑張れよ青年」
エリオットはアスラ運河の畔で佇んでいたアナバス・バーランドと別れた。
「やけに長く話していたけど知り合いか?」
「いいや、全く知らない人です」
「知らない人に着いて行っちゃあ駄目だぞ」
「もう、そんな子供じゃありませんよ」
エリオットの肩にいたケイトも戻ってきた。
「やっと話が終わったのね。途中で飽きたから散歩行ってた」
四人は船が途絶えて可動式の橋が架けられたアスラ運河を渡った。
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