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妖精
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植物系女性型魔物のアルラウネや身の丈二メートルはある蜘蛛、ハウリングドッグなどを相手に勇者一行は戦いを繰り広げる。
生物型魔物は総じて火に弱く、エリオットの魔法の餌食になっていった。
この世界のポーションは傷を治すことは出来ず、植物由来の精力剤的役割を担う。火や風の魔法を連発していたエリオットの気力は、みるみる減り、すでにポーションを何本か消費していた。
カルナも仲間の傷を癒すため、回復魔法を使いポーションが必要になる。
かなりの激闘を繰り広げ、輪廻の森の入り口と思しき道まで来た。道標に輪廻の森と記されてあり、進入禁止の看板も立てられている。
「進入禁止か、物々しいな」
「ここで何人もの人が行方不明になった証拠でしょう。ちょっと怖い気もしますが、行かないという選択肢はありません」
「そう、ここに父さん母さんが行方不明になった原因があるから」
短剣を握るウィスの手にも力が入る。
「カルナ、ポーションはあといくつある?」
カルナは聖石のメイスを木に立てかけ、腰の巾着を覗き込む。
「あと五個です」
「俺も三個しかない。なんとかギリギリ間に合いそうだ。よし、行こう」
エリオットたちは頷きを確認し、看板の記す方向へ進んでいった。
「これ以上は先に進めませんね。別名迷いの森というだけあって、私たちが入ると拙いかもしれません」
まだ数体魔物を乗せた馬車は、輪廻の森の近くで待機することになった。
エリオットたちは、うっすらと残る獣道に沿って進んでいた。森は鬱蒼とし影の部分が色濃くなる。
「魔物、出なくなったわね。全然気配を感じない」
「そうだな」
事情を知っているベルハルドだったが、空とぼける。
レンジャーの基本通り、木にナイフで目印を入れながらウィスは進む。
だが、かれこれ一時間は歩いても何も見つからない。
「このままだと、この森で一泊ってことになりそうね」
「それは、ちょっとまずいな。もし寝ているところを魔物に襲われでもしたら」
「エリオット、一旦引き返した方が良いんじゃないか」
「そうですね。もう一回、装備を整えて出直しますか」
「悔しいけど仕方ないわ。目印つけてきたから戻りましょ」
四人はウィスを先頭に戻ることにした。だがウィスは途中で立ち止まり辺りを見回す。
「どうした、ウィス」
「おかしい……」
「え?」
「今まで目印をつけてきたのに、無くなっているわ!」
「はぁ?」
ベルハルドは頓狂な声を出した。
「え、え? なんで!?」
獣道を駆けだしたウィスは途中の木々を見るも、目印はどこにも無かった。そして立ち止まって振り返ると、青ざめた顔で三人を見た。
「迷って……、しまったわ」
「どうしようか……。獣道は一本だったから元を辿れば、この森を出られるとは思うが」
「木を魔法で切って行きましょうか? マナがもつかどうか分かりませんが」
「それだとマナが切れた時、魔物と戦うのが困難になりますよ」
「ごめんなさい、私がいながら……」
「ウィスのせいじゃないよ。この森には何かがあるんだ」
四人はうっすらと残る獣道の上で考え込んだ。
「とりあえず来た道を戻ろう。ウィスの付けた傷も見つかると期待して」
「そうだな、それしか方法がない」
とりあえず四人はウィスを先頭にして歩き出した。だが三十分ほど歩いてもウィスの付けた傷は見当たらない。
このまま闇雲に進んで大丈夫なのだろうか。ねっとりとした不安が絡みついてきた頃、エリオットが路上に何かを見つけた。
「なんだ、あれは」
エリオットが走って、しゃがみ込むとそれは蝶のような羽の生えた、十センチ程度の女性の姿をした妖精のようだった。ボブカットの髪に、ワンピースを着ている。彼はそれに触ろうとしても指は素通りする。
ウィスたちも後を追って何かを観察しているようなエリオットを見る。
「なにしているの?」
「何って、ほら、妖精みたいだぞ。物語に出てくるような」
「妖精?」
「エリオットさん、これは……」同じく駆け付けたカルナが小さな声で耳打ちする。「マナが形になっているみたいですよ」
「マナが?」
その妖精は苦し気な表情をしていた。
「マナを供給してみよう」
「ええ」
エリオットがマナを指先に集中すると、その妖精に触ることが出来た。そして触れた状態でマナを放出する。すると少しずつ光を発し、苦し気な表情は和らいでいく。ある程度、マナを供給するとその妖精はうっすらと目を開いた。
「う……、こ、ここは……」
「おっ、目を覚ましたみたいだぞ」
「何のことを言っているんだ?」
見かねたベルハルドが聞いてくる。ウィスも不思議そうな顔をしていた。
「そうか、マナが感知できないウィスやベルハルドさんには見えないんだ」
妖精は半身を起こし、頭を抑える。
「に……、人間……」その妖精は顔を上げ、自分を覗き込むエリオットとカルナを見る。「あなたたちは私が見えるの?」
エリオットとカルナは頷いた。
「あなたが倒れていたので、このエリオットさんがマナを供給したのです」
「そう、あなたが」
立ち上がった妖精は、まだ足取りがふらふらしていた。
「ちょっと待って、もうちょっとマナを注ぐから」
伸びてきた手に妖精は戸惑いながらも、エリオットの人差し指を抱きかかえるように触った。
「あー、回復していくわ。ありがとう」
生物型魔物は総じて火に弱く、エリオットの魔法の餌食になっていった。
この世界のポーションは傷を治すことは出来ず、植物由来の精力剤的役割を担う。火や風の魔法を連発していたエリオットの気力は、みるみる減り、すでにポーションを何本か消費していた。
カルナも仲間の傷を癒すため、回復魔法を使いポーションが必要になる。
かなりの激闘を繰り広げ、輪廻の森の入り口と思しき道まで来た。道標に輪廻の森と記されてあり、進入禁止の看板も立てられている。
「進入禁止か、物々しいな」
「ここで何人もの人が行方不明になった証拠でしょう。ちょっと怖い気もしますが、行かないという選択肢はありません」
「そう、ここに父さん母さんが行方不明になった原因があるから」
短剣を握るウィスの手にも力が入る。
「カルナ、ポーションはあといくつある?」
カルナは聖石のメイスを木に立てかけ、腰の巾着を覗き込む。
「あと五個です」
「俺も三個しかない。なんとかギリギリ間に合いそうだ。よし、行こう」
エリオットたちは頷きを確認し、看板の記す方向へ進んでいった。
「これ以上は先に進めませんね。別名迷いの森というだけあって、私たちが入ると拙いかもしれません」
まだ数体魔物を乗せた馬車は、輪廻の森の近くで待機することになった。
エリオットたちは、うっすらと残る獣道に沿って進んでいた。森は鬱蒼とし影の部分が色濃くなる。
「魔物、出なくなったわね。全然気配を感じない」
「そうだな」
事情を知っているベルハルドだったが、空とぼける。
レンジャーの基本通り、木にナイフで目印を入れながらウィスは進む。
だが、かれこれ一時間は歩いても何も見つからない。
「このままだと、この森で一泊ってことになりそうね」
「それは、ちょっとまずいな。もし寝ているところを魔物に襲われでもしたら」
「エリオット、一旦引き返した方が良いんじゃないか」
「そうですね。もう一回、装備を整えて出直しますか」
「悔しいけど仕方ないわ。目印つけてきたから戻りましょ」
四人はウィスを先頭に戻ることにした。だがウィスは途中で立ち止まり辺りを見回す。
「どうした、ウィス」
「おかしい……」
「え?」
「今まで目印をつけてきたのに、無くなっているわ!」
「はぁ?」
ベルハルドは頓狂な声を出した。
「え、え? なんで!?」
獣道を駆けだしたウィスは途中の木々を見るも、目印はどこにも無かった。そして立ち止まって振り返ると、青ざめた顔で三人を見た。
「迷って……、しまったわ」
「どうしようか……。獣道は一本だったから元を辿れば、この森を出られるとは思うが」
「木を魔法で切って行きましょうか? マナがもつかどうか分かりませんが」
「それだとマナが切れた時、魔物と戦うのが困難になりますよ」
「ごめんなさい、私がいながら……」
「ウィスのせいじゃないよ。この森には何かがあるんだ」
四人はうっすらと残る獣道の上で考え込んだ。
「とりあえず来た道を戻ろう。ウィスの付けた傷も見つかると期待して」
「そうだな、それしか方法がない」
とりあえず四人はウィスを先頭にして歩き出した。だが三十分ほど歩いてもウィスの付けた傷は見当たらない。
このまま闇雲に進んで大丈夫なのだろうか。ねっとりとした不安が絡みついてきた頃、エリオットが路上に何かを見つけた。
「なんだ、あれは」
エリオットが走って、しゃがみ込むとそれは蝶のような羽の生えた、十センチ程度の女性の姿をした妖精のようだった。ボブカットの髪に、ワンピースを着ている。彼はそれに触ろうとしても指は素通りする。
ウィスたちも後を追って何かを観察しているようなエリオットを見る。
「なにしているの?」
「何って、ほら、妖精みたいだぞ。物語に出てくるような」
「妖精?」
「エリオットさん、これは……」同じく駆け付けたカルナが小さな声で耳打ちする。「マナが形になっているみたいですよ」
「マナが?」
その妖精は苦し気な表情をしていた。
「マナを供給してみよう」
「ええ」
エリオットがマナを指先に集中すると、その妖精に触ることが出来た。そして触れた状態でマナを放出する。すると少しずつ光を発し、苦し気な表情は和らいでいく。ある程度、マナを供給するとその妖精はうっすらと目を開いた。
「う……、こ、ここは……」
「おっ、目を覚ましたみたいだぞ」
「何のことを言っているんだ?」
見かねたベルハルドが聞いてくる。ウィスも不思議そうな顔をしていた。
「そうか、マナが感知できないウィスやベルハルドさんには見えないんだ」
妖精は半身を起こし、頭を抑える。
「に……、人間……」その妖精は顔を上げ、自分を覗き込むエリオットとカルナを見る。「あなたたちは私が見えるの?」
エリオットとカルナは頷いた。
「あなたが倒れていたので、このエリオットさんがマナを供給したのです」
「そう、あなたが」
立ち上がった妖精は、まだ足取りがふらふらしていた。
「ちょっと待って、もうちょっとマナを注ぐから」
伸びてきた手に妖精は戸惑いながらも、エリオットの人差し指を抱きかかえるように触った。
「あー、回復していくわ。ありがとう」
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