勇者が来る!!

北丘 淳士

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 謁見が終わった後、夕暮れが近かったので、久しぶりに酒場で四人は体の疲れを癒すことになった。
「すまない、この酒もう一杯!」
「はーい、少々お待ちを」
 酒場は時間帯ということもあり繁盛していた。
「もう、ベルハルドさんったら旅費が入ったからといって、羽目外しすぎですよ」
「そういうカルナだって、デザート三人分頼んでいるじゃない」
「久しぶりに戦いから離れたんだから、少しぐらいゆっくりしよう」エリオットだけがチビチビとお酒を飲んでいた。「それにしても北東の洞窟で魔物騒動か……」
「どうしたの、エリオット?」
「ん、いや、優先順位をどうしようか悩んでいたんだ」
「優先順位って?」
 エリオットは口元に拳をつけて、しばらく考えていた。
「よし、明日は輪廻の森に行こう」
「えっ!?」
 ウィスには予想外の言葉だった。
「ウィス、小さい頃からずっと行きたがっていただろ。実はこのニ、三日ずっと輪廻の森や魔物の事について、村の人たちから聞いて回っていたんだ」
 ポーションを買いに行っていたと見せかけていたエリオットは、そのことについて村人から聞き込みに行っていた。
「エリオット……」
 椅子から立ち上がったウィスは感極まってエリオットに抱きついた。
「ありがとう、エリオット。私の為に、そんなことしてくれていたのね! やっぱり大好き!」
 ウィスの柔らかい頬や胸がエリオットを刺激する。ただ小さい頃から何度も聞かされていたウィスの言葉だったから、喜びよりも懐かしさが込み上げてきた。
「ああ、うん。魔物の出現についても聞いて回っていたんだけど、北東に魔物が現れたなんて聞いたことが無かったからね。先に輪廻の森を目指すよ」
 そう言って、エリオットは世界地図をテーブルに広げた。そこにはグレイズ王都から西にバツ印がついている。
「ここが輪廻の森のようだ」
「輪廻の森に行くんだって!?」
「はい、ここには何か重要なものがありそうなんですよ。幾人もの村人が行方不明になっています」
「そうか……、ならば仕方ないな」

 エリオットたちの会話はトラステリアの耳にも入っていた。
「輪廻の森ですって! どこよそれ!」
 手持ちの地図を見ても輪廻の森の表記はどこにもなかった。
「急いでグレイズ王国に戻って、輪廻の森の場所を特定しましょう!」
 その言葉を無線で聞いたベルハルドは、わざと言葉に出して聞いた。
『ところで輪廻の森って、どこにあるんだい?』
『グレイズ王都から西に半日ぐらいですよ』
『そうか……』
 助かった、とラニエステルは思い、シノビや騎士に指示を出した。
「魔物を補給して、西に回り込みましょう」

 少しの酒を飲み寝息を立てているエリオットの横で、ベルハルドは無線を充電器に差し込んでベッドにもぐりこんだ。
 まだあどけなさが残るエリオットの表情を見て、笑みを溢しながら溜息を一つ漏らす。
 魔物補給班も大変だな。
 久しぶりの良酒に満足したベルハルドは、すぐに眠りの底に沈んでいった。

 金属の擦れる音でベルハルドは目を覚ました。
「おはよう、ベルハルドさん」
「あ、ああ。おはよう」
「ところでベルハルドさん、その枕元の四角いもの、なんですか?」
 ベルハルドは充電していた無線を見せてしまったことで、一気に目が覚めた。だが、慌てる素振りを見せることなく頭をフル回転させた。
「こ……れは、お守りだよ。旅が順調に行くようにって」
「そうなんですか。輪廻の森は往復一日かかりますから、早めに出た方が良いですよ」
「うん、分かった。俺もすぐ着替えるよ」
 なんとか誤魔化したベルハルドの額は汗でべったりだった。
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