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グレイズ国王
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今日の任務は取り合えず終了したものの、トラステリアは手持ちの魔物の数が少なくなっていたので、夜を通してグレイズ王国の魔物飼育場まで向かっていた。
最近、お風呂にも入れていない……。結構大変ね。
檻に入れているとはいえ、魔物の姿を民に見せて動揺させるとまずいので、基本的に街の外での野宿となる。
シノビや騎士たちの計らいでトラステリアだけ街に泊まれても、エリオットと顔を合わすとまずいので、余程の事が無い限り外を歩くということが出来ない。
シノビやグレイズの騎士たちが魔物用の檻を輸送しているなか、荷台で体を休めていたトラステリアは浅い眠りに落ちた。
グレイズの飼育場で補給して、モナデの町に戻ってきたのは夜が明ける頃だった。
トラステリアやシノビたちの労苦を知らず、エリオットたちは日中魔物を倒す日々を過ごし、経験値は上がっていく。そしてようやくグレイズ王都グラジエストの尖塔がいくつか見える場所まで辿り着いた。
「ふう、やっと王都が見える場所まで来たわね」
「本当だな、路銀も丁度、底をつくし、食材もあとわずかだった。もうちょっと節約した旅をしないといけないな」
その言葉に最後尾のカルナがチクリと釘を刺す。
「主に酒を飲んでいるのは、ウィスかベルハルドさんですけどね」
「ごめんなさい」
「む、……すまん」
「でもカルナだってデザート二人前ぐらい食べているじゃない」
ウィスが責めるが、カルナは涼しい顔で返した。
「デザートは安いから良いんです。それに私の国には、あまり甘い食べ物が無くて」
ただカルナにも笑顔が見える。パーティーの雰囲気は明るかった。
開けたグレイズ王都までの街道は牧歌的で、魔物がいないように見えた。
「とりあえずラニエステル国王陛下と謁見しよう。クレイトス陛下から言われているし」
「そうですね。その前に今日謁見出来るか伺わないとですね」
その日、パーティーは魔物に遭う事なくグレイズ王都の門をくぐった。
グレイズ王都は活気であふれかえっていた。時刻は丁度夕刻に入ろうとしている。仕事を終えた人々が笑顔で会話しながら平和な時間が流れている。
おそらくビルダーナとブランノール両国との交易が盛んだからだろう。
それを見ながら、ベルハルドは三人を引き連れグレイズ王都の並木通りを進む。
ビルダーナの王城に匹敵するぐらいの門に辿り着き、エリオットは門兵にビルダーナの許可証を見せた。
近衛兵の一人から「勇者一行が謁見を求めている」と聞いたラニエステルは、すぐに許可し発声練習を始めていた。
「んっ、んっ! あー、あー、私がラニエステル・グレイズ国王である。んっ、んっ、あー」
許可を貰ったエリオットたちはすぐに謁見の間に通された。玉座にはすでにラニエステルが座り、一国の王たる佇まいを見せていた。これも何度も練習したものである。
「おお、よく来た勇者一行よ。私がラニエステル・グレイズ国王である。話はビルダーナ王から聞いている。なんと魔王を倒すために世界を回っているだとか」
やや芝居がかったラニエステルの仕草に、ベルハルドは笑いを堪えながらも話を聞く。恐らくこの日のために練習したのだろうと思惟する。
立派な白いひげを蓄えたラニエステルは、その髭を擦りながら話題を変える。
「実は王都から北東の洞窟に、最近魔物が蔓延っていて近隣の住民が恐れている。その魔物を殲滅してほしいのだ。そなたたち勇者一行なら必ずやってくれると信じている」
片膝をつき敬うベルハルドは慇懃に返す。
「住民が困っているなら、一刻も早く殲滅に向かいたいと思います。ただ一つお願いがあります」
「どうした。私が出来る事なら何でも手を貸そう」
「実は路銀が底をつきまして、移動が困難になっています。出来れば少々の援助をお願いしたいのですが」
「なんだ、そんなことか」
そう言って、ラニエステルは二度手を叩いた。すると右側の扉からワゴンを押す女中が現れた。ワゴンの上には革の袋が乗っている。今まで使っていた革袋より、かなり大きい。
「当面の旅費はこれで足りるだろう。他に何か入用なものはあるか?」
いままで低頭していたエリオットは慇懃に返した。
「いえ、融資までしていただき恐悦至極にございます。必ずや北東の洞窟の魔物殲滅に尽力いたします」
「うむ、期待しておるぞ」
王宮の窓から勇者一行の背中を見送ってから、室内にいる近衛兵にラニエステルは問う。
「どうだった、私の所作は!」
「はあ、威厳がありとてもよろしかったと」
「だろう、だろう! これで勇者譚の一頁に載ったと思うのだが」
「ええ、そうだと良いですね」
やや呆れた目線を飛ばす近衛兵の横で、ラニエステルはガッツポーズをしていた。
最近、お風呂にも入れていない……。結構大変ね。
檻に入れているとはいえ、魔物の姿を民に見せて動揺させるとまずいので、基本的に街の外での野宿となる。
シノビや騎士たちの計らいでトラステリアだけ街に泊まれても、エリオットと顔を合わすとまずいので、余程の事が無い限り外を歩くということが出来ない。
シノビやグレイズの騎士たちが魔物用の檻を輸送しているなか、荷台で体を休めていたトラステリアは浅い眠りに落ちた。
グレイズの飼育場で補給して、モナデの町に戻ってきたのは夜が明ける頃だった。
トラステリアやシノビたちの労苦を知らず、エリオットたちは日中魔物を倒す日々を過ごし、経験値は上がっていく。そしてようやくグレイズ王都グラジエストの尖塔がいくつか見える場所まで辿り着いた。
「ふう、やっと王都が見える場所まで来たわね」
「本当だな、路銀も丁度、底をつくし、食材もあとわずかだった。もうちょっと節約した旅をしないといけないな」
その言葉に最後尾のカルナがチクリと釘を刺す。
「主に酒を飲んでいるのは、ウィスかベルハルドさんですけどね」
「ごめんなさい」
「む、……すまん」
「でもカルナだってデザート二人前ぐらい食べているじゃない」
ウィスが責めるが、カルナは涼しい顔で返した。
「デザートは安いから良いんです。それに私の国には、あまり甘い食べ物が無くて」
ただカルナにも笑顔が見える。パーティーの雰囲気は明るかった。
開けたグレイズ王都までの街道は牧歌的で、魔物がいないように見えた。
「とりあえずラニエステル国王陛下と謁見しよう。クレイトス陛下から言われているし」
「そうですね。その前に今日謁見出来るか伺わないとですね」
その日、パーティーは魔物に遭う事なくグレイズ王都の門をくぐった。
グレイズ王都は活気であふれかえっていた。時刻は丁度夕刻に入ろうとしている。仕事を終えた人々が笑顔で会話しながら平和な時間が流れている。
おそらくビルダーナとブランノール両国との交易が盛んだからだろう。
それを見ながら、ベルハルドは三人を引き連れグレイズ王都の並木通りを進む。
ビルダーナの王城に匹敵するぐらいの門に辿り着き、エリオットは門兵にビルダーナの許可証を見せた。
近衛兵の一人から「勇者一行が謁見を求めている」と聞いたラニエステルは、すぐに許可し発声練習を始めていた。
「んっ、んっ! あー、あー、私がラニエステル・グレイズ国王である。んっ、んっ、あー」
許可を貰ったエリオットたちはすぐに謁見の間に通された。玉座にはすでにラニエステルが座り、一国の王たる佇まいを見せていた。これも何度も練習したものである。
「おお、よく来た勇者一行よ。私がラニエステル・グレイズ国王である。話はビルダーナ王から聞いている。なんと魔王を倒すために世界を回っているだとか」
やや芝居がかったラニエステルの仕草に、ベルハルドは笑いを堪えながらも話を聞く。恐らくこの日のために練習したのだろうと思惟する。
立派な白いひげを蓄えたラニエステルは、その髭を擦りながら話題を変える。
「実は王都から北東の洞窟に、最近魔物が蔓延っていて近隣の住民が恐れている。その魔物を殲滅してほしいのだ。そなたたち勇者一行なら必ずやってくれると信じている」
片膝をつき敬うベルハルドは慇懃に返す。
「住民が困っているなら、一刻も早く殲滅に向かいたいと思います。ただ一つお願いがあります」
「どうした。私が出来る事なら何でも手を貸そう」
「実は路銀が底をつきまして、移動が困難になっています。出来れば少々の援助をお願いしたいのですが」
「なんだ、そんなことか」
そう言って、ラニエステルは二度手を叩いた。すると右側の扉からワゴンを押す女中が現れた。ワゴンの上には革の袋が乗っている。今まで使っていた革袋より、かなり大きい。
「当面の旅費はこれで足りるだろう。他に何か入用なものはあるか?」
いままで低頭していたエリオットは慇懃に返した。
「いえ、融資までしていただき恐悦至極にございます。必ずや北東の洞窟の魔物殲滅に尽力いたします」
「うむ、期待しておるぞ」
王宮の窓から勇者一行の背中を見送ってから、室内にいる近衛兵にラニエステルは問う。
「どうだった、私の所作は!」
「はあ、威厳がありとてもよろしかったと」
「だろう、だろう! これで勇者譚の一頁に載ったと思うのだが」
「ええ、そうだと良いですね」
やや呆れた目線を飛ばす近衛兵の横で、ラニエステルはガッツポーズをしていた。
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