勇者が来る!!

北丘 淳士

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初めての酒

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 エリオットよりも先に三人は酒場で食事をとっていた。
 カルナは旅慣れてきたのか、初めてだという酒を飲んだ。
「あっ! 美味しい……」
 カルナが皆に先んじて二杯目を注文してしばらくが経った。ポーションを買ったエリオットが戻ってきた。
「ところでウィス、俺が盾を構えて突進していくとき、矢が俺のギリギリを風切り音ならして飛んでいくのが怖いんだけど」
「大丈夫よ、ちゃんと狙っているから」
 カクテルを飲みながらウィスは答える。
「狙っているって、どっちを!?」
「あっはははは……!」
 酒が入ったカルナの笑い声が響く。
「そう言えば、エリオットは酒場に着くのが遅かったよな。何していたんだ?」
「あ、ああ。ちょうど雑貨屋が閉まりかけていてて、何とか拝み倒して売ってもらったんですよ。でも何とか十二個ほどポーションを買えました」
「拝み倒してって、あっはははは……!」
「十二個か、それだけあれば次の町にも辿り着けるな。カルナも魔法を使うから、体力は万全でいてもらわないと」
「僕もようやく魔法と武技のコンビネーションが出来始めましたよ。少しは魔物との戦いも楽になってくるんじゃないですかね。それにしてもラミアクイーンは手強かったな」
「ああ、あれね。三つも尻尾があるだけで、あんなにも手強いんだなんて」
「三つ、三つって! あっはははは……!」
 やがてカルナは大して酒を飲んでないのに、笑い疲れて、その場で眠ってしまった。
「やれやれ、私が連れて帰らなくっちゃ」
 ウィスは嘆息した。
「カルナもだいぶ俺たちに馴染んできたみたいだな。最初は人見知りしていたのかもしれないが、ちょっと距離があったからな。ところで明日も王都目指して行くんだろ」
「はい、ラニエステル国王陛下に先に会わないと、旅費が足らなくなりそうですからね」

 その会話をトラステリアは別の酒場で聞いていた。
「明日も東に向かうみたい」
 今や魔物の扱いにも慣れた彼女たちは、明日の打ち合わせをしていた。
「おそらく明後日は洞窟探検になるだろうから、一人先にラニエステル国王陛下に連絡しましょう」
 目が合ったシノビの一人は頷き、町で馬を借りてグレイズ王城へと夜を駆けた。

 カルナを宿まで送り届けたウィスは、その足でもう一度酒場に一人で戻っていった。
 輪廻の森の場所を確かめておかなくては。
 いまだパーティーを輪廻の森に誘導する策は思いつかなかったが、出来るだけ情報を仕入れたくて、日付が変わる頃までウィスは町中を奔走していた。

「昨晩は失礼しました。お見苦しいところを見せてしまい……」
 宿屋の入り口で、赤面しながらカルナは陳謝する。
 酒場で、ひたすら笑っていた事を言っているのだろうと、皆は思い浮かべた。
「いいじゃない別に。私たちも面白かったわよ」
「そうそう、素のカルナが見れたようで、こっちも面白かったぞ」ベルハルドも笑顔で言う。
「ムードメーカーが他にいないからね、僕だと戦いの時しかなれないし」
 三者とも同じような意見が飛び交う中、カルナはさらに顔を赤くして宣言した。
「私、もうお酒飲みませんから!!」
 それをベルハルドは宥める。
「いやいや、いいってホントに大丈夫だって」
 カルナはカルナなりの矜持を持っていた。彼女は心の中でもう醜態をさらすまいと覚悟した。
「じゃあ、みんな揃ったし、次の町モナデへ! だな」

 道中、現れる魔物は昨日と同じ種類のものの他に、全身ウロコに包まれたトカゲのような姿のリザードマンや、低位アンデッドのレイスが混じるようになってきた。だがコンビネーションを上手く利用すれば、倒せない敵ではなかった。
 矢がウロコを貫通しないリザードマン相手に、最初ウィスは苦戦していた。ウィスの力では短剣でリザードマンのウロコに傷をつける事しかできなかったが、刃が刺さらないと気付くや目を狙いだした。動く魔物相手に最初は外していたが、魔物の動きを読んで的確に当たるようになった。これは効果的で、ウィスの短剣の熟練度が、どんどん高くなっていった。
 ベルハルドもリザードマンの盾になり、ウィスと共に足止めし、エリオットが止めを刺す。
 カルナも浄化魔法でレイスを追い詰める。その効果は期待以上だった。
 徐々に戦いを慣らしてくれているんだな、とベルハルドは見守りながら戦っていた。
 昼過ぎには宿場町モナデに着くことが出来、先に宿屋をとって、町中を見て回った。
「僕はまたポーションを買いに行くよ」
「私も一緒に行こうか?」
「いや、いいよ大丈夫。色々見て回りたいしさ」
「そう……」
 エリオットだけ別行動し、まだ夕飯には時間がある。三人は宿屋の一階にある酒場でエリオットが戻るのを待っていた。
「勇者の影響で世界は今どうなっているんでしょう……」
「なあに、今までの戦いの主導権はエリオットにあるから、まだ犠牲は少ないだろう」
「まさかエリオットが勇者だったなんて、寝耳に水だったわ。しかも勇者が厄災のような存在だったなんて……。だから学校に行かないで家で訓練していたのね」
 ウィスは幼少期の頃のエリオットについて話をし始めていた。その話に二人は聞き入っていた頃、ちょうどエリオットが戻ってきた。
「おう、エリオット、お疲れさん。結構時間かかったな」
「今日はすんなりと買えたはずでしょ」
「ああ、とりあえずグレイズ王城までは十分な量が買えたよ」
「いつもすいません」
「いいってカルナ。僕も魔法を使うからポーション必要だし。それよりもまだ明るいから少し飲んで体を休めよう」
「路銀も少ないから、ほどほどにな」
 お金の管理は最年長のベルハルドがやっていた。あとグラジエストまで二日はかかる。その事を気にしながら一番安い酒を彼は頼んだ。
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