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越境
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エリオットたちは上半身女性、下半身が蛇のラミア一体と対峙していた。今までの相手とはまた違った戦い方を余儀なくされる。パーティーは、鞭のように自在に動く尻尾に対応できないでいた。
盾を前面に押し出し、ベルハルドは攻撃を防いでいく。
その背後でウィスは矢を放つも、全て尻尾に弾かれている。
「隙が無いな……」
エリオットは機会を探るも、相手の領域に踏み込めない。
「エリオット、魔法は?」
「あ、そうだ」
今まで剣で済んできたので、魔法を使うことを失念していた。
ベルハルドの背後から飛び出すや、風の刃をラミアめがけて放った。濃密に凝縮された風の刃は、あっさりとラミアの尻尾を切り落とした。
「相手の攻撃の要を切ったぞ、一斉攻撃だ!」
ウィスの矢も防がれることがなく、弱体化したラミアにエリオットは駆けた。
黄昏時を過ぎ暗闇の中、国境の街カーラが見えてきた。
「これで野宿は避けられそうですね」
カルナは、ほっとした様子だった。
「でも今日も結構魔物と戦ったな。今まで全然見たことがなかったのに」
エリオットは指を折りながら言う。
その国境の街は交易が盛んなのか、王都とまではいかないが意外と発展していた。運よく宿屋もとることができ、関所も閉まっている時間だったので明日越境することにした。
すでに寝息を立てているカルナを横目に、ウィスは不安で目を炯々としていた。
これでやっと父さんと母さんの行方が分かる。絶対、輪廻の森にみんなを誘導しないと。いや、一人ででも行かなければ。
その夜は数多の魔物と戦って疲弊していたのに、遅くまで眠れなかった。
国境は朝六時に開いた。ビルダーナ国王から貰っていた許可証を見せると、荷物検査もなく、すんなりと通過することが出来た。両替も手数料を払って済ませている。
「すごいですね、この許可証」
カーラの街を踏み出したエリオットは許可証を、まじまじと見つめていた。
「エリオット、これからどうするの?」
「とりあえず、ラニエステル国王陛下に会わなくちゃな。クレイトス国王陛下から言われているから」
「ラニエステル国王陛下の居城はどの辺にあるの?」
「待ってて、ちょっと地図を見てみる」
エリオットは世界地図を開き、それにつられて三人も地図を覗き込んだ。
薄くひげが生えた顎をこすりながらベルハルドは呟く。
「グレイズ王国はビルダーナ王国より大きいな。徒歩だと宿場の数からして王都グラジエストまで三日はかかりそうだ」
「そう……」
ウィスは輪廻の森のことについて言えないでいた。両親が消えた危険な森へとパーティーを誘導する事に躊躇していたからだ。
「馬でも借りられればいいけど、手持ちの金が心もとないからね。女性が二人いるから出来るだけ宿屋に泊まらせてあげたいんだ。とりあえず進もう」
エリオットの意外な心遣いにカルナは感動していた。最初は奔放な性格だと思っていたが、パーティーを守るという責務を背負ったエリオットの変化に驚いてもいた。
国境を越えて魔物の種類も変化してきた。姿は人間だが野蛮で凶暴なヤフーの群れや、老人の姿をした凶悪なレッドキャップ、三つの尻尾を持ち、ラミアより一回り大きなラミアクイーンなどが勇者たちの行く手を阻んだ。
だが勇者パーティーたちも連携がとれ始め、苦戦しながらも徐々に戦いに慣れていった。ちょうど日も傾いてきたころ、体力や魔力を消耗することなく最初の町サラムに着くことが出来た。そこは国境からちょうど一日かかる町のせいか、意外と発展していた。
「ちょっと時間に余裕が出来たから僕はポーションの買い出しに行ってくる。三人は宿をとってきて」
「おう。宿をとったら、俺たちは町の酒場にいる。多分すぐ見つかると思うぞ」
エリオットは踵を返しつつ手を挙げて了承した。
「何も勇者直々に物資の補給に行かなくても」カルナはエリオットの背中を見ながら言う。
「なあに、あいつも勇者である前にラルフさんの息子だ。面倒見がいい所が似たんだろ」
「そうね。エリオットは小さい時からあんな感じだったわ」
「それよりも先に宿を探しに行こう。早く酒が酒場で一息つきたい」
盾を前面に押し出し、ベルハルドは攻撃を防いでいく。
その背後でウィスは矢を放つも、全て尻尾に弾かれている。
「隙が無いな……」
エリオットは機会を探るも、相手の領域に踏み込めない。
「エリオット、魔法は?」
「あ、そうだ」
今まで剣で済んできたので、魔法を使うことを失念していた。
ベルハルドの背後から飛び出すや、風の刃をラミアめがけて放った。濃密に凝縮された風の刃は、あっさりとラミアの尻尾を切り落とした。
「相手の攻撃の要を切ったぞ、一斉攻撃だ!」
ウィスの矢も防がれることがなく、弱体化したラミアにエリオットは駆けた。
黄昏時を過ぎ暗闇の中、国境の街カーラが見えてきた。
「これで野宿は避けられそうですね」
カルナは、ほっとした様子だった。
「でも今日も結構魔物と戦ったな。今まで全然見たことがなかったのに」
エリオットは指を折りながら言う。
その国境の街は交易が盛んなのか、王都とまではいかないが意外と発展していた。運よく宿屋もとることができ、関所も閉まっている時間だったので明日越境することにした。
すでに寝息を立てているカルナを横目に、ウィスは不安で目を炯々としていた。
これでやっと父さんと母さんの行方が分かる。絶対、輪廻の森にみんなを誘導しないと。いや、一人ででも行かなければ。
その夜は数多の魔物と戦って疲弊していたのに、遅くまで眠れなかった。
国境は朝六時に開いた。ビルダーナ国王から貰っていた許可証を見せると、荷物検査もなく、すんなりと通過することが出来た。両替も手数料を払って済ませている。
「すごいですね、この許可証」
カーラの街を踏み出したエリオットは許可証を、まじまじと見つめていた。
「エリオット、これからどうするの?」
「とりあえず、ラニエステル国王陛下に会わなくちゃな。クレイトス国王陛下から言われているから」
「ラニエステル国王陛下の居城はどの辺にあるの?」
「待ってて、ちょっと地図を見てみる」
エリオットは世界地図を開き、それにつられて三人も地図を覗き込んだ。
薄くひげが生えた顎をこすりながらベルハルドは呟く。
「グレイズ王国はビルダーナ王国より大きいな。徒歩だと宿場の数からして王都グラジエストまで三日はかかりそうだ」
「そう……」
ウィスは輪廻の森のことについて言えないでいた。両親が消えた危険な森へとパーティーを誘導する事に躊躇していたからだ。
「馬でも借りられればいいけど、手持ちの金が心もとないからね。女性が二人いるから出来るだけ宿屋に泊まらせてあげたいんだ。とりあえず進もう」
エリオットの意外な心遣いにカルナは感動していた。最初は奔放な性格だと思っていたが、パーティーを守るという責務を背負ったエリオットの変化に驚いてもいた。
国境を越えて魔物の種類も変化してきた。姿は人間だが野蛮で凶暴なヤフーの群れや、老人の姿をした凶悪なレッドキャップ、三つの尻尾を持ち、ラミアより一回り大きなラミアクイーンなどが勇者たちの行く手を阻んだ。
だが勇者パーティーたちも連携がとれ始め、苦戦しながらも徐々に戦いに慣れていった。ちょうど日も傾いてきたころ、体力や魔力を消耗することなく最初の町サラムに着くことが出来た。そこは国境からちょうど一日かかる町のせいか、意外と発展していた。
「ちょっと時間に余裕が出来たから僕はポーションの買い出しに行ってくる。三人は宿をとってきて」
「おう。宿をとったら、俺たちは町の酒場にいる。多分すぐ見つかると思うぞ」
エリオットは踵を返しつつ手を挙げて了承した。
「何も勇者直々に物資の補給に行かなくても」カルナはエリオットの背中を見ながら言う。
「なあに、あいつも勇者である前にラルフさんの息子だ。面倒見がいい所が似たんだろ」
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