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ウィスの決意
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その日の午後、エリオットはラルフ相手に剣の稽古をしていると、一人の初老の女性を連れてウィスはやってきた。ウィスはその女性と手をつないでいた。
エリオットとラルフが、家の門に立つ二人に気付くと、その初老の女性は深くお辞儀した。エリオットたち二人は剣の稽古を止め二人に近づく。
「どうしたの、ウィス」
「いかがなされましたか?」
エリオットとラルフはそれぞれ訊いた。
ウィスがその初老の女性の袖を引っ張る。
「私は、ウィスの祖母のカメル・リスティと申します。いつも孫がお世話になっていまして、挨拶に伺いました。遅くなり申し訳ありません」
カメルはもう一度、深々とお辞儀した。
「今日ウィスに、いつもどこに行っているのか問いただしたら、こちらに伺っている、と白状しまして、お礼に伺いました。ほらウィスも」
背中を押されたウィスは、カメルと一緒にお辞儀した。
「いえいえ、そんなに畏まらないで下さい。息子のエリオットは学校には行ってないので友達が出来て喜んでいます」
「そうなのですか? 聞くところによると文字の読み書きも教えて下さっているようで、ご迷惑になってないでしょうか。何もお礼できなくて申し訳ありません。今日もラパンナでカトレットまで御馳走になったようで」
ラルフは、そうなのか? という視線をエリオットに向けた。
エリオットは小さく頷く。
「実はウィスが小さい頃、娘夫婦が輪廻の森に行った際、音信不通になってしまいまして、今は私一人で育てています。経済的な理由から学校にも行かせてやることが出来ず、娘夫婦にも申し訳ない気持ちでいました」
「輪廻の森……、たしかグレイズ王国の。なぜあのような場所に?」
「はい、娘夫婦はレンジャーをやっておりまして、四年前ラニエステル・グレイズ国王からの命で魔物の探査をしに行ったのですが、おそらく遭難したと思われます。この子には不憫な思いをさせてしまって金銭的余裕もなく学校に行けなかったのです。本当に感謝しています」
四年前、グレイズ国王からの命、ラルフは魔物の探査か捕獲のために二人は派遣されたと思惟した。そして、それはエリオットの存在が深く関わっていることも。感謝されたラルフの胸中は、逆に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「い、いえ。頭をお上げください。私たちは全然構いません。これからも遠慮なく我が家に勉強しに来て下さい」
「本当にありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますが、これで娘夫婦も浮かばれると思います」
カメルとウィスは再び一礼して、ラルフの家を後にした。
ラルフはその背中を見送る。勇者という存在の影響が身近に来ていることを再確認した。
翌朝もエリオットはラルフと剣の稽古をしていた。だがいつもの光景とは違っていた。ウィスが早朝からやってきたのだ。
ウィスは何か言いたそうだったので、ラルフは剣の稽古を止めた。
エリオットは話す切っ掛けになる様に柔らかく冗談を交えて問う。
「朝食を食べに来たの?」
「あの、私にも」ウィスはラルフを向いて一息溜めて述懐する。「私にも剣の使い方を教えて下さい!」
「剣?」
「わ、私も、両親みたいにレンジャーになりたいです。実は両親がレンジャーだったのは昨日初めて聞きました。そして輪廻の森に行きたいです。両親に何があったのか……、知りたいのです」
ラルフはその言葉に長考し、その後、微笑みながら答えた。
「いいよ。ただし輪廻の森に行っては駄目だ。それを約束してくれれば教えてあげる」
ラルフは恐らくウィスは輪廻の森に行くだろう。ただ彼女に対する贖罪になればとも考えた。輪廻の森には何かがある。勇者に覚醒したエリオットが随行すれば、解決の糸口にもなるかもしれない。そんな淡い期待をもって言葉にした。
ウィスは渋々その条件を飲んで了承した。
恐らく彼女の経済力では、一人でグレイズ王国には行けないと思った。エリオットが随行すれば叶うかもしれない。
そしてラルフは彼女の体型を見る。
「君は今、何歳?」
「今年で九歳です」
エリオットと同じだ。だが九歳にしては体型が小さすぎだ。筋力もなさそうだ。
「分かった。君にはレンジャーの素質があるか試してみる。今日は朝食をとった後、村の巡回があるから、それに付いてきてくれ」
「はい!」
「それから朝食と昼食は我が家で食べる事」
「えっ!?」
「身体を作るには食事が基本だ。今から君の御祖母さんに許可をもらってきなさい」
「私なんかが、お邪魔して良いんですか?」
その問いにラルフは笑顔で頷いた。
「じゃあ、今から聞いてきます」
ウィスは踵を返して走っていった。
ラルフは腰に手を当て、その嬉しそうな様子を見ていた。
果たして自分がやっている事が正解なのだろうか。ウィスが上手くエリオットを導く事が出来るのだろうか。未来はどう転ぶか分からない。ただウィスがエリオットの安定剤になれば。
エリオットとラルフが、家の門に立つ二人に気付くと、その初老の女性は深くお辞儀した。エリオットたち二人は剣の稽古を止め二人に近づく。
「どうしたの、ウィス」
「いかがなされましたか?」
エリオットとラルフはそれぞれ訊いた。
ウィスがその初老の女性の袖を引っ張る。
「私は、ウィスの祖母のカメル・リスティと申します。いつも孫がお世話になっていまして、挨拶に伺いました。遅くなり申し訳ありません」
カメルはもう一度、深々とお辞儀した。
「今日ウィスに、いつもどこに行っているのか問いただしたら、こちらに伺っている、と白状しまして、お礼に伺いました。ほらウィスも」
背中を押されたウィスは、カメルと一緒にお辞儀した。
「いえいえ、そんなに畏まらないで下さい。息子のエリオットは学校には行ってないので友達が出来て喜んでいます」
「そうなのですか? 聞くところによると文字の読み書きも教えて下さっているようで、ご迷惑になってないでしょうか。何もお礼できなくて申し訳ありません。今日もラパンナでカトレットまで御馳走になったようで」
ラルフは、そうなのか? という視線をエリオットに向けた。
エリオットは小さく頷く。
「実はウィスが小さい頃、娘夫婦が輪廻の森に行った際、音信不通になってしまいまして、今は私一人で育てています。経済的な理由から学校にも行かせてやることが出来ず、娘夫婦にも申し訳ない気持ちでいました」
「輪廻の森……、たしかグレイズ王国の。なぜあのような場所に?」
「はい、娘夫婦はレンジャーをやっておりまして、四年前ラニエステル・グレイズ国王からの命で魔物の探査をしに行ったのですが、おそらく遭難したと思われます。この子には不憫な思いをさせてしまって金銭的余裕もなく学校に行けなかったのです。本当に感謝しています」
四年前、グレイズ国王からの命、ラルフは魔物の探査か捕獲のために二人は派遣されたと思惟した。そして、それはエリオットの存在が深く関わっていることも。感謝されたラルフの胸中は、逆に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「い、いえ。頭をお上げください。私たちは全然構いません。これからも遠慮なく我が家に勉強しに来て下さい」
「本当にありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますが、これで娘夫婦も浮かばれると思います」
カメルとウィスは再び一礼して、ラルフの家を後にした。
ラルフはその背中を見送る。勇者という存在の影響が身近に来ていることを再確認した。
翌朝もエリオットはラルフと剣の稽古をしていた。だがいつもの光景とは違っていた。ウィスが早朝からやってきたのだ。
ウィスは何か言いたそうだったので、ラルフは剣の稽古を止めた。
エリオットは話す切っ掛けになる様に柔らかく冗談を交えて問う。
「朝食を食べに来たの?」
「あの、私にも」ウィスはラルフを向いて一息溜めて述懐する。「私にも剣の使い方を教えて下さい!」
「剣?」
「わ、私も、両親みたいにレンジャーになりたいです。実は両親がレンジャーだったのは昨日初めて聞きました。そして輪廻の森に行きたいです。両親に何があったのか……、知りたいのです」
ラルフはその言葉に長考し、その後、微笑みながら答えた。
「いいよ。ただし輪廻の森に行っては駄目だ。それを約束してくれれば教えてあげる」
ラルフは恐らくウィスは輪廻の森に行くだろう。ただ彼女に対する贖罪になればとも考えた。輪廻の森には何かがある。勇者に覚醒したエリオットが随行すれば、解決の糸口にもなるかもしれない。そんな淡い期待をもって言葉にした。
ウィスは渋々その条件を飲んで了承した。
恐らく彼女の経済力では、一人でグレイズ王国には行けないと思った。エリオットが随行すれば叶うかもしれない。
そしてラルフは彼女の体型を見る。
「君は今、何歳?」
「今年で九歳です」
エリオットと同じだ。だが九歳にしては体型が小さすぎだ。筋力もなさそうだ。
「分かった。君にはレンジャーの素質があるか試してみる。今日は朝食をとった後、村の巡回があるから、それに付いてきてくれ」
「はい!」
「それから朝食と昼食は我が家で食べる事」
「えっ!?」
「身体を作るには食事が基本だ。今から君の御祖母さんに許可をもらってきなさい」
「私なんかが、お邪魔して良いんですか?」
その問いにラルフは笑顔で頷いた。
「じゃあ、今から聞いてきます」
ウィスは踵を返して走っていった。
ラルフは腰に手を当て、その嬉しそうな様子を見ていた。
果たして自分がやっている事が正解なのだろうか。ウィスが上手くエリオットを導く事が出来るのだろうか。未来はどう転ぶか分からない。ただウィスがエリオットの安定剤になれば。
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