勇者が来る!!

北丘 淳士

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 クラーレが初めてウィスに会ったとき、彼女の手を握って底を覗き込んだが魔法の素質がなかった。
 クラーレは午前中に勉強、午後に魔法の練習と決め、午前中はウィスにも教育をほどこした。それはエリオットの人格形成にも大きな影響を及ぼした。

「今日はマナの変形放出の練習をしましょう。今までは体内でマナを循環させたり、とどめたりしていましたが、アトムを変化させ放出すると色々な用途に使えます。ですが基礎をしっかりと叩き込まないと自爆する可能性があります。マナで自然治癒力を活性化させ、回復する魔法を私は使えるので大丈夫ですけど、基礎ができるまでは一人で絶対やらないで下さい」
 クラーレとエリオット、ウィスは村のはずれにある平原に立つ。ウィスは口外しない約束のもと、見学と言って二人について行った。
 クラーレは人差し指を縦に立て、以前見せた火と風の応用魔法を見せた。
「以前見せた、これも放出系の一種です。これを指先に放出するのではなく、指に集中してやると指が大変な事になります。分かりますね」
 エリオットは頷く横で、ウィスは驚きの表情で見ていた。
 クラーレは一旦、指先の炎を消す。
「そしてこれに、さらにマナを注ぎ込んで放出すると……」
 クラーレは草の生えていない平原に、石でも投げる様に振りかぶって勢いよく右手を前に出すと、成人男性の頭ぐらいの火球が轟音と共に放たれた。そして火球は大地にぶつかり、爆風を伴った火花が激しく飛び散って燃え上がる。だが可燃物がなかったため炎はすぐに霧散してしまった。火球を投擲された大地は、少し赤みを残したまま融解していた。
「こんな感じです」
 特に何でも無いといった感じのクラーレに対し、エリオットとウィスは言葉も出ず、溶かされた大地に目が釘付けになっていた。
「今のは人差し指ではなく、片腕全体でマナを放出したのであの威力です。両手を使えば威力は倍増します。ハイクラスの魔法使いになると、身体全体で放出される方もいらっしゃいます。私はまだまだですが」
 我を取り戻したエリオットは、クラーレと同じように右手を振りかぶった。
 それを見たクラーレはエリオットに飛びつき、慌てて右手を制する。
「まだ早いです! 何回も言ってますが基礎が大切です。基礎が」
「あ、はい。すいません」
 安堵が混じった溜息をついてクラーレは手を離した。
「マナで大気を攪拌する理屈は、もう分かりますよね」
「はい」
「今から、そのマナを大気に放出する練習をします。まずは、いつもやっているマナの循環を私としましょう」
 クラーレは両手の人差し指をエリオットに向けた。
 その指にエリオットは自分の両人差し指を付ける。
 ウィスはその様子を不思議そうに見ていた。
 クラーレがマナを流すと、エリオットは自然と身体に循環させ彼女に返した。
「もう簡単ですね。それでは少しずつ指を離していきます。ですが今の状態をキープして下さい」
「えっ!」
 突然の注文に頓狂な声を上げたエリオットをよそに、クラーレは面から点、そしてついには指を離した。
 エリオットは思わずクラーレの指を離すまいと、ついて行こうとしたがクラーレは遠慮なく少しずつ離す。エリオットは思わず力を入れた。
「硬くならないで、自然に自然に」
 エリオットは目を瞑り、自然にマナを回すように努めた。左手からマナを吸収し右手で放つ。基本的な事に集中する。やがて左手からのマナが少なく感じ、右手から放出するマナが大きく感じた。そして目を開けると、クラーレは既に両指差しを出してすらいなく、腕を組んで笑顔でエリオットを見ていた。その笑顔にマナの流れが止まってしまった。
「うん、やっぱり筋がいいです。一発で出来てましたね。体内のマナを放出できていました。今度は断続的にマナを放出できるようやってみましょう。放出する止めるを繰り返します。ちょっと難しいですが、エリオット君ならすぐに出来ます」
 その日はエリオットのマナが尽きるまで練習が行われた。エリオットは疲弊し、その日の夕方も剣の稽古が出来なかった。

 日が昇り始めて剣の稽古を始め、朝食後はウィスと一緒に勉強をする。そして午後はエリオットのマナが尽きるまで魔法の練習をする。それが日課になって一週間が経った頃、午後の魔法の練習が終えてもマナが尽き無くなってきた。
「筋力の超快復と同じように、体内のマナの総量が増えた証拠です」
 そう、クラーレは説明した。
 エリオットはその実感が湧かなかったが、夕食前の剣の稽古やマナの放出速度の練習が出来ることに達成感を感じ始めていた。
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