出水探偵事務所の受難

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第四章・失律聖剣

5話 姫様の部屋と新たなる探偵の夜明け

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須郷はそろそろと部屋の中を移動した。そして、姫が寝ているベッドの枕元にそれがあるのを見つけると、そこに手を伸ばした。
 須郷が手に取ったのは、『ティアラ』である。大小さまざまな宝石が嵌め込まれたそれが、本物かどうか舐め回すようにじっくり調べ回すと、須郷はすぐさまそれを袋にしまいこみ、窓から飛び出した。
「やはり姫サマってのは特別なのか…?他の人間とは何か違うな」
 ここに潜入する途中で多くの人々を見てきたが、皆生気があった。だが、何故かベッドに寝ている姫サマにはそれがなかった。生気がない人間なんて死んでいる他にいない筈だが、呼吸によって胸がわずかに動いていたのを見ると、どうも姫サマは生きているらしい。
 …まぁどうでもいいか。誰にも見られないようにティアラをとってくる。それが俺の仕事だ。

「大変だ!」
「ど、どうした」
 本の世界にて、昨日から引き続き本を探していた出水達二人にリブラがそう叫ぶように言った。
「どーしたもこーしたもあるか!とにかくこっちにこい‼︎」
 リブラはそう捲し立てると、本の世界に引っ込んでいった。

 町娘風の服に着替えた二人は本の世界に入ると、辺りを見渡してリブラの姿を探した。
「こっちだ‼︎」
 その声に従いそこまで向かった二人に、リブラは海賊映画にあるような望遠鏡を差し出した。
「これであっちを見てみろ!」
 というわけで、リブラが指差した場所を見てみると、そこには多くの人がザワザワと集まり、何かを言い合っている。
「…つい先日の夜、この国のお姫様であるマリエッタの寝室からティアラが盗まれた。下の民衆はティアラを取り戻したらもらえる懸賞金についてはしゃぎあってる」
「それの何が問題なのよ」
「ティアラが盗まれるわけがないんだ。あのお姫様が住んでいる尖塔に、部外者が入ることなんてできるわけが無い」
「つまり…能力者か」
「そうだ。恐らく出水、お前が言っていた闇能力者の連中だ…!」
 リブラはそう言うと、焦りを滲ませながら下の民衆を睨みつけた。
「…なんでそんなに焦る必要があるんだ?ティアラが盗まれただけだろ。所詮創作物内で起こった出来事じゃないのか?」
「…この本の世界の今の時系列は、本の中の物語が終了した直後になっている。まぁ、能力の制約でそれ以外に出入りできないだけだとは思うが。そして今、『ティアラを誰かに盗まれる』という特筆すべき出来事が起こり、新たに本にページが追加された…」
「…まさか」
「そうだ。新たに始まったこの、『マリエッタと王子』の『シーズン2』が終わる直後まで、あのでかい本の扉は使えず、俺たちはこの本の世界に取り残されたままになる」
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